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それから僕は、静かに大学生活を満喫していた。僕の読み通り、大学は1ヶ月くらいで再開した。広場の前には献花台が設置されていたものの、そこには花束が一つ置かれていただけで、他にはなにも置かれていたなかった。気がつけば年も明けて2月になっていた。今年は暖冬と言われていて、雪は降りそうになかったものの、肌を突き刺す寒さは健在であった。僕は寒さとは裏腹に、毎日毎日灰色のマフラーが汗臭くなるまで巻いて大学に通った。
ただ唯一悲しい出来事が一つ起こった。ゼミの入室試験に失敗し、結局僕は友達を作る手立てを自らの手で失っていったのだった。
わたしは、行きつけの喫茶店で、昔の恋を思い出していた。わたしだって、恋をしたことはある。
高校生の時、すごい好きな男の子がいた。でも、男の子には別に好きな女の子がいた。私と男の子との仲はすごいよかった。私は友情関係以上に恋愛感情を抱いていた。でも彼にはそれ以上の感情を抱いていなかった。
よくわたしに彼は恋愛相談をしてきた。クラス一のマドンナに告白しようかずっと迷っていた。よく目があうんだよとか、廊下ですれ違ったら声をかけてくれるんだとか。わたしに、「彼女が僕のことがすきなんじゃないか」と自分が思った仕草を毎回聞いてきた。その度にわたしは「そうだと思うよ」と冷静に返してあげて、その度に彼はある種の自信が生まれていくようだった。
「わたしもよくやるよそういうの」
と、彼に返したこともある。本当にわたしは彼にそういうことをやったし、いろんなところで彼のことばかり見た。でも、なぜだかよくわからないけど、彼には伝わらなかった。その後しばらくして、彼はそのマドンナと付き合えることになったって彼本人から聞いた。わたしは、素直に「おめでとう」と言った。彼は、笑顔で「ありがとう」と返してきた。私はその笑顔がとても好きだったけど、その笑顔はわたしのためにはないのだなと思ったら少し悲しくなった。
そして、しばらくして彼はマドンナと別れた。3ヶ月くらいだ。どうやら、マドンナは顔だけだったらしい。顔が良い女の子はやっぱり、性格はアレなのかもしれない。
彼は、とても落ち込んでいたから、わたしは励ますために高校近くの喫茶店に呼んだ。彼は本当に落ち込んでいた。僕のなにが悪かったんだろう。僕に何か足りなかったんじゃないか。と自問自答するように私に聞いてきた。
私から見たら、彼に悪いところはない。足りないところもない。これは本当に面白いことである。マドンナにとっては足らぬ男でも、私にとっては十分な、十分すぎる男なのだ。
結局その日は彼の悩みを聞いただけで終わった。わたしは、確かに別れた直後ではあったけれど、少しくらい私に気が向かないかなと淡い期待をした。大変ひどい女かもしれないけれど、わたしはそんな女だった。別に、彼が別れた翌日からわたしと付き合ってもよかった。君は降られてから1日でも、わたしが君を好きになってからの期間はもっと長い。世間体はどうであれ、わたしは君に恋をしている。その事実だけは、まわりになんと言われようと、この恋が実るのであれば変わらないのだ。彼のすっきりしない背中で去りゆく姿を見ながらわたしは見送った。
そんな彼とは、高校卒業後は会っていない。建築家だか技術者になるとか言って、外国の大学に行ってしまった気がする。でも、その時に抱いた恋心は私は忘れてない。私の中には彼が生きている。その恋から色々なことを学ぶことができた。わたしはシンプルな物事が大好きだけど、いつまでたっても恋だけはシンプルにならないで複雑になっていく。どんなに世の中が、効率的で効果的なものとなっても、人間の恋愛感情だけはそうはならないんだろう。
いけない。恋などということにうつつを抜かしている暇はわたしになかった。わたしには、あの事件の真の首謀者を探す使命がある。しかし、わたしは「ま、いっか」といつものように納得したのだった。




