18
物語は突如として動いた。
ある日僕が大学に向かっていると、通学路に白いYシャツとブルーのジーズンを履いた男女が多く歩いていることに気づいた。たぶん、彼らは大学の人間であろう。Yシャツのメーカーやジーンズのメーカーまで一緒であった。僕も持っているが多分あれは日本で有名なファストファッションブランドの洋服である。
僕は、特段違和感は覚えなかったが、大学付近にいくとその集団たちが、校門を入って少し前にある噴水の横でたむろしていた。
彼は、丸いメガネをかけていたり、帽子をかぶったりはしているものの、皆同じ服装をしていた。10月という少々寒い季節にもかかわらず彼らは、コートなど着ていなかった。僕はその集団の横を通って、環境経営学の授業をやる教室に足早に向かった。
授業を終えて僕は、コーヒーを近くのコンビニに買いに行った。
最近のコンビニは、入れたてのコーヒーを飲めるようになった。僕はコーヒーが大好きだから、とてもうれしかった。ただ、コーヒーマシーンのボタンのRとLの表記が逆であった。もちろんこれは、ライトとレフトの表記ではない。レギュラーとラージだ。しかし、ボタン的には、Rが左にあってLが右にある。左から小さい、大きいの順にしたのだろう。このちょっとした違和感が、僕は気になるタイプだった。ヒューマンなんとかというデザイン分野の権威の人はどう思っているのだろうか。
僕は、いつものどおりラージサイズのコーヒーを買って、次の授業の教室を目指した。
会計監査論の講義が開かれる教室を目指して大学の広い芝生の上を歩いていると、またしても白いYシャツにブルーのジーンズを履いた集団に出くわした。彼らの手元には顔がすっぽり入ってしまいそうな白い紙袋を持っていた。僕は、そそくさと暖かいコーヒーを持ちながら歩いて通りすぎていった。
気がつけば僕は、暖かい蕎麦をすすりながら携帯をいじっていた。相変わらず会計監査論は意味不明だった。三様監査なる言葉が出てきた。三者三様と同一の話という認識で間違っていないと僕は自分に言い聞かせた。
食堂からさっきの広場を覗くと、白いYシャツに、ブルーのジーンズの集団が立っているのがわかった。人数にして50人規模に膨れ上がっていた。僕は驚きのあまり持っていた割り箸を床に落としてしまい、新しい割り箸を食堂のおばちゃんにもらいに行こうとして席を立った。
「すいません。割り箸を落としてしまったので、新しいのをいただけますか」
「あいよ」
おばちゃんは忙しそうだったが、僕もお腹が空いていた。おばちゃんはなんだか面倒くさそうに僕に割り箸をくれた。食事以外に無駄に使うアホな学生がいるのは重々承知しているが、割り箸くらいその辺に置いておいて欲しいものだ。
「僕たちは、しんぷる教である」
なにやら、大きい拡声器のようなものでしゃべっている声が僕の耳に飛んできた。まさかと思い、広場のほうへ目を向けると、やはりあの集団の一人が拡声器を片手に叫んでいた。
「僕たちは、しんぷる教である」
今度は別の人が叫んだ。
「この世はもっとシンプルであるべきである。大きい鞄に重くて値段の高い教科書を持ち歩くのが正しいのか」
「違う。もっとこの世はシンプルになるべきだ。もっとわかりやすく。ずる賢い人間の手に、世界は征服させない」
「私たちが正義だ」
その時だった。僕のスマホが震えた。画面を見ると「Blue」と出ていた。本人からのコールだった。
「おい。まずいぞ」
ブルーは焦っていた。
「このままだと恐ろしいことが起こる。いますぐ逃げるんだ」
「どうしたんだブルー」
「とある裏掲示板サイトの書き込みを見つけたんだ。そして、端的に言おう」
「なんだ」
「彼らは、これから集団虐殺ののち、自殺を図るつもりだ」




