14
僕は男と別れてから、もう一度大学に戻ることにした。
気がついたら、一限はとっくに終わっていたし、二限も始まったばかりだった。大学に入ったときに違和感を感じたこの時間の単位。高校までは一時間目と言ってたが、大学に入ったら一時限目と限界が加わった。大学の教授たちは体力がないから限界を使うのだと僕は納得していた。「限界がわしらにはあるんじゃよ若人よ!」
一日中大学内を彷徨ってみたが、しんぷる教の手がかりは見つからなかった。ふと思ったのがFだ。彼は未来から来たと言っていたが、泊まるところはあるのだろうか。もしかしたらマンスリーマンションでも借りたのかもしれない。
僕は途方にくれて帰ろうとしたときだった。僕の足元に人が転がってきた。正確に言えば、転がってきたというよりも投げ飛ばされて目の前に吹っ飛ばされてきたが正しい表現だろう。
目の前に倒れてきた人物は、ピクリとも動かなかった。僕は、とっさに膝をついて意識を確認した。
「大丈夫ですか」
なんだか、落武者みたいな髪型をした人だった。前髪は剃っているというよりもハゲているという表現が彼にはぴったりであった。
「だ、、ダメかもしれない・・・」
大変である。大抵は「大丈夫です」と大丈夫でなくとも気丈に振る舞うものだが、この人は違うらしい。
「おい、なにやってんだ」
大きな声で怒鳴り込んでくる輩がいるようだった。しかし、どうにもこの声は太くない。おそらく女性だ。
「あたしの、背負い投げになに瀕死の重症を負っているんだ。さぁ、立て!!」
僕の方に向かってその女性は勢い良く走ってきた。目の前で、くたばっていた落武者は、よろよろと重い体を、ぷるぷると震える膝に手をついて立ち上がった。その姿は、まるで生まれたての子羊のようだった。
しかし、子羊は立つ間もなく、勢い良くドロップキックをかまされ、再び、違う学生の前に飛ばされていったのだった。
僕の目の前に、小柄ではあるがとても可愛らしい顔立ちの女の子が立っていた。僕は女の子を間近で見たのは初めてだった。
「何見てんだよ」
可愛らしいのにもったいないほどに僕を睨みつけてきた。僕は、身震いがした。殺気だったその姿は、ファイターと呼ぶにふさわしかった。
その女性はまた落武者のような男のもとへゆっくりと歩いて向かっていった。むかし、テレビゲームでこのような光景を見たことがあった。サバイバルゲームで、追っ手はゆっくりゆっくり主人公を追い詰めていく。主人公の近くへ行くと強力なパンチを浴びせ、ふっとばす。そして、またゆっくりゆっくりと主人公の方へ向かうのだ。
なんだか面白い光景を見た僕は、ゆっくりと自宅に向かうのであった。




