第7話:騎士団の来襲と、ハンスの覚醒
皆様、第6話でのカレン(サクラ枠)登場への反響、ありがとうございます。
理屈の通じない「感情」というバグに、リリアーヌの計算が狂い始めました。
しかし、感傷に浸る暇などありません。
カレンが呼び寄せた王都の騎士団が、学院の門を叩きます。
剣と鎧で武装した「暴力」に対し、リリアーヌが突きつけるのは、たった一枚の「契約書」でした。
「暴力? 結構ですわ。……ただし、その一振り、おいくら(ハウマッチ)かしら?」
ハンスの(不運な)活躍と、リリアーヌの真骨頂。
それでは、第7話開幕です。
「リリアーヌ・フォン・アステリア! 王命に基づき、貴様を公金横領および不当な扇動の疑いで拘束する!」
学院の正門。白銀の鎧に身を包んだ第一騎士団の男たちが、抜剣して私を包囲した。
背後には、正義の勝利を信じて疑わないカレンの姿。
「……あら。物騒ですこと。ハンス、お茶の準備を。騎士様方は、喉が渇いていらっしゃるようよ」
「リ、リリアーヌ様! 茶器を出す暇なんてありませんよ! 囲まれてますって!」
ハンスが私の背後に隠れながら、ガタガタと震えている。
その情けない姿。前世で、税務調査が来た時に「僕はただのバイトです!」と叫んで逃げようとした毒島の姿が、重なって見えた。
「……ハンス。心配しなくていいわ。……あなたが、その震える足で『一歩』前に出るだけで、この場は終わるわよ」
「えっ!? 僕がですか!? 死んじゃいますよ!」
「いいから、行きなさい」
私はハンスの背中を、容赦なく突き飛ばした。
よろよろと騎士団の前に放り出されたハンス。
騎士の長が、冷徹に剣を振り上げる。
「邪魔だ、どけ! 罪人の片棒を担ぐ者は斬り捨てる!」
「――お待ちになって。その剣、振り下ろした瞬間に、あなたの実家の『借金』が完済不能になりますわよ?」
私の声に、騎士の動きが止まった。
私はニルスが解析したばかりの「王都金融ネットワーク」の端末を、優雅に見せつけた。
「第一騎士団長、レイノルド。実家の領地は昨年から大凶作。不足した資金を、あなたは闇のギルド……私の『傘下』にある金融機関から借り入れていますわね?」
「……なっ、なぜそれを……!」
「今、ハンスが持っているのは、その債権の『譲渡契約書』です。……ハンス、それを彼に見せてあげて」
「え? ……あ、これですか? ……『全額、リリアーヌ様に譲渡済み』……えええっ!? 僕、いつの間にこんな大事なもの持たされてたんですか!?」
ハンスが驚愕しながら掲げた紙。
それを見た瞬間、騎士団全員の戦意が霧散した。
「私が指を鳴らせば、あなたの家門は明日には破産し、部下たちの給料も支払われません。……さて、騎士様。私を捕らえるのと、自分たちの生活を守るの、どちらが『合理的』かしら?」
「……っ……。剣を、引け……!」
騎士団長が屈辱に顔を歪めながら、剣を鞘に納めた。
暴力という物理エネルギーを、経済という上位システムで無効化する。
これが、一条蓮が最も愛した「デバッグ」の手法だ。
呆然とするカレンが、震える声で私を指差した。
「……汚い。汚いわ、リリアーヌ! 結局、あなたは金と弱みで人を支配しているだけじゃない!」
「……そうよ。ですが、カレン。この『汚い紙切れ』一枚で、誰の血も流れずに済んだわ。……あなたの言う『正義』は、ハンスの命を救えたかしら?」
私は、腰を抜かして座り込んでいるハンスの隣を、音もなく通り過ぎた。
ハンスが、震える声でボソリと呟く。
「……リリアーヌ様。……あんた、やっぱり……最低で、最高に『ワガママ』な社長ですよ」
その言葉。
前世で、倒産寸前の会社を強引に救った時に毒島が言ったセリフと、一言一句同じだった。
(……ふふ。お前も、変わらないわね。毒島)
夕闇の中、私は初めて、カレンには見えない角度で、わずかにだけ唇を綻ばせた。
第7話、いかがでしたでしょうか。
暴力に対して経済で立ち向かう、リリアーヌの「強さ」が際立つ回となりました。
そして、ハンスの無意識の「毒島発言」。
リリアーヌの孤独な心が、少しずつ、かつての仲間たちの絆で満たされていく予感がします。
しかし、これに激怒した王都側は、さらなる刺客――「前世の暗殺者」に似た影を送り込みます。




