取調室
翌日 AM1:30
牧草乳業の10トンタンクローリーが、工場を出た。中身は廃棄予定の牛乳だ。
国道に出たところで、後ろから声が聞こえてきた。
[前のタンクローリー止まりなさい。整備不良です]
タンクローリーの前に赤色灯を光らせた
セダンが止まった。中から男が一人降りてきた。
「何でしょうか?スピードは出してませんが」
運転手が男に伝える。
「整備不良です、尾灯が切れています。一緒に見ていただけますか」
「運行前点検しましたけどねぇ」
運転手が後方にまわると、男が運転席に向かった。目的はタンクローリーのエンジンキーだ。開けたままの運転席ドアに近づき、男がキーに手をかけた。
「そこまでだ」
助手席から声がする。大野が座っていた。男ははっとして、後退りをする。
「ずいぶん探したよ」
安全用ヘルメットを被った運転手が男の後ろに立った。小林だった。
「ゲームオーバー、俺の負けです」
男は両手を上げた。
取り調べにより、男の素性が明らかになった。3年前まで男は小学校の教師だった。社会科見学で訪れた牧草乳業の工場を見学し、牛乳の生産工程に大変な関心を持った。
一方で、搾乳された牛乳の一部が廃棄されていることに対し、疑問を抱くようになった。調べていくうちに、大野と黒田同様に脱脂粉乳の問題に到達する。
「牛乳の一滴一滴に、酪農家さんの汗と、牛の命が詰まっている。子供達にそう教えてきました。なのに、裏では多くの牛乳が捨てられている。こんな勿体ないことがあるでしょうか」
男は険しい顔で、ゆっくりと語る。
「しかしあなたは、一件目でタンクローリーの運転手さんを負傷させた。命を大切にしたいというあなたの言葉と、矛盾するように思える」
大野が静かに言った。
「あれは事故でした。ダンプを盗みましたが、大型車なんて運転したことがない。大きな車で道を塞ぎたかっただけなんです。申し訳ないことをしました」
「それで、二件目はキーを抜いたのか」
「はい。あんな事をしても無駄なのは分かっています。でも、少しでも遅らせて…社会に気づいて欲しかった」
大野は深いため息をついた。
「それで、あなたのやり方で、何か変わったか?」
男は押し黙った。
大野が言うと、黒田がタブレット端末を持ってきた。
「これ見てください。脱脂粉乳を繊維化して、衣類が作られているんですよ」
黒田が説明をした。
「……」
「教師だったのなら、もっと良い方法を考えてほしかったよ」
男は声を殺して泣いていた。




