第4話:引きこもりの天才と、魔導具の秘密
皆様、第3話でのハンス(毒島枠)との出会い、いかがでしたでしょうか。
少しずつ、かつての「陣容」が形を変えて集まりつつある予感。
次にリリアーヌが目をつけたのは、学院の地下深く、埃を被った旧図書室に引きこもる「変わり者」の少年でした。
「魔法の才能がない」と捨てられた彼の中に、リリアーヌは見出します。
かつて共に衛星を打ち上げた、あの天才プログラマーの魂を。
知略によるスカウトと、心のデバッグ。
それでは、第4話開幕です。
ハンスを「専属」として拾ってから数日。
私はエリザから得た情報をもとに、学院の最深部、旧校舎の地下へと足を運んでいた。
そこは、魔力至上主義のこの国で「欠陥品」とされた者たちの墓場。
だが、私にはわかっていた。真のイノベーションは、いつだってシステムの「外」から生まれることを。
「……ここね」
重い扉を開けると、そこは魔導具の残骸と、古びた羊皮紙が散乱するカオスな空間だった。
部屋の隅、魔導信号の青白い光に照らされて、一人の少年がうずくまっている。
「……ノックもせずに、不躾だね。僕の『演算』が狂ったら、君の寿命10年分でも償えないよ」
少年の声は、冷たく、そして酷く退屈そうだった。
ボサボサの髪に、分厚いレンズの眼鏡。
その姿を見た瞬間、私の脳裏に**『漆黒の部屋でエナジードリンクを啜りながら、世界中の銀行をハッキングしていた少年』**の幻影が重なった。
(……零。あなた、こんなところまで追いかけてきたの?)
「……ふふ。10年分で足りるかしら? 私の時間は、この帝国の予算の数倍の価値があるのだけれど」
「……何?」
少年が顔を上げる。彼の名はニルス。
魔力を持たないがゆえに親に捨てられた、学院きっての「無能」だ。
だが、彼が弄っている機械は、この世界の魔法理論を根底から覆す『並列演算回路』に近いものだった。
「……君、その回路のバイパスが間違っているわ。魔力を一点に集めるのではなく、情報を分散させなさい。そうすれば、そのガラクタは動くわよ」
「……はあ!? 素人が何を――」
ニルスが言い返そうとして、私の指し示した数式に目を落とす。
数秒。彼の瞳が驚愕に染まった。
「……な、なんだこれ……。情報分散? 魔法は『意志』で操るものじゃないのか……?」
「『意志』なんて不確実なものは、ただのバグよ。必要なのは『論理』。……ニルス、あなた、この学院でくすぶっているのは時間の無駄だと思わない?」
私は彼に歩み寄り、彼が書き殴った複雑な数式を、扇子で優しくなぞった。
「私なら、あなたのその才能に『名前』を与えてあげられる。……私がこの国を買い叩くための、最強の『電子の剣』としてね」
「……君、狂ってるのか? 僕は魔力がないんだ。失敗作なんだよ」
「失敗作? 傑作の間違いじゃないかしら。……いいわ、ニルス。一度だけ私にあなたの『脳』を貸しなさい。……お礼に、この世界の理を書き換える景色を見せてあげる」
ニルスの瞳に、初めて小さな灯がともる。
それは、かつて零が新しいコードを書き上げた時に見せた、純粋な好奇心の光だった。
(……ああ。やっぱり、あなたは零だわ)
私は、込み上げる懐かしさを「リリアーヌ」の冷徹な仮面で押し殺した。
涙など見せない。王は常に、家臣に未来だけを見せるものだから。
「……ニルス。私のわがままは、宇宙にまで届くわよ? 覚悟しておきなさい」
「……宇宙? ……あはは、本当に狂ってる。……いいよ。君のその『わがまま』、僕が形にしてあげる」
こうして、私の右腕が揃った。
かつての仲間を「再定義」するたびに、私の心は強くなり、そして、どうしようもなく痛む。
第4話、いかがでしたでしょうか。
ニルス(零枠)を仲間に引き入れたリリアーヌ。
「論理」という共通言語で通じ合った二人の姿は、かつての一条蓮と零のコンビを彷彿とさせます。
ですが、物語はまだ序盤。
ハンス、エリザ、ニルス。少しずつ揃い始めた駒を使って、リリアーヌはいよいよ学院全体の「デバッグ(支配)」へと動き出します。




