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 ベンチに座っている男は、自分が過去に現れた経緯を僕らに話した。

「しかし、どうしてお前がいるんだ。確かに俺は、頭が悪い。頭が悪いから俺の友人と見間違えて俺は話しかけた。図書館に3分だけいたときに俺の友人と同じように電卓を叩いていた。だから、あいつかと思ったんだ」

 僕は、いきなりそんな話をされたものだから驚いた。そして、男は何かを悟るようにして喋り始めた。

「おまえが居るから、まだとなりにいる女教祖は生きているんだろう。俺は、バリアの空間の中では人を操って殺せはするが、直接手を下すことはできない。ナイフやピストルを使ってお前らを殺すことは俺はできない」

 彼女は、いつの間にか泣き止んでいた。(目は真っ赤であったが)男に向かって、ベロを出した。男は、下を向いた。

「俺は、あの集団自殺をきっかけとして、教祖が心神喪失を起こして、自殺に追い込む予定だった。しかし、お前が現れたおかげで事態はおかしくなった。というか、あの集団を使って大学の人間全員を皆殺しにする予定だった」

 僕は、恐ろしい計画を淡々と話すベンチに座る男を、ただただ見つめていた。

「なぜ、お前はあのフィールド中で自由にしているんだ。どうやったて俺はおまえを殺せなかった。自宅に人を送り込んでもお前はいなかった。何がおまえをそこまで生きさせるんだ」

 僕は、家のドアを叩く人物が現れた日のことを思い出した。動物的勘によって、玄関のドアを開けないで済んだ。開けていたらFの作戦の思い通りであったというわけか。

 しばらくの沈黙ののち、隣の彼女が口を開いた。

「ねぇ、あなたはどうやって過去に来たの。タイムマシンとかそれに相当するものをつかったわけ?」

 男は黙る。

「教えない。おまえらなんかに教えない」

「そう。じゃあ、質問を変えるわ。もしかして、あなた死ぬのかしら?」

 男は、目を一瞬大きく見開いて、目を閉じた。

「ああ。よくわかったな」

 僕もどうして、彼女がそう思ったのかはわからなかったが、Fの様子を見るようだと死が近いようだ。

「なんとなくよ」

「タイムリープの後遺症のようなものだ。あまり過去に居すぎると未来の俺は消滅してしまう。そして、俺は今現在帰る手段がない。嵌められたよ。友人だと思っていた人間は、俺に片道キップを渡したようだ」

 男は、さきほどまでの勢いを失い、肩をがっくりと落とした。

「滑稽ね」

 彼女は、冷たく言い放った。

「なんとでも言えばいい。どうせ俺は、スイーパーという大層な役割を与えられたが結局は歩兵だった。彼からしてみたらコマの一つでしかない」

 僕は、空を見上げた。薄暗い雲で空は覆われていた。これは雨が降りそうだ。

 男は、腕にしている時計を見た。よく見ると普通の時計ではない。黒い液晶に、緑色の蛍光色の数字が浮かびあがっていた。2と表示されていた。

「あと2分。この世に思い残したことはない。しかし、俺はこの後の未来が心配だ。結局未来は変わらない。君たちが世界をシンプルなものに作り替え、征服する」

 男は捨て台詞を吐いた。彼女は、男が座っているベンチの空いているスペースに勢い良く踏みつけるようにして足を置いた。

「その言い方、なんだか気に食わないわね。征服する?なんだか私たちが悪者みたいじゃない。ふざけるな。あんたらは、私の大事な大事な友人を殺した。アホも落武者も帰ってこない。私は、きっと未来でも彼らのことは忘れないし、彼らとともに生きるつもりよ。私からしたらあんたらの方が悪者よ」

 今にもキスをしてしまうんじゃないかという距離で、彼女はFに怒鳴り続けた。人によっては、このシュチュエーションは快感かもしれないとなぜか僕は思った。

「正義は……結局人の価値観でしかない。恋愛で価値観価値観価値観価値観と無限のごとく唱え続ける女の子は正直嫌いだけど、正義については価値観というものは当てはまっていると僕は思っているよ。ある人にとっては、それが正義の行為でも、違う人から見たら悪事にしか見えない。こればっかりは仕方ないよ」

 僕は、すらすらと声を出している自分に驚きつつも自分の考えを彼らに述べた。

「あんた、彼女とかいたの?友達はいないのに」

「いや、ネット掲示板の妄想」

「はいはい」

「おい」

 僕らが、仲良く?しゃべっていると男が間に入ってきた。

「痴話喧嘩の最中に悪いな。時間だ」

 男は、再度腕時計を確認した。

「悔しいが、俺の負けだ。だが絶対にあいつが、お前らを滅ぼしてくれると俺は信じている。おまえらなんてな」

 男が目をつむると、足元から砂になるようにして消えていった。

 僕らはその砂が風に舞っていく光景を見た。彼女は、大きく深呼吸をした。何か、憑き物がとれたかのように。



 

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