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大学から数分歩いた路地に、喫茶店はあった。
男が、喫茶店の入り口のドアをあけると、ちりんちりんとどこからともなく鈴の音が鳴った。僕は続いて入店した。
「いらっしゃい。何名様?」
「2名です」
「こちらへどうぞ」
だいぶ小洒落喫茶店だった。喫茶店というのは、電話がなかった時代はよく待ち合わせの場所に使われていたと聞いたことがある。その古くからありそうな喫茶店だった。
「なるほどねぇ」
男は、顎に手を当てながらうなづいていた。僕は、うなづいている彼を見ながら頭をかいた。もしかしたら、変な人についてきてしまったのかもしれない。
「あの……。あなたは一体誰なんですか。どうして僕のことを知っているんですか」
僕は、率直な疑問をぶつけてみた。
「ん?ああ。ごめんごめん。自己紹介とか忘れてたね。僕は、あれだ。その……えっと……」
男は、天井を見ながら腕を組んで考え始めた。どうやら自己を表すのにぴったりの言葉が思い浮かばないらしい。しばらく考えてから彼は口を開いた。
「未来人」
ぱっと思いついたのだろう。彼は、僕に向けてしゃべるでもなく、ぽっと口から出たのだった。
「そう、俺は未来人だ。約10年後くらいからきた。で、どうして君を知っているかというと、10年後の友達だからだ」
普通の人間だったらこの話を聞いて、驚くのが普通だろう。今時未来から人がやってくるなんてSF小説でも書きはしない。もはやSF小説以外でも時空を超えて人がやってくるのが定番になっているからだ。
ただ、僕には腑に落ちないのだ。それは僕には友達はいない。今後もできる見込みがないと思っていたからだ。
「僕に友達などいない。それとも、将来僕には友達ができるのかい?君はそれを知っている人物なのだろうか」
「たくさんとは言えないが、信頼できる仲間が数人君の周りにいる。信じられないかもしれないけれど」
たしかに僕は信じられなかった。
「とにかくだ。俺は未来から来た。ありきたりな理由かもしれないが、未来が危ないんだ。しんぷる教が大きくなってしまって、世界が混沌としてしまっている。だから、俺は10年後からやってきた。でも、この喫茶店は、10年後も変わらない。マスターはもう少し年老いているがね」
彼は笑顔で話を締めくくった。なるほど。さきほど彼が頷いていたのはマスターを見てからだ。マスターが10年後も生きていると彼は知っていたからなのだ。全てが信用できるわけではないが、もしかしたら彼は本当に未来から来た未来人なのかもしれない。
「未来というのは過去があって初めてある。昨日は今日の過去。明日は今日の未来。10年先だろうが10年前だろうが、この現実は何かに影響するんだ」




