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閑話


「なーなーラファエル」


直哉が唐突に声をあげた。


「……なんだよ」


未だに彼は、赤城以外に名前を呼ばれると嫌な顔をする。七緒が呼ぶ時も、思い出しいたように「名前で呼ぶなよ」と噛みつくのだ。上手く流されてしまうが。


「あだ名ってどうやってつけんの? あだ名っつか、あるじゃん、キャサリンのことケイトとか言うような。お前の名前だと、どうなんの?」


不意をつかれたように、ラファエルは困った顔をした。


「……俺、ドイツ行ったことないし。つか、なんでそんなこと言うんだ」

「だって、ラファエルって言うと怒るから、でもいちいちシュタイネルって呼ぶのも面倒だから。あだ名つけにくい名前なんだもん、お前」

けろりと言う直哉に、そばにいた由良も竜平も便乗した。


「そうそう、噛みそうになるんだよなあ、俺、カタカナ弱いから」

「そういや、どういうスペルなの? あっ、ドイツって英語じゃないんだっけか?」

「アール、エー、エフ、エー、イー、エル。ドイツはドイツ語だろ。確かアルファベット使うけど。」

「で? なんていうわけ、短縮系は」


話をそらすなよ、とばかりに、直哉が問いかけて来るので、あからさまに嫌そうな顔でラファエルは答えた。


「レイフとか…あと、ラフィとかラフとか、だと思うけど」

「ラフィ可愛くね? らーふぃー。」

「レイフはかっこいいわ」

「はいはい、ラフに一票! ラフって、笑顔のことでしょ!」


にこにこと手をあげた七緒の頭を、ラファエルが軽く殴る。直哉たちは、「バカだなあ」という顔を向けた。


「いたっ、な、なに!」

「それは却下!!」


耳まで真っ赤にしたラファエルに気付かないまま、七緒は「なんでよぅ、可愛いじゃんかあああ」と頭をさすりながら愚痴る。


「ナナって案外学習しないっつか……」


ラファエルも照れ屋すぎやしないか、とは口に出さず、ブツブツ呟く七緒を撫でてやる由良。直哉が未だに「その中でなんて呼んで欲しいー」なんて攻め続けているので、代わりに慰めているのだ。


「いいもん、おれはラファエルくんって呼ぶから……」

「お前ならあいつも許してるっつーか、もう諦めてるんじゃない?」

「そうだよねぇ、もうずっと勝手に呼んでるからねえ……このままでいいか」


口さえ開かなければ、彼は本当に癒しの天使といっても過言ではない容姿なので、ぴったりなのになあともったなく思う。


「はい、じゃあお前今からラフィ! レイフも捨てがたいんだけどなあ、ラフィのが似合うし!」


にっこにっこと嫌味なく宣言する直哉に、どっと疲れを感じるラファエル。某2年生も図々しくて強引だが、直哉のように純粋にやられると、口の挟みようがない。


「ラフィー」竜平が笑顔で言う。

「ラフィ」由良は口元に両手をあてて言う。

「ラーフィー」直哉は変に伸ばして言う。


「連呼すんじゃねえ!!」


「ラファエルくーん」七緒も便乗すると、赤かった少年の頬が、更に赤くなった。

「お前はそのままなのかよ!」


そう突っ込んだところに、同じく一年の加賀と飯島がはいってきて、不思議そうな顔でラファエルを見た。


「あっ、なあ2人とも、今日からこいつのことラフィって呼ぶから! 呼んでみ、呼んでみ?」

「ラファエル、でラフィか。いいなあ。ラフィー」

「ラフィくーん」


空気を読みとったのか、2人して笑顔で彼を呼ぶ。


「っ、わざわざ呼ぶな!」

「ひゃあ!」


噛みつく勢いのラファエルに驚き、加賀は飯島の後ろに隠れた。飯島はといえば、「そんな顔で怒られても怖くねえよーう」と笑っている。


「あとアサとーぐっちとー博之とーイワとー五十嵐でしょー、それからテツにも教えとかなきゃ」

「広めんなや!」

「ラファエルくんにはツッコミの才能があると見た」


わやわやと騒ぐ一年生集団の端っこで、真顔で言う七緒と、それに頷く由良だった。


「そういやナナってさ、ひとのこと基本「くん」付けで呼ぶよな。戸野橋くんとか由良くんとか……あだ名で呼ばないね?」

「名前呼びになっただけでも良いと思ってよ……おれほんとはちょっと人見知りだもん。別にトノくんって呼んでもいいけどさあ」

「そのわりに、ナオとは前からの知り合いみたいな感じだったけど」

「だってナオはさぁ、なんか……違うじゃん。人見知りの対象になんないじゃん。あと、中学のときの友達に雰囲気が似てるから」


だからなんとなく親しみやすかったのだという七緒に、ふうんと由良は目を細めて見せた。


「じゃあ、まだ俺には人見知りしてんだねぇ。別にいいけど」

「えっ。そんなことないよ! 由良くんのこと好きだよ!」

「ほんと?」

「ほんと! 由良くん一番優しいもん」


そういうと、何故だかラファエルに絡んでいた直哉が、「えーーっ」と声をあげた。


「何言ってんのナナ! オレでしょ、一番優しいの!」

「えー、一番は由良くんだよ。この前おれにようかんくれたもん」

「え、理由ソレなんだ?」

「トノてめぇ餌付けすんな!!」


餌付けしたつもりねーよ、俺も予想外だったもん! と言いかえす由良の隣で、七緒は次々名前をあげていく。


「次に優しいのが加賀くんでぇ、次がテツくんでぇ、」

「ちょっと待てよ、ケンちゃんは良いけど、なんでオレよりテツのが先に名前出んの!?」

「だってテツくん優しいもん。たっぺーくんとかナオは、面倒見いいってイメージのが先行するからかなぁ」

「あのー、俺とか名前でてないんだけどなー。寂しいんだけど」

「飯島くんは面白いの」

「ならいいや」

「いいの!?」

「ラファエルくんは可愛いの」

「うっせー!!」

「ラフィ怒るな、お前どうしても可愛いから」

「しね!!」


それからなぜか、その場にいなかった他の一年生たちも含めて、あだ名つけちゃおう企画が始まったのだった。



余談だが、食堂から一番近い部屋―――赤城の部屋―――で宿題をしていた藤枝が、舌打ちと共に呟いた。


「1年うるせえな」

「……仲良きことは美し…うつく…うちゅ……?」

「ぎゃはははは、クロ、お前ナオと同じレベルだぞ! 受験生なのに!」

「キノコ……現国で何点だったんだっけ?」

「アカぁ、クロがいじめる!」


葵がいないとこれっぽっちも集中しないなぁ、と赤城はため息をついた。



53話の後半あたり。

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