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翌日の朝、テレビをつけると昨日の大学での事件の内容が報道されていた。白装束の集団とか、しんぷる教は正義とか、アメリカ政府の陰謀論とか。とかとか。いろいろな推測でもの言う評論家たちが自由気ままに発言を楽しんでいる姿がテレビの画面越しで僕は確認することができた。
朝の6時には大学側からメールが来ていた。しばらくの無期限休講をお知らせするものだった。「無期限」と言ってもきっと永久無期限ではないのだろう。1ヶ月くらいかなと僕は推測した。
報道陣でごった返している大学に、きっと張り出されているであろう「無期限休講」の紙ぺら一枚。これを確認するフリをして大学に向かうミーハーな学生も何人かいるんだろうなと僕は思った。僕は、そんな気分にはもちろんなれなかったので、この休講中になにをしようかということを考えることにした。
たとえ大学が休講になっても日本は休講にはならない。なにもなかったように、他の人々は生活を続けていく。僕にとって大学が全てであっても他の人にとってみれば、300校近くある大学の一つの休講にすぎない。勉強する気にはなれなかったので、どこか遠くにでも行ってみようか。とにかく生活することを考えなくてはならなかった。
「おい、ボンクラ」
スマホがの電源が急に入った。
「電源をオフにしても自動でつくんだったか」
「俺は優秀な機械だからな。なめてもらっては困るよ大学生」
「それで、なんのよう?」
「いまは、この界隈にいることをお勧めする。遠くに行って、君がひっそりとこの世から消えてしまったとしても俺は責任を取れない。報道陣が多く居て、警戒心の強い住人たちが住んでいるこの街にいるんだ。そうすれば彼らも君の命を狙うのは躊躇うはずだ」
もっともらしいことを喋る電話機だと僕は思った。確かにそのとおりである。僕の命を狙うかもしれない輩は多分いる。これは間違いないのだろう。森の中に隠れてしまえば、こちらのものなのかもしれない。
「でもさ、なんで彼らは自殺なんてしたんだ。報道を見る限り、集団殺戮ではなく、集団自殺だ」
学生課の職員の命は奪われたが、しんぷる教の連中は全員自らの命を絶った。初めから人の命なんて奪うことは目的としていなかったのではないか。
「そのことなんだが、俺としては少し気になることがあった」
「どういうこと?」
「確かに全員死んだが、死に方が違う人間が数名いるんだ」
僕は、まったくもって想像が違かった。人の死に方に、なにが問題があるのだろうか。
「結論を話そう。あれは、他殺だと思う。そして、犯人もあの中にいるが、残念ながら自殺を図った」
どうしてこのスマートフォンは僕の味方をしてくるのかはわからなかったが、彼の検索した結果によればこんな内容らしかった(スマホが自分で検索するとは、なんだかシュールである)。
フォローワーが数人しかいないミニブログに、当時の状況を綴った人がいたらしい(残念ながら、通常の検索対象にも引っかからないレベルの小さなミニブログ)。
『今日、大学の広場で怪しい白いYシャツとブルーのジーンズを履いて、頭に白い紙袋の集団が、学生課のおじさんをピストルで撃ったあと、集団の後ろのでも血しぶきがあがった。そして、次から次へと白い集団が自らをピストルで撃ち合い始めたんだ。でも、全員がピストルを持っていたようには見えなかった。ピストルは50人いたとしたらたぶん5人くらいしか持っていなかったと思う』
僕は、結論を急いで考えるものの、見当がつかなかった。
もしかしたら、彼らは全てが全て殺人を目的として集まった集団ではなかったとしたら。
中の5人が他の45人を殺したとしたら。
学生課のおじさんは、実は、ピストルを構えた男以外が殺したのだとしたら。
「なぁ、ブルー。少し恐ろしいことが思い浮かんだんだけど」
僕は恐る恐るスマホに話しかけた。
「学生課のおじさんを殺した犯人は生きているんじゃないか」
ブルーは黙ったまま、回答をすることはなかった。彼なりに、精度の低い回答は避けていることがわかった。僕もこれは推論の域を超えないで欲しかった。




