表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/108

閑話


「どうだったー」



食堂に戻ると、おっかさんの他にも、葵と雪弥がまだ残っていた。


「見て下さい、完食ですー」


綺麗になった茶碗を見せる七緒は、そのまま食卓についた。


「どう? って聞いたら「普通」って言ってもらいました。あと、お粥初めて食べるーみたいなこともちょっと言ってました。あと、人が食ってる時に喋んなってのと、人の部屋じろじろ見るなーって」


嬉しそうに報告する七緒。なんだか周りに花が散って見えるなあ、と雪弥は苦笑した。


「ほんと? 良かった、ナナちゃんとは割と喋れるのかな」


おっかさんがほっとしたように息をつく。その隣で、葵も微笑を浮かべた。

もう入寮から一カ月近く経つのに、全く馴染もうとしないラファエルを、彼も心配していたのだ。


「じゃあ食器洗ってくるよ」

「あ、手伝います」

「ううん、あとこれだけだからいいよ。座ってなさい」


立ち上がりかけた七緒を制し、おっかさんは台所へ入って行った。


「シュタイネルって苗字なのか名前なのかわかんなくてー、どっち、って聞いたら、そんなのもわかんねえのか的な顔されちゃいました」


そう七緒が言うと、おっかさんが顔だけ出入り口から出して、説明してくれた。


「ご両親がドイツの方なんだよ。まあ、生まれも育ちも日本らしいんだけど。可愛い子だろ」

「ですねー。おれより小柄でしたよう。美人だし」


葵は、お花畑組(葵の中で、この2人は頭がお花畑なのだ、という認識だったりする)のシュタイネルの評価に呆れて、忠告した。


「おっかさんもナナも、可愛いとか美人とか…あいつも男なんだからさあ、可愛いとか言うと絶対怒るぜ?」


すでにおっかさんは顔を引っ込めているので、七緒に向き直る。

一見「かわいこちゃん」なシュタイネルは、けれど、怒らせるととても怖いのだと言い募ろうとした、とき。


「オレあいつ割とタイプなんだよねー、見た目…痛っ」


黙っていた雪弥が、いつものにやにや顔で割り込んできた。

葵が無言で蹴飛ばすと、恨めしげに口を尖らせる。


「見た目はねって話だよ! シュタイネルって毒舌じゃないすか、オレ、初日に結構酷いこと言われたんすよ。絶対零度の瞳で睨まれてぇ」

「それはお前が初対面でナンパするからだろ! あの時周りにいた1年、どん引きしてたかんな」


第一印象がそんなだったので、1年生たちは割とあっさり「バイだけど、よろ!」なんて挨拶する雪弥を受け入れていたのだが。



「そういや、おれ、アオさんの言ってた「ばい」ってのが未だにわからないんですけど」



ぽつりと七緒がそんなことを言ったので、葵はぎょっとした。


「えっ?」


葵だけでなく雪弥も目を見開いて、驚いた顔になる。

驚かれて、逆に七緒も驚く。


「ええ? なんですか?」


「いや……ナナちゃん、キミもう…」

「うーんと…」


脱力しきる葵と雪弥は、顔を見合わせて噴き出した。


「天然コエー」

「まじコエー」

「えー? なんですかったらぁ! なんで笑ってんですか?」

「ホモならわかる?」

「あれでしょ、理科で習う、ホモ接合体? とかなんとか……だからなんで笑うんですか!?」

「別に知らなくても生きていけるよ」

「あ、クラスメイトとか、友達とかに無暗に聞くなよ? 「え、何コイツ」って思われるから」

「えーーっ?」



気になるなあ、なんて文句を言う七緒は、密かに、部屋に戻ったら辞書で調べてみよう、と思った。





―――結局、その後の出来事によって、辞書を開くのは忘れてしまったが。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ