閑話
「ナナって女っぽいよな」
「うん」
目の前で、遠慮なくなされた会話に、がーん、と頭を殴られた気がした。
マンガだったら、背景にベタフラが光っているだろう。
転校2日目にしてそんなことを言われるとは思ってもみなかった。
「お、お、お、おれのどこが女っぽいの! ちゃんと「おれ」って言ってるじゃない!」
「ほらそれそれ、語尾よ語尾。「じゃない!」ってお前」
圭介が笑う。栄人は同意はしなかったが、明らかに目が笑っている。
「ひどいー! おれっ、男らしいつもりなんだけど」
「えっ、うそやろ」
「なんで関西弁よ! ちょっ、もう、真面目に驚いた顔しないでよお!」
「ほらまた「しないでよお!」って」
真似しているつもりなのか、声が高い。それがまた似ていたものだから、ついに栄人もポーカーフェイスを崩した。
「ふははっ、圭介似てる」
「似・て・な・い!」
ぷう、と頬をふくらませる七緒。
「(うちの妹もよくああするよな…)」
小学生の妹を思い浮かべて、さらに笑ってしまう栄人だった。
「おーい、圭介」
わいわいと談笑してるなかで、圭介にお呼びがかかった。
「昼さあ、お前今日どーすんの?」
「うーん、今日もハチたちと食べるわ」
おっけい、と男子生徒は言うと、さっさと自分たちのグループに戻って行く。
七緒の怪訝な表情に気がついたのか、圭介が説明する。
「オレ別に、いつもハチと食ってるわけじゃないんだ」
「そうなの? 仲良さそうに見えたから、そうなんだとばかり」
昨日も一緒に食堂まで行ってくれたし、2人は当たり前のようについてきてくれたから、てっきりいつも共に行動しているのだと思っていた。
「こいつはアレだ、スナフキンみたいな…いや、それじゃかっこよすぎだな。どこにでも現れて誰とでも付き合える奴なんだよ」
「ハチさん、後半良いとして、前半…いいじゃないか、オレ、スナフキン」
「だめだよお、スナフキンはおれの初恋なんだから、圭介なんかじゃ……あっ」
英人と圭介のものすごい表情に、「しまった」と思う七緒。
「……問題発言だと思うよ俺それは」
「いやあのタンマ、憧れっていう意味だから気にしないで」
「ちなみにオレ、初恋はうさぎちゃんだよ」
「あっ、でもちょっとわかるわー! うさぎちゃん可愛いよねえ! おれはまこちゃんが好きでぇー」
「ちょちょちょ待って、俺だけついていけてないんですけども。何の話してんの?」
「わかんない? 月に代わって!」
「おしおきよ!」
「わかったけどポーズとるな2人してポーズとるな! あれ女の子が見るやつだろ! ナナはともかく圭介まで何見てんだよ!」
「面白くてさあ」
「あれ最終回泣くよねえ」
「泣く泣くー。あの、なんだっけ、外部の…太陽系外部? の3人が…」
「ああっ、そうそう! はるかさんとみちるさんの最後とかね!」
「だよねえ! あの2人まじ百合ー」
「百合?」
「あ、知らないならいいんだけど。オレもうなんだっけ、セイヤくん? が可哀そうで可哀そうで…」
よく知らないアニメかマンガだかの話で、蚊帳の外になった栄人は、しらけた表情で言った。
「…どうでもいいけど圭介、お前ナナの喋り方うつってんぞ」
「まじかよ!」
「どっちの台詞かわからねえもん」
「え、何が不満? おれの喋り方の何が不満!」
だいぶ仲良くなった3人だった。