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僕らは、鼻水をかみすぎて鼻が赤くなった男から、Fが居そうな場所を聞き出すことに成功した。
「彼が、10年前のFということでいいんだよね?」
彼女は、僕に聞いてきた。僕は、「多分そうだと思う」と答えた。
顔も似ていたし、ミルクティーも飲んでいた。なんだか、チャラそうなところも似ていた。
「そういえば、ナンパされてたね」
僕は、すこしニヤけながら彼女に言葉を投げかけた
「あら。男がそういうことを女の子に聞いてくるのは、その子に気があるか、本当に起こった事象が気になったかの二択。そして、大抵は前者であることが多いと私は思っているわ」
彼女は、長いセリフを言ったのち、僕の方をみた。
「もしかして、妬いているのかしら?」
僕は、右手を顔の前でピシッと手の側面を彼女の方に向けて、左右に振った。
「ないです」
僕は、否定したつもりがなんだか、怪しい雰囲気になっているのがわかった。女の子というのはこういう人間なのだろうか。「恋は駆け引きである」という人生の理については、昔本で読んだことがあった。当時の純朴な僕にはわからなかったが、今となっては少しわかるような気がしてきた。
Fが好きな場所は、意外と近くにあった。大学から少し歩いた小高い丘だった。
この辺りは僕はあまり来たことはなかったが、確かに丘がそこにはあった。このくらいの高さになると意外と気がつかないものである。「意外」という言葉がよく似合う場所だった。
「ねぇ、ひょっとしてあれじゃない?」
丘の上に、ベンチが二つあって、その片方に肩を落とした男が一人座っていた。片手にミルクティーの紙パックを持って、ジャケットを着てスラックスを履いていた。
僕らは、恐る恐る近づいてみたが、近くにつれて、しだいに彼がFであることが僕にはわかった。
僕らが、近づいていくと彼が顔をあげてこちらを見た。
「やぁ」
なんだか、元気のなさそうな顔をしている。
「また会ったね」
「おひさしぶりでございます」
僕は、礼儀正しすぎるくらい礼儀正しい挨拶をした。Fは少し笑った。
「元気がないわね」
「ああ」
彼女は、Fに尋ねた。
「あなた、しんぷる教の集団自殺を引き起こした犯人ね」
彼女の目は真剣だった。
「そのことか。ああ。俺だよ。作戦は見事に成功だ。君はあれだろ。しんぷる教の教祖だろ」
作戦は成功したというのに彼の顔は浮かない顔をしていた。しかし、その言葉に彼女の何かが崩れたようだった。
目の前にいる元気のない男に、自分が大切にしてきたものを奪われてたことがようやく現実となったようだった。両目から涙がこぼれ落ち、しばらく止まりそうになかった。嗚咽交じりの鳴き声が、小高い丘に虚しく響いた。
「作戦は、成功。そうさ作戦は成功した。しかし」
男の目つきが少し変わっていくのに僕は、気づいた。
「想定外のことが目の前で起きている。そう、おまえだよ。少年」




