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幸いなことに、僕には話し相手が居た。

守衛室にいつも居座っている猫である。彼らは、お腹が空いたら守衛さんに可愛い声で近づき、猫缶をねだるのである。手法的には飲み屋街のキャッチのお姉さん達と大差はない。

今日も守衛室から少し離れた日陰に彼はいた。

僕は、いつものように彼の首筋を優しく撫でた。すると彼は、ごろごろと気持ちよさそうな鳴き声を出した。

「君は、なにを勘違いしているのだ」

僕は驚いた。さっきまで、可愛らしくごろごろと愛想を振りまいていた可愛らしい猫が急に人間の言葉を話してきたのだ。しかも内容的には説教の部類のものである。

「大学に入れたのは、君のおかげではなく、受験費用を出してくれたら親のおかげだ。今通えているのも、先人が残してくれた奨学金のおかげだ。そんなことにも気づけない君は、会社に入って出世ができないのを会社のせいにする人間だろう。仕事は君が作ったのではない。上司が作ってくれただけだ。何を勘違いしている。」

僕は、急にこの猫に対して怒りが込み上げてきた。しかし、怒りを冷静に分析したとしたら、それは図星ということである。そのことに気付けない自分の愚かさにその時は気付けていなかった。

「君がぼっちで、一人で電卓を叩いてるのは君のせいだ。君の見た目はいうほど悪くない。しゃべる内容も上から目線であることを除けば面白い。君は自信がない。それだけのことだ。さぁ。一歩を踏み出すのだ」

僕は、気がつけば猫の両前足の付け根の部分をがっちりとつかんで猫の顔を見ていた。猫は、「にゃあ」と可愛らしく鳴いて、その場をそそくさと去っていった。

猫は、喋らない。猫は喋らないのである。

僕は、自らに言い聞かせるように声に出しながら、その事実を確認した。

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