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 僕らは、何度か唇を重ねあった。

 こんなにも唇を重ねることが気持ちの良いことだとは僕は知らなかった。

 人間というのは誰から教わってこのような行為をするようになったのだろうか。【相手が好きである】ということを示す行動としてこれほどわかりやすいことはないだろう。人間という生き物は本当に賢い生き物だと僕は痛感した。


 しばらくして、彼女はまたがるのをやめて、僕の横に寝そべった。無言の時間が続いたが、僕はやはり気にしなかった。彼女は天井をずっと見つめていた。天井はまっしろで、新築のような感じがした。間違いなく新築なのだろう。

「ありがとう」

 ふいに彼女が僕に感謝の気持ちを述べるので僕は動揺して、一瞬体がヒクついた。

「なんでお礼を言うの?」

「君がいたからわたしは、生きていられる。Fが言ったことが本当であるならそうでしょ」

 Fは去り際に自らの計画を吐露していた。たしかにあの計画が本当であるならば、僕は彼女の心の支えになっていたということになる。

「わたし、みんなが死んでしまった時は、本当に世界が終わってしまったと思ったの。本当に辛くて辛くてしばらくずっと泣いていた。目の前がずっと涙でゆがんで見えなかった。呼吸をするのも辛かったわ」

 彼女は、僕の手を握った。

「でも、あなたが偶然私の前を通りかかって声をかけてくれた。いえ、今となっては偶然ではなくて必然だったのかもしれないけれど。わたしはあなたが声をかけてくれた時、すごく嬉しかった」

 僕は、彼女の手をすこしだけ強く握り返した。

「でも、とっても失礼な言葉を僕に言わなかったけ」

 僕は、あっけらかんとした。

「うるさい。内心はとっても嬉しかったんだから」

 彼女は、僕の足を蹴った。でもその蹴りはどこか優しいものだった。

「わたし、もう一度しんぷる教をつくる。でも、昔みたいなものじゃない。宗教じみたものじゃなくて、人々の役に立てるものにしたい。そうだな……たとえば会社とか」

 僕は、笑った。まさかこの子からそんな発想が生まれるとは思わなかったから。

「会社ね。いいんじゃないかな」

「あなた、簿記が得意だったわよね。あなたはCFOにしてあげる」

「はいはい」

 僕はとても幸せだと思った。自分のことを知ってくれる人がいる喜びを。自分のことを知りたいと思ってくれる人がいることを。

 人は、大概自分のことを話したがる生き物だ。それは、自分のことをもっと知ってほしいから。知ってほしいから話す。でも、裏返しに聞いている人は自分のことを話したいと思っているかもしれない。話したいと思うならお互いに話し会えばいいのだ。コミュニケーションというのは一方が一方的に話あっても成立しない。聞いてほしいなら、聞いて話すを繰り返せばいい。どちらかが聞いて、一方が話す。これを繰り返せばいい。


 こんな幸せが長く続けばいいと僕は思った。続けばいいと。

 

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