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抱える問題

翌日、大野と黒田は衆議院議員会館を訪れた。牧草乳業の柏木社長から、酪農に詳しい議員を紹介するという連絡を受けたからだった。


 議員会館の3階に、その議員の事務所はあった。


「国民党の石井京子議員、北海道選出ですね」


 黒田が持参したタブレットで情報を調べていた。


「衆議院の農政委員会の理事で、酪農問題に取り組まれています」


「何か分かると良いんだがな」


 事務所のドアを開けると、秘書が応接室へと二人を迎え入れた。部屋には酪農関係のポスターや牛のマスコットが並んでいる。


 秘書が飲み物を運んできた。


「北海道の牛乳で作ったカフェオレです」


「嬉しいです!私カフェオレ大好きで」


 黒田の目が輝いている。程なくして石井議員が入室し、二人が立ち上がった。大野と黒田がそれぞれ名刺を差し出す。 


「事件?事故ですかね、牧草さんの柏木社長から聞いております。廃棄牛乳が狙われたとか」


 石井議員が話し出した。


「現在は事件事故の両面で調べています。ただ、二件に共通しているのは、廃棄牛乳なんです」


「承知しました。あ、カフェオレ。どうぞお上がりになってくださいね」


 石井議員がパンフレットを机に出した。[牛乳の明日]と表面に記載されている。


「仮に、今回事件だとしてですが。廃棄牛乳に何らかの意味があるとしたらという前提の話です。牛乳が余るのは、市場の需要と供給のバランスが一定しないからだと聞きました」


 大野が石井議員を見据えて話す。


「その通りです。例えば学校が長期の休みに入るなどの変化があると、そこで消費量は変わります。また、ヨーグルトなどの乳製品への転換も簡単ではありません」


「なるほど…」


「一例として、バターを作る場合です。生乳を遠心分離器にかけて、脂肪分と脱脂乳に分けます。この脱脂乳を乾燥させたものが脱脂粉乳です。問題は、これが大量に副生されることなんです」


 石井議員は、バターの空箱を見せた。


「脱脂粉乳は、ヨーグルトやお菓子に使われるんです。ただ、今申し上げたように、乳製品の需給が変化すると、どうしても脱脂粉乳の大量在庫が続くという、別の問題が起きるんです。ピーク時には10万トンを超えていました。」


「そんなにですか…」


 黒田が絶句した。


「そうか、だから搾乳した牛乳を廃棄せざるを得ないという問題になるわけですね」


 大野が言った。


「はい。ただ、これは脱脂粉乳だけに絞ったお話で、そもそもの牛乳の需給ギャップなど、問題はもっと複雑です。そして、酪農を取り巻く問題はこれだけではありません。もっと色々解決しなければいけない問題があります」


「展望はあるのでしょうか」


 黒田が質問した。


「最近は産官学連携や民間企業の取り組みで、脱脂粉乳を繊維にしたり、色々な取り組みも行っています」


 タブレット端末で、脱脂粉乳から製品化されたものが画面に表示された。


「あぁ、このシャツかわいいですね」


 黒田が画面のTシャツに注目した。


「ですよね。これ、有名ブランドとのコラボなんですよ」


 石井議員が笑顔で説明する。


「石井先生、廃棄牛乳が生まれる理由は非常によく分かりました。こうなると、朧気ながら、犯人の目的が見えてきた気がします」


「私達も、酪農を取り巻く問題に関してもっと社会的啓発をしていかねばならないと思います」


 石井議員が真剣な表情で語った。


 礼をして、大野と黒田は署へ戻り、高木課長へ報告をした。


「ということは、目的は牛乳が廃棄されることへの義憤ということかね」


「確証はまだありませんが、そう考えると違和感がありません」


 大野は高木に言った。 


「そういえばね、小林君からの報告。ダンプからは何もでなかったそうだ。室内に消火器をまかれていたらしい」


「ダンプの線からホシを辿るのは無理か…」


「大野さん、これが読み通り廃棄牛乳への抗議だとしてですよ。犯人の背景が知りたいですね。狂信的な気がします。まさか生産に関わっている方が…」


 黒田が大野に向き直る。


「いや、違うな。これは正当な抗議とは言えない。現状を社会に周知するなら、他に如何様にもやり方はあるし、どうも稚拙な感じがする」


 大野が目を細めながら言った。


「刑事の勘かね。だが、私も大野さんの考えに異論はないよ。抗議のようにも見えるが、ただ廃棄を阻止したい。それだけで動いている様に見えるね」 

 

 高木が大野の横に来て言った。


「ところで、前回タンクローリーのキーを抜かれた事件から明日で一週間です」


 黒田の声に、大野がカレンダーを見た。



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