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ちょっとしたオイルの匂いと、豆電球の光だけの場所。そこは、都会の喧騒とは無縁の田舎にあるガレージである。なんの意味があるのかはわからないが、男はゴーグルを頭につけていた。その昔、男が幼い時に見たアニメの主人公がゴーグルをつけていた。ゴーグルをつけた主人公は、彼にとってはヒーローそのものだったのだ。
男は、大きい筒状の機械の横に設置してあるパネルを操作した。ボタンをタッチするたびにピコピコと音がなった。男が、ジェスチャーをすると目の間の液晶が右へ左へと動いた。その姿はさながら魔法使いに見えた。
「こんばんは」
男のガレージにひとりの小さな女の子が訪ねてきた。
「こんばんは」
男は丁寧に挨拶をした。小さな女の子はニコッと笑ってガレージの中に入っていった。
「ねぇねぇ。今日は何をつくっているの?」
女の子はガレージの中にあるソファーに腰掛けて男に質問した。
「じつは、もう完成しているんだよ。これ。あとさっき、ちょっと試しに使ってみた」
女の子は「完成してるんだ!」と目を輝かせながら男の方をみた。しばらく、ソファーに座りながら足をバタバタさせて興奮していた。
「それでそれで!これは何ができるの!?」
女の子の興味は絶頂に達していた。
「これは、美味しいコーヒーが作れる機械なんだ」
男が説明すると、女の子の態度はあからさまに不満そうな態度に変わった。どうやら、女の子的にはウケがよくなかったようだ。男は、コーヒーをいるかい?と尋ねると、女の子は首を横に振った。「オレンジジュースが良いー」といった。女の子のわがままに対して、男は「はいはい」と言って冷蔵庫のあるほうへ向かった。
冷蔵庫から、昨日買ってきていた1リットルのオレンジジュースの紙パックの封を開け、グラスにオレンジジュースを注いだ。
男は、女の子のもとへオレンジジュースを運んで、グラスを渡した。「ありがとう」と男に言った後、女の子は一気にオレンジジュースを飲み干した。「やっぱ、オレンジジュースは一気飲みに限るよね!」とおじさんみたいな言葉を女の子は発していた。それを聞いた男は、少々苦笑いをしていたのだった。
しばらくして、女の子は騒ぎ疲れたのかソファーの上で寝てしまった。男は毛布を持ってきて、女の子にかぶせてあげた。すやすやと寝息をたてて気持ちよさそうに寝ている姿を見て、男はほっとしたようだった。
「この子が大人になる頃には、終わっているのだろうか。この意味のない戦いが。この戦いを終わらせるには、Fと過去の僕にかかっている。うだつの上がらなかった大学生の頃の僕。ずっと、電卓を叩いていた僕。僕を信じるしかない。僕ならやれるしやってくれるはずだ」




