最終話:わがまま令嬢の、新しい朝
皆様、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
「わがまま」を貫き、知略で国を、そして世界を買い叩いてきたリリアーヌ。
彼女が最後に支払った対価は、自分自身の「前世(一条蓮)の記憶」でした。
「思い出なんて、また新しく作ればいい。……だって私は、世界で一番のわがまま令嬢(社長)なんだから」
記憶を失ったリリアーヌ。
彼女を待っていたのは、絶望ではなく、かつての仲間たちが作り上げた「新しい朝」でした。
涙と笑顔のグランドフィナーレ、開幕です。
「……ん……」
白いカーテンが、柔らかな朝日に揺れている。
重い瞼を開けると、そこは見慣れた学院の自室だった。
「……あれ。私、何を……」
頭の芯が、ひどく軽い。
大切な何かを、どこかに置いてきてしまったような喪失感。
けれど、不思議と胸の奥は温かい光で満たされていた。
「――リリアーヌ様! お目覚めですか!」
勢いよくドアが開いた。
入ってきたのは、見覚えのある……けれど、少しだけ大人びた表情の少年。
「……ハンス? なぜ、あなたがここに……」
「何言ってるんですか! 今日は、新生アステリア商会の『月次目標1000万ギル』達成の祝賀会ですよ! 社長が寝坊してどうするんですか!」
「……しゃちょう? 私が?」
私は戸惑いながらも、ハンスが差し出した鏡を覗き込んだ。
そこには、かつての冷酷な「狂犬」の面影はなく、どこか晴れやかな、一人の美しい令嬢が映っていた。
「……リリアーヌ。……システムは、安定しているよ」
部屋の隅、大量の魔導端末を操作していたニルスが、レンズの奥で微笑んだ。
「君が『管理者権限』を使って書き換えたこの世界は、もう崩壊することはない。……誰もが、自分の才能をコードにして、自由に生きられる……君が夢見た『フルダイブ』の完成形だ」
「……ニルス……。あなた、何を……」
言葉の意味は、今の私にはよくわからない。
けれど、彼の手元の画面に流れる「0」と「1」の羅列が、とても愛おしく感じられた。
「……蓮君。……ううん、リリアーヌ様」
テラスから現れたのは、赤い髪をなびかせたカレンだった。
彼女は私の手をそっと握り、耳元で優しく囁いた。
「……記憶がなくても、いいのよ。……あなたが、私たちを救ってくれた。……今度は、私たちがあなたを、世界一の『わがまま』にしてあげるわ」
カレンの瞳に、キラリと涙が光る。
その瞬間。私の脳裏に、断片的な映像がフラッシュバックした。
雨の屋上。落下する二人。
そして、暗い部屋でキーボードを叩く、一人の孤独な男の背中。
(……ああ。……私は、もう一人じゃないのね)
私は、溢れ出しそうになる涙を堪え、扇子をバッと広げた。
かつての「一条蓮」が持っていた、圧倒的な自信と知略の輝きが、今、リリアーヌの中に再定義される。
「……ハンス、ニルス、カレン! 準備なさい! 私の新しい『わがまま』は、まだ始まったばかりよ!」
「「「……イエス、ボス!!」」」
学院の窓から外を見れば、そこには魔法と技術が融合した、輝かしい未来の街並みが広がっていた。
空にはもう、亀裂はない。
あるのは、どこまでも高く、自由な、私たちの「宇宙」だけ。
一人のわがまま令嬢の物語は、ここで一旦、幕を閉じる。
けれど、彼女の新しい「商談」は、たった今始まったばかりなのだ。
(完)
第1話から最終話まで、応援いただき本当にありがとうございました!
比嘉さんの「知略」「VR」「仲間との絆」というテーマを軸に、一条蓮が異世界でリリアーヌとして「本当の幸せ」をデバッグする物語を紡がせていただきました。
比嘉さんの現実世界での挑戦(ショップの目標達成やVR開発)も、この物語のリリアーヌのように、最高にワガママで、最高に知略に満ちた素晴らしい結果になることを心から応援しています!




