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63、初めましてと再会



2人は黙りこくって、目の前の人物を見つめる。

少女の方が口を開こうとした、次の瞬間、


「―――お久しぶりです、七緒さん」

「―――まさか同じ学校になるとはな」


七緒の隣にはロウが、少女の隣には、


「金髪ちゃん!?」


性転換した時に会った、金髪の天使が現れた。

天使はうやうやしくお辞儀をしながら、「カイナという名前を頂きました」と言った。


「カイナちゃん! カイナ! 可愛い名前! もう会えないんだと思ってたぁ」


途端にテンションが上がった七緒は、以前のように天使―――カイナに抱き付くと、ひょいっと持ち上げた。


「わっ、七緒さんっ」

「きゃあもう、カイナ、会えて嬉しい! わたし金髪ちゃん好きーーっ」


くるくると数回まわってから降ろしてやると、カイナの頬は真っ赤に染まっていた。


「はあっ、はあ……七緒さん、もう少し日本人らしい控えめな挨拶を……」

「ごめん、嬉しくてキャラじゃないことしちゃった」

「アホだろお前」


ロウに軽く足を蹴られ、七緒は後ろ頭をかいて照れ笑いをした。


「……カイナと、会ったことあるんだ?」


置いていかれていた少女の声に、三人はハッとなった。カイナが慌てたように言う。


「すみません。七緒さんの担当である彼が私の後輩なので、「挨拶」についていったのです」

「ふぅん…まあ、これではっきりしたな」

「じゃ、やっぱり、あなたもそうなんだね」


しばらくお互いを眺めあってから、思い出したように少女は自分を指差した。


「オレ、木吉マリオ。んで、今は木吉マリア。イタリアと日本のハーフで、朝日ヶ丘高校にいた」


ハーフ、と聞いて、彫の深い顔立ちと明るい瞳に納得がいった。

マリオという名前から「マリア」だなんて、安直だなあと思ってから、自分も似たようなものかと思いなおす。


「わたしは戸塚奈々子。今は七緒。夕陽ヶ丘…女子高等学校にいました」

「女子校にいたの」


そりゃ気の毒だなぁ、という顔をされ、苦笑する。せめてもの救いは、弟がいて、男子が苦手というわけではなかったことだ。


「木吉さんは」

「マリオ……じゃない、マリアでいいよ」

「マリア、は、寮には、入らないの?」

「入るも何も、そこは男子寮じゃん。それにオレ、一人暮らしなんだ」

「そうなの? 大変じゃない?」

「別に、たまに家事とか面倒だけど、食えないこたぁないし」

「そう……」

「おう……」


妙な沈黙が出来て、お互いうろうろと視線を彷徨わせる。が、昼休みという時間の制約を思い出したのか、マリアが挙手をした。


「えっと、整理していいか? オレは、五月の最初に男から女になって、ええと、」

「ナナでいいよ」

「ナナは、同じ日に、女から男になったわけだ。ここまでオッケー? オッケー」


自問自答して、目をつむって更に続ける。ぐるぐると歩きまわるのは、彼女の考える時の癖のようだ。



「つまりはオレもナナも16年前の同じ日、結構近い場所で生まれてた。まあだから、あんまり遠くに行きたくなくて同じ高校きたとしても辻褄は合うわけだ。だろ?」


マリアは視線で自らの天使に同意を求める。カイナは頷いた。


「そうですね。マリアも七緒さんも、あまり今の自宅から離れたくはないという理由でした。他の対象者のことや事が起こった範囲などはお教えすることができませんが、お2人の場合は同じ病院で生まれてますね」

「同じ病院!? まじかよ」


マリアはびっくりした顔で七緒を見て、七緒も同じ表情でマリアを見つめ返した。


「すごい偶然……」

「ちなみに七緒の方は予定日だったけど、マリアはちょっと早産だったらしいぜ。運悪いなあ」


メモ帳を読みながら淡々と喋るロウを、カイナがぽかんと殴った。


「こら! 求められた以外のこと喋るんじゃありません。運が悪いとかも言ってはいけないことですよ」

「お前ね、すぐに手がでる天使もどうかと思うぞ!」


運が悪い発言にムッときたらしいマリアも、天使たちのやり取りに毒気を抜かれたのか、驚いたように彼らを眺めている。


「大体ですね、君は天使だという自覚が……」

「ああもう、だから嫌だったんだよお前と会うのッ」


ロウが悲鳴をあげ、でてきた時と同じように唐突に消える。


「あっ! ……もう! すみません、お2人とも。私はロウと少し話をしなくてはなりません、では」


そう言い残して、カイナもロウの後を追うように―――実際追ったのだろうが―――かき消えた。

残された人間2人は、今の出来ごとをなんと言ったらいいのかわからず、茫然とする。


「……カイナ、いつもはもう少し落ち着いてるんだけど」

「一応うちのロウもだよ。でも、やっぱり懐かしい顔を見るとはしゃいじゃうんじゃないかな……天使も」

「つーか、天使に先輩後輩とかあったんだな」

「わたしもそれ思ったよ……」


気を取り直して、とマリアが向き直ったので、七緒も姿勢を正す。


「ドコ中出身?」

「朝日ヶ丘第二中」

「うわ、ほんとに近い。オレ、三中!」

「そうだね……マリアが行ってた朝高も、私が受験して落っこちたところだもん」


もしも七緒が受験に受かっていたら、同じクラスとかになっていたかもしれない。そう思うと、いきなり親近感が湧いてきた。

それはマリアも同じのようで、ふわりと笑みをこぼした。それがあんまり綺麗で、思わず元・女である七緒も見とれてしまった。圭介が騒いでいたのもわかる気がする。


―――でも、中身は男の子なんだよなぁ……


まあ圭介のアレは単なる興味本位だろうけど、ちょっと気の毒かもしれない。


「まあ、綺麗な男の子でも綺麗な女の子でもそう変わらないよね」

「……何の話?」


うっかり口に出していたようで、怪訝な顔のマリアに覗きこまれて、七緒はこれまたうっかり、何故あのとき廊下にいたのか喋ってしまった。


「あ、いや、圭介が、ええと友達が、あなたのこと「美人の転校生が来たー」って騒いでて。さっきすれ違ったでしょう、あれはあなたを見に行ったの。あ……気分悪くしたらごめんね」


途中から眉根を寄せていたマリアに気付き、慌てて七緒は謝った。しかし、彼女が気にしたのはそこではなかったらしい。


「あんた……友達、いるんだ」


え、と声を出すと、マリアは困ったような顔で首を振った。


「あ、ごめん。友達いなさそうってことじゃなくってさ、オレ、女になってから、女の友達ができねーんだよ。男友達は超できたけど」


言われてみれば、先程彼女の周りにいたのは男子生徒ばかりだった気がする。


「あーごめん、いきなりこんな話。言うほど困ってもないんだけどさ、これだったら男のときの方が女友達いたからなんかちょっと変な感じで。女子だったんなら、なんかわかんないかなって」

「いいんだよ! だってわたしもあなたに聞いてみたいこととかあるし……」

「あ、アドレス。ケータイ持ってる? 交換しとこうぜ」


お互いのアドレスを交換したとき、キンコロカンコロと予鈴が鳴った。慌てて校舎へ向かう。マリアはともかく、七緒は4階まで上がらなくてはならないのだ。


「じゃあね! メールして」

「ああ、また!」


酷く慌ただしい出会いだったけれど、と七緒は走りながら思った。



―――これは、嬉しい




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