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17、やきもち

「ナナーっ!」


お昼休みになると、早速直哉が飛んできた。


「ナオ! 会いたかった!」

「ナナーっ……ってなんでやねん!」


がし、と抱き合ってから、直哉は思い切り突っ込む。

そうしてから、クラス中の注目を集めていることに気が付き、赤面して七緒から離れた。

そうだった、ここは寮ではないのだ。


「馬鹿ナナっ! 変な芝居さすな!」

「えー、ナオも思いっ切りノリツッコミしたじゃない!」


理不尽な、と眉間に皺を寄せるルームメイトは無視し、直哉は辺りを見渡す。


「で、おい、ナナ。友達は出来たか。寂しくなかったか」

「保護者か!」


七緒につっこまれつつも、目ざとく、近くにいた圭介と栄人に目をとめた。二人して、七緒たちのハイテンションなやりとりに目を丸くしている。

彼らがそうか、と目線で問いかけてくる直哉に、七緒はふわりと笑ってみせる。


「うん。全然、寂しくなかったよ!」


そう言われるとこっちが寂しいけれど、友達が出来たのはいいことだ、と直哉も笑顔になった。


七緒が見かけによらず社交的なのを、出会った初日には気付いていた。


「(警戒しないというか、意外と大胆だし、かと思えばぼーっとしてるし。みんなとすぐ打ち解けてたな)」


けれど、と思う。


―――ナナと一番仲良いの、俺だもんね


その、妙な自信が、直哉に余裕を持たせていた。


「えーと、ナナ。そいつがさっき言ってたルームメイト?」


栄人に比べて早く立ち直った圭介が、上手く話に入ってきた。


「うん。あのね、えっとね、この子はルームメイトのナオ! ……あれ、苗字なんだっけ」

「おいこら! 一緒に暮らして三日目だぞ! しかもナオってあだ名だから!」


信じらんねえと言いたげな表情の直哉は、仕方なく自己紹介をした。


「俺は5組の渡辺 直哉」

「オレは明石 圭介。こっちは中村 栄人。ナナとお友達になりましたー」


軽い調子で圭介が返すと、お互い似た雰囲気を感じたのか、きゃらきゃらと盛り上がり始めた。

栄人と七緒は、顔を見合わせる。


「…ナナ、もし、そのまま食堂で食べるのなら、俺もついて行っていい?」

「いいの? ナオは今日中に校舎内全部回るって言ってたから、時間かかるけど」

「いいよ、食べるのはやいから。じゃあそうと決まれば行こうぜ」

「うん! ハチ優しいー」


教室をでたところで、ようやく他の二人も追い付いてきた。


「勝手に行くなよ、ナナ!」

「ハチお前っ、なんで行くの!」

「は? 食堂行くから一緒にいくんだよ。圭介、お前は同じ部活の奴らと、弁当だろう?」


きょとん、と素で返してくる栄人に、ぐっと詰まってから、圭介は踵を返した。


「すぐ弁当持って追い付くからな! 顔を洗って待ってろ!」

「…首、だよねえ」


七緒が呆れた風に呟いたが、栄人は「言ってやるな」とその肩に手を置いたのだった。



「ここが視聴覚室。で、あっちが第3体育館。学年集会は大体この体育館を使うな」

「へえー。体育館たくさんあるんだね」

「ああ、うちは運動部が結構ハバきかせてるからな。装備も部室もすごいし…。

あ、ここは第二音楽室。部活と選択でしか使わないけど、俺らの組の掃除担当区域だから憶えといた方がいいぞ」

「うん、わかった。迷路みたいだねえ」


「誰でも最初はそう思うさ。あっちを増築、こっちを増築の繰り返しだったらしいぜ。

 まあ心配しなくとも、慣れるまでは俺についてきてればいいよ」

「そうする。助かるよ、ハチ」

「いいって。ナナハチのよしみさ」


なんて優しい子! と七緒が栄人と腕を絡ませるのを見て、後ろにいた直哉は目を細めた。


「…なんか…あいつばっかりが説明してる気がするぅ…」

「そうは言っても、ナオ君や。君よりハチの説明のが滑らかだから致し方あるまい」


フォローにならないフォローをする圭介に、唇を尖らせて見せる。

ほんの数分前に初めて喋った割に、二人は打ち解けていた。

そして同じくらい、七緒と栄人も打ち解けていたのだ。


「俺が! 俺が案内するって約束してたのにさ! 中村め、俺もハチって呼んでやる」

「男の嫉妬は見苦しいぜ、ナオ」

「別に、嫉妬じゃねーよ……だってあいつら、今日会ったんだろ。なのに、三日前に会った俺より仲良さげなんだもん。せっかく弟分ができたのに」


それを嫉妬というんだ、と圭介は苦笑した。


「…ナナがさ、お前のことなんて言ってたか教えてやろうか」

「え? ああ、さっきなんか俺のこと言ってたって言ったよな。何?」


「可愛い弟ができたみたいだ、って、すごく、嬉しそうに」


圭介はもちろん、「お前のがナナと仲良いよ、おんなじこと思い合ってんじゃん」的な意味で言ったのだが、直哉はそうはとらなかったらしい。

こげ茶色の瞳が、まん丸に見開く。

七緒に弟分ととられたことが、なぜだか、妙にむかついた。


―――だって、俺のが、しっかりしてるじゃんか!


「てめー、俺が兄貴に決まってんだろー!」

「わっ、何、いきなり」


背後から首を絞めるように抱きつかれ、七緒は赤面して抗う。

が、例え男になろうとも、三年間帰宅部だった七緒と、陸上部で鍛えていた直哉では、力も体力も段違いである。


「ううっ、ハチぃ、ナオがいじめる!」


七緒の悲鳴に、直哉は力を緩めた。

栄人に助けを求めたのが、なんだかすごく、面白くない。


「ほら、早く行こうぜ」


助けようとはしていたらしいが、七緒が解放されるのを見るや否や、栄人は背を向けて進み始めた。

跳ねるようにして栄人の隣まで走った七緒は、ちらりと直哉を振り向く。


「(なんだったんだろう、兄貴とかなんとか…)」


わかっていない七緒だった。



「……機嫌なおしなさいな、ナオくん」


校舎案内の間中、むっつりしていた直哉(結局説明は全て栄人に任せた)は、圭介の呆れた表情をみて、さらにむっつりした。

席取りを任せられた二人は騒がしい食堂の端っこで、大人しく座っている。


「弟? 俺が? ナナの方が子供っぽいじゃんかよ」

「いや、この数十分間は確かにナオのがガキ臭かった。そういうとこにこだわってんのも子供。

それにオレ、そーゆー意味で言ったんじゃねえのよ? ナナ、お前のこと頼りにしてると思うって意味で」

「……寮の勝手を教えてやったのも、荷物整理手伝ったのも、俺だもん。頼りにしてるんだったら、普通、兄ちゃんみたいだって思うだろ」

「それはルームメイトとして当たり前の親切じゃねえか?

家族ぐらい親しい、みたいな意味でさー、弟って言ったんじゃないの? ナオ、割と子供っぽいしー」

「うう……さてはお前俺のこと嫌いか!」


「何騒いでるの」


ぽこんと頭にお盆をあてられ、直哉はゆっくりと振り向いた。

七緒の笑顔には、なんの含みもない。


「はい、ナオの親子丼。あんまり騒いじゃだめだよ、他の人にも迷惑かかるからね」

「…………」


無言で昼食を受け取る。これじゃ、こっちが弟分だと思われても仕方ない。

圭介の、可哀そうなものをみるかのような視線が痛い。

隣に置かれたトレイを見ると、サンドイッチしか乗っていなかった。


「ナナ、それだけか? だめだぞ、成長期なんだから、もっとがっつり食わなきゃ」


ここぞとばかりに兄貴面してみせるが、あっさり


「うーん、おれ、朝ちゃんと食べるタイプだから、昼は多くなくてすむんだよね」


と返された。素でそんなふうに言われてしまうと、言い返せない。

言い訳じみた表情で圭介を見やるが、


「ほらよ、圭介。餌だ」

「ハチひでえ! 普通に渡せよ」


あっちはあっちで、なんだか可哀そうな会話だったので、大人しく「いただきます」と手を合わせた。



予鈴が鳴り、渡り廊下で直哉と別れる。


「ありがとね、ナオ」


うん、と頷いた彼の顔が、どこか寂しげだったので、七緒は首を傾げた。


「なんかナオ元気なかったな」

「そうなのか? 充分明るい奴だと思うけど」


きょとんとする栄人を見て、圭介は溜息をつく。


「ハチってさあ、しっかり者だけど人の気持ちに疎いっつーかさあ」

「はあ? どの口がそんなことを言うんだ」

「ハチは優しいよー」

「…あれっ、いつのまにか俺アウェイなんだけど……」




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