21
わたしは、顔を両手で覆ってベットに仰向けに寝ている。
この世の終わりとは、今日みたいな日を言うのかもしれない。
わたしにとっての全てが今日失われてしまった。わたしは、自らの手で失ったのではない。何者かの手によって奪われたのだ。
奪われてしまったからだろうか。わたしは自然と涙がでなかった。失ったら涙が出たのかもしれない。奪われたから涙が出ないのだ。
わたしの部屋の小さな窓から日差しが入ってきた。秋とはいえ、日差しが入ってくるとまだまだ暑かった。
わたしは、ベットの近くにおいてスマートフォンを手に取った。ニュースサイトで確認してみると、やはりわたしは奪われたのだと実感した。
わたしは、スマートフォンを元の位置に戻して、ベットから起き上がった。ベットを降り、冷蔵庫に向かった。冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出してコップに注いだ。とくとくという小刻みでテンポの良い音が部屋に響いた。そしてわたしは、コップに注いだミネラルウォーターを一気に飲み干した。
大学の休講を知らせる連絡が大学から届いた。きっと大学には報道陣がいっぱい居て、何人かの目立ちたがりの学生が、メールで大学から連絡が来ているにもかかわらず、わざわざ大学の掲示板に休講を確認しに行っていることだろう。わたしは、そんなことをする大学生がいると思うと少しばかり腹がたった。わたしのせいではない。
わたしは、気分転換に外に出てみようと思った。
わたしの家は、商店街のど真ん中にあった。わたしの家の下は八百屋で、毎日毎日「らっしゃい」という言葉が響いている。引っ越してきた初日くらいはうるさく感じたものだが、今となっては慣れっこさんであった。
気分転換に出てはみたものの、正直目は虚ろだった。焦点はさまよい、ただひたすら人を避けながらわたしは歩いた。魚屋、肉屋、電気屋、豆腐屋。商店街の中にはいろいろな店があるが、わたしはどれにも寄ったりなどはしなかった。
しばらく歩いていると、わたしは誰かにぶつかってしまった。わたしは小さな声で「ごめんなさい」とつぶやいて、なにもなかったかのように立ち去ろうとした。しかし、そのぶつかった人間はわたしの腕を掴んだ。
「あなたは確か……」
わたしは、わたしの腕を掴んだ人物の方を睨んだ。徐々に焦点が定まり、相手にピントがあって確認することができるようになると、わたしを掴んだのが男であることがわかった。
そして、その男とは会ったことがあった。今は亡き、落武者とアホとプロレスごっこをしている時に出くわした大学生だ。
「そうだそうだ。落武者みたいな人が僕の前に転がってきた時に、後から現れた女の子…‥だったよね」
わたしは、小さい声で「覚えてない」と言った。男は「そうかなぁ、人違いではない気がするけど」と言った。
「それはそうと、顔色が悪いけど平気なの?」
男は、わたしのことを心配しているようだった。わたしを心配してくれる人間がこの世にいることが驚きだった。しかし、次の瞬間、わたしは背筋が凍った。
「あのさ、しんぷる教って君が作ったんだろ。大学での事件は君が起こしたのかい?」
男は、強くわたしの腕を握った気がした(実際は、はじめに掴んだ時と強さは一緒である)
「違う…‥わたしじゃない……あれは、あれはきっと何かの罠よ。わたしは人殺しがしたくてあのサークルを作ったわけじゃないの。ただ、自分のシンプルな生き方を追求するために作ったサークルよ。なのに、なのに……」
わたしの目から自然と涙が流れた。わたしは、泣きたかった。本当は泣きたかった。でも泣けなかった。彼らは、泣きたくても泣けないのだから。




