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僕は、電卓を叩いていた。
電卓を叩くというのは、決して壁や机に叩きつけているのではなく、電卓の数字のキーをカタカタと打っているということである。
あれから、しばらく平穏な日々が続いた。そして、僕も晴れて学年が一つ上に上がった。
彼女とはなんだかあれ以来よく遊ぶようになった。別に男女の中になったわけではない。キスとか手をつなぐとかそういう行為はしてない。ベットに入るなんてもってのほかだ。
カフェに行って、彼女の野望を僕はただただ聞く。そして、たまにカメラを片手に写真を撮りながら遊びにいくようになった(僕が一眼レフカメラを買った。物が増えるのは嫌だったけれど、きれいな写真を僕は撮ってみたくなったからだ)
僕が気にいっている写真は、いつものカフェで一緒にいるときに、カフェの外で車がぶつかった時に驚いて、カフェの外の方を向いた時に、シャッターを切った写真だ。人の自然な姿を写すのが僕は好きだった。
それから、僕は前以上に勉強に打ち込むようになった。だから今も勉強をしている。理由は簡単で、「就職活動」という大学生の代名詞的な舞台がそろそろ迫ってきたからだ。当然ながら僕は、就職活動は絶対に不利だと思っている。
友達も彼女のいない人間なんか、コミュニケーション能力がないと判断されるからだ。
だから、僕は少しでも有利になるように公認会計士の勉強をすることにした。前に、図書館であった学生が勉強しているという話を思い出したからだ。僕は電卓を打つのは好きな方だ。左手に電卓を置いて、右手でペンを持つ。一見すると世間的なセオリーを度外視にしたスタイルだが、簿記の勉強にはこれが一番適している。また、電卓を左手でうつことによって、いつもは使わないような脳みその部分をつかっているような気がするのだ。脳みその体操になって、自然と記憶力もあがる。どういう理屈かはしらないが、なにかしらの意味があるのかもしれない。
僕は、少しして冷静になった。
彼女は、彼女ではない。
彼女は、友達ではない。
では、彼女は何者だろうか。
それからそれから需要なことがもう一つ。
僕の不思議な能力も消えてしまったようだった。猫もしゃべらないし銅像もしゃべらない。「ブルー」と名付けたスマートフォンも自らしゃべったり、自ら検索したりはしなくなった。
何かの終わりを僕は感じた。そして、何かの始まりも僕は感じたのだ。
人は辛いことがあっても、楽しいことがあってもまた明日は来る。それを死ぬまで繰り返すのだ。どうやって生きるかは僕次第。
「ねぇ」
僕が、悟りを開いた話の妄想に浸っていると、僕の肩を叩く人物が現れた。彼女だった。
「暇?」
僕は、目の前に広がっているテキストと電卓を見つめた。暇ではないがキリは良かった。
「暇ではないけど、キリはいいかな。どうしたの?」
「ちょっと来てくれる?」




