第5話:集団催眠(フレーミング)の全校集会
皆様、第4話でのニルス(零枠)合流、温かい反応をありがとうございます。
手に入れたのは「武力」ではなく、世界を解析する「頭脳」。
そして今回、リリアーヌはその頭脳と自らの心理テクニックを掛け合わせ、学院最大のイベント『月例全校集会』に乗り込みます。
「私を追放したことを、後悔すらさせない。ただ、崇めさせればいいのよ」
一人の悪役令嬢が、数百人の生徒を「集団催眠」にかける運命の15分間。
学院の大講堂。数百人の生徒と教師が揃う月例集会の空気は、私に対する冷笑と蔑みで満ちていた。
壇上に立つのは、私をこの学院へ追いやる決定打を下した教頭、ゼノス。
「……以上が、前代未聞の不祥事を起こしたリリアーヌ君に対する、当学院の厳正なる処置である」
ゼノスの演説に、生徒たちが嘲笑を浴びせる。
だが、私は最前列で優雅に扇子を弄びながら、ニルスが徹夜で作り上げた『魔力増幅型・指向性スピーカー』のスイッチを、足元のハンスに踏ませた。
(……さあ、デバッグの時間よ)
「――異議がありますわ、ゼノス先生」
私の凛とした声が、講堂の隅々まで、まるで脳内に直接響くような残響を伴って広がった。
ざわめきが止まる。これが心理学における『権威の強調』と、物理的な音響効果の融合だ。
私はゆっくりと壇上へ歩を進めた。
「皆様、先生は私を『罪人』と呼びました。ですが、それは一つの『枠組み(フレーム)』に過ぎません。……もし、私がこの学院の『破滅』を未然に防いでいたとしたら?」
「何を馬鹿なことを!」
「ゼノス先生。あなたが昨夜、秘密裏に『隣国の商会』と交わした、学院の土地売却に関する契約書。……今、全生徒の魔導端末に転送させましたわ」
講堂中に、端末の通知音が鳴り響く。
ニルスがハッキングしてばら撒いたのは、ゼノスの汚職の証拠――を、少しだけ「リリアーヌが命がけで盗み出した」という物語に書き換えたデータだ。
「……なっ、これは……!」
生徒たちの目が、蔑みから、ゼノスへの「疑念」と、私への「驚愕」へと変わる。
心理学で言う『認知的不協和』。信じていた教師が敵で、嫌っていた私が救世主。この混乱こそが、マインドコントロールの最大のチャンスだ。
私は、呆然とするゼノスの隣で、全生徒を見渡して微笑んだ。
「選んでください。このまま無能な教師に売られるか。……それとも、私という『新しいルール』に従って、真の自由を手に入れるか」
私は、ニルスが調整した『特定の周波数(アルファ波を誘導する音)』をスピーカーから微弱に流し続けた。
沈黙。そして――。
「……リリアーヌ様……。リリアーヌ様こそが、僕たちの救いなんだ!」
一人の生徒(※実は買収済みのバルトロメウスの教え子)が叫んだ。
それを皮切りに、拍手の波が伝染していく。
「リリアーヌ! リリアーヌ!」
熱狂の渦。昨日まで私に石を投げていた者たちが、今は私の名を、神か何かのように唱えている。
これが、群衆心理。個人の意志など、適切な演出の前には霧のように消えてしまう。
私は壇上から、ハンスに視線を送った。
ハンスは引きつった笑顔で、「……うわ、出たよ。社長の十八番、『全員奴隷化計画』だ……」と、前世の毒島と全く同じ顔で呆れていた。
(……ふふ。そうよ、毒島。私はここでも、私の王国を建国するわ)
夕闇が差し込む講堂。
私は、自分を追放した王太子への「経済制裁」の第一歩として、この学院という名の『城』を完全に手中に収めた。
第5話、いかがでしたでしょうか。
暴力を使わず、情報操作と音響、そして心理学の「フレーミング効果」だけで、一瞬にして敵を味方に変えてしまう。
リリアーヌ(蓮)の恐ろしさと爽快さが詰まった回になりました。
ハンスの「いつものやつだ」という呆れ顔が、前世との繋がりをより強く感じさせますね。




