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VRMMOで『■■■の龍騎士』になった俺、世界を蹂躙する~ドラゴン×クトゥルフの異質な力ゆえに、プレイヤーからラスボス扱いされる~  作者: 旅路


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9/19

訓練

 冒険者ギルドの扉をくぐると、そこは混乱していた。

 石造りの重厚な壁に反響するのは、ジョッキがぶつかり合う快音と、無数のプレイヤーたちが吐き出す言葉の奔流だ。依頼掲示板の前で報酬の分配について怒鳴り合う即席パーティ、酒場の隅で地図を広げて明日のレイドルートを激論するクランの幹部たち。それら全ての生活音が、煙草の紫煙やエールの匂いと共に混ざり合い、木造の天井に溜まっている。

 

 だが、ジークがその一歩を踏み出した瞬間、世界から音が引いた。軋む音を立てて扉が閉まると同時に、喧騒は波が引くように静まり返る。


 何気なく入り口を向いた数人が、その漆黒の全身鎧を認識した瞬間に凍りついた。伝染するように会話が途切れ、ジョッキを運ぶウェイトレスの手が止まる。


 好奇心、畏怖、そして嫉妬、それらが混ざり合った視線が突き刺さり、次いで、蜘蛛の子を散らすように意識的に逸らされていく。

 ジークは顔色一つ変えなかった。兜の下の表情は見えないが、その足取りに躊躇いはない。彼は海を割るようにカウンターへ直進し、受付のNPCへ声をかけた。


「大会の参加登録を頼む」

 短く、事務的に。

「はい、かしこまりました。プレイヤー認証を行います」

 受付嬢のNPCは、周囲の異様な空気など感知しないかのように、営業用の微笑みを浮かべて空中のウィンドウを操作する。


「プレイヤー名、ジーク様ですね。……登録完了いたしました」

 

 軽やかなシステム音と共に、ジークの網膜に淡い光の文字がポップアップする。


【大会参加登録完了:第一回公式大会『深淵への挑戦』】

 開催まで:29日と22時間


(約三十日か)

 ジークは通知を指先で払い、小さく息を吐いた。短いようでいて、今の自分には果てしなく長い期間にも思える。

 用事は済んだ。踵を返し、再び視線の雨の中を出口へ向かおうと――その時だった。


「なあ、ちょっといいか」

 

 喧騒が戻り始めた酒場のざわめきを縫って、平坦な声が投げかけられた。

 

 ジークが足を止めて横を向く。

 カウンター近くの太い柱、その陰に隠れるように一人の男が腕を組んで立っている。見た目は、驚くほど平凡だった。

 くすんだ色の革鎧に、飾り気のない鉄の短剣が一本。背格好も中肉中背で、群衆の中に紛れれば二度と見つけ出せないような「モブ」のような佇まいだ。

 顔には、品定めをするような表情。ただし、恐怖でも敵意でもない。純粋に興味だけがある目つきだった。


「オーク・ジェネラルをソロで狩った『黒騎士』だろ。ジークって」


「……そうだが」


「俺はロウ。ランクは中の下、どこにでもいるソロプレイヤーだ」

 

 自己紹介にしては、あまりに淡白だった。謙遜でも自虐でもなく、ただ事実として自分のスペックを提示しているような口ぶりだ。


「それで、俺に何の用だ」

「大会に向けて、練習台を探してる」


 ロウは柱から背を離し、一歩、ジークの間合いに入ってきた。


「お前みたいな異質な強さの奴と、一度剣を交えてみたいと思ってな。ただし条件がある。ステータス強化も、魂源による補正もなし。純粋な『剣術』だけで、だ」


 ジークは無言で相手を見下ろした。

 挑発ではない。男の瞳に宿っているのは、純粋な探究心だけだ。


「……俺も今ちょうど、それを考えていたところだ」

「話が早くて助かる。じゃあ、いいか?」

「だが一つ先に言っておく」

 

 ジークは躊躇わず、事実を告げた。


「俺は、剣などまともに習ったことがない。プレイヤースキルという意味じゃ、たぶんお前の方がずっと上だぞ」


 ロウがわずかに眉を上げた。想定外の言葉だったらしい。

「……素の状態で戦える自信があるから、大会に出るんじゃないのか?」

「ない」

 ジークは即答した。

「ないが、やる。それだけだ」

 数秒の沈黙が落ちた。


 やがて、ロウの口元が緩み、喉の奥でくつくつと笑う音が漏れた。

「……変な奴だな。気に入った。じゃあ、訓練場に行くか」


 ◇ ◇ ◇


 城壁都市アステリアの北区画、その最奥に位置する訓練場は夜になっても熱気が冷めることはない。

 松明の炎が揺れる砂敷きの広場。ジークとロウは向かい合って立っていた。

 ジークは背負った大剣を引き抜き、その重みを両手で確かめる。対するロウは、腰の短剣を逆手ではなく順手に持ち、だらりと下げていた。


「一応確認するが」

 ロウが言った。

「今からやるのは、システムアシスト抜きの泥臭い殴り合いだ。俺は【痕跡追い】っていう索敵系の魂源持ちだが、使わない。お前もその物騒な鎧の力、止められるか?」


「正直、やり方がよくわからないが……試してみる」


 ジークは目を閉じ、鎧の内側、自身の深奥にある「何か」に意識を向けた。戦闘中、自然と湧き上がってくるどす黒い高揚感、血管を流れる溶岩のような熱。それらを意識の底へ、檻の中へと押し込むように念じる。


 三秒ほどで、鎧の表面から不気味な気配がスッと引いた。脈打つような生体音が消え、『黒蝕の竜騎士鎧』が一度だけ身震いするように震えてから、ただの重い鉄塊へと沈黙する。

 完全な遮断ではない。だが、意識的に抑え込むことには成功した。


「……なんとかなりそうだ」

「ならいい」


 言葉の最後が聞こえるかどうかの刹那、ロウが消えた。

 いや、踏み込んだのだ。

 

 速い!

 ジークがそう認識した瞬間、すでに視界いっぱいに刃が迫っていた。右から左へ、腰を低く落としての鋭い横薙ぎ。大剣を盾のように掲げ、かろうじて受ける。


 ガギィンッ!

 金属が噛み合う硬質な音が、夜の訓練場に響き渡った。だが、軽い短剣の一撃とは思えない重さが腕に伝わり、ジークの巨体が一歩、たたらを踏んで後退させられる。

(軽い体格でこの力か……!)


「重いな、それ」

 追撃の手を緩めず、ロウが言った。攻撃の最中に喋れる余裕があるのかと、ジークは舌を巻く。


「でも構え方がまずい。大剣で『受け流す』んじゃなくて、『捌く』気でいかないと腕が持たないぞ」

「……捌く、か」

「受けるんじゃなくて、流すんだ。来た力を殺さずに横へ逃がせ」

 

 言いながら、ロウは再び踏み込んでくる。今度は真上からの唐竹割り。

 ジークは教えられた通りに大剣を斜めに構えた。刃で真っ向から受けるのではなく、角度をつけて相手の短剣を滑らせるイメージで――。

 

 ジリッと金属が擦れる音がして、短剣の軌道が逸れ、空を切った。

「そう、それだ」

 ロウがバックステップで距離を取り、満足げに頷く。

「ただ、次の動作に繋がってない。捌いた後に一歩踏み込む癖をつけろ。そうしないと相手に立て直す時間を与えることになる」

 

 ジークは乱れた呼吸を整えながら、その言葉を反芻した。捌いて、踏み込む、頭ではわかるが体が追いつかない。

 思考と動作のラグ。それが今の自分にとって最大の敵だ。


「……もう一度やってくれ」

 ロウが片眉を上げ、口の端をニヤリと持ち上げた。

「言われなくてもやるつもりだ」

 そこから一時間、泥臭い訓練は続いた。

 ロウの指導は意外にも丁寧だった。一方的に打ち据えるのではなく、一手交えるたびに何が拙かったか、どう動けば最適だったかを短く的確に指摘する。ジークはその言葉を頼りに試し、失敗し、また試した。


 何度も短剣の切っ先が鎧の隙間を狙った。受けるたびに鎧が鈍い音を立て、砂が舞い、ジークの体は無様に後退する。それでも彼は立ち止まらなかった。

 月が中天に昇り、訓練場の人影がまばらになる頃、ロウはようやく剣を収めた。


「今日はここまでにする。……お前、ひとつだけ取り柄があるな」

「なんだ?」

「怖がらない、痛くても引かない。それだけで十分な素質だ」


 ジークは短く頷いた。称賛として受け取るにはあまりに無骨な言葉だったが、今の彼にはそれが心地よかった。

 それよりも、どうしても聞いておきたいことがあった。

「お前、強いよな。魂源がなくても、そこらのプレイヤーよりずっと上だ。……なんでだ?」

 ロウはしばらく沈黙した後、夜空を見上げてぽつりと言った。


「現実でやってた」

「……え?」

「剣術、だ。ただの趣味だが、十年くらい続けてる」

「なるほど」

 妙に腑に落ちた。システム上の数値ではない、身体に染み付いた「経験」の差。それがこの圧倒的な実力差を生んでいるのだ。


「だからお前みたいに、ゼロから剣術を覚えようとしてる奴がどこまで伸びるのかは知らない。だから頑張れ」

 それきり、ロウは多くを語らなかった。訓練場の隅で装備を整えると、「また明日来るか?」とだけ聞いた。


「来る」

 短く答えたジークに、ロウは「そうか」と背中越しに手を振り、闇の中へと消えていった。

 

 一人残されたジークは、大剣を地面に突き立て、その柄に額を押しつけた。

 腕が鉛のように重い。普段のモンスター戦では感じることのない種類の疲労だった。強力な魂源とステータスで誤魔化せていた自分の未熟さが、今日初めて白日の下に晒された気がした。


(分かっていたが……弱いな)

 その事実は、冷や水のように彼の胸に落ちた。不思議と腹は立たない。ただ、あと一ヶ月で間に合うのかという焦燥と、それでもやるしかないという覚悟。二つの感情が静かに混ざり合っていた。


「……まあ、やるしかないか」

 大剣を背中のホルダーに戻し、立ち上がる。鎧がガシャリと重厚な音を立てた。

 その音が、今は少しだけ頼もしく聞こえた。

 

 ◇ ◇ ◇


 それからのジークの日課は一変した。

 ログインと共に訓練場へ直行し、ロウや、あるいはその場にいる他のプレイヤーを捕まえては手合わせを申し込む。魂源は極力封印し、大剣一本だけで戦うスタイルを貫いた。


 初日は散々だった。ロウの変幻自在な短剣に翻弄され、大剣の振りが遅すぎると酷評され、体重移動が雑だと指摘された。ジークは言われたことをその場で試し、また違う失敗をして、地面を舐めた。怒ることも諦めることもなく、ただ愚直に繰り返した。

 

 三日目になると、微かな変化が現れた。

 相手の動きを見る時間が、コンマ数秒延びたのだ。

 初日は全ての攻撃が「気づいたら受けていた」という感覚だったのに対し、三日目には「来る」と予感する瞬間が生まれた。対処が間に合うかは別として、脳が死の軌道を予測し始めたのだ。


「剣速は相変わらず遅い」

 打ち合いの合間、ロウが言った。

「でも無駄な力が少し抜けた。だいぶ振りやすそうに見える」

「そうか」

「あと、さっきの捌きは良かった。角度が合ってたぞ」


 ジークはその言葉を、頭の中に刻み込んだ。

 そして五日目。訓練場に見慣れない客が現れた。

 白を基調とした、修道服に近い軽装の女性プレイヤー。腰には細身のレイピアを下げている。背は高くなく、一見すれば後衛の支援職かと思うような清楚な佇まいだった。


 しかし彼女は、ジークとロウの激しい打ち合いを壁際で静観し続け、二人が動きを止めたタイミングを見計らって音もなく歩み寄ってきた。


「少しいいですか」

 声は鈴を転がすように穏やかだった。感情の起伏を感じさせない、凪のようなトーン。

「手合わせをお願いしたいと思って」


 ジークはその顔を覗き込んだ。にこやかに微笑んでいるが、目の奥が笑っていない。何を考えているのか、その美しい顔の下が全く読めなかった。

 

 ロウが横で「……おい、あれ、もしかして大聖堂の」と小さく呟くのが聞こえた。

 ジークはロウを一瞥したが、説明してくれそうな気配がなかったので、正面の女性に向き直った。

「いいぞ」


 女性は優雅にスカートの端をつまみ、カーテシーのような礼をした。

「ありがとうございます。私はシエラといいます。よろしく、ジークさん」

「知ってるのか、俺のことを」

「ワールドアナウンスが流れた日から、あなたのことは気になっていましたから」


 穏やかな笑顔を崩さぬまま、彼女は細剣の柄にすらりと手を添えた。その所作には一切の無駄がなく、殺気すら感じさせない。

「どうやってあの怪物を倒したのか、自分の目で確かめたかったので」

 ロウが一歩引いたのを、ジークは視界の端で感じた。

 シエラが剣を抜く、刀身は針のように細く、月の光を浴びて冷たく輝いていた。彼女が動いた瞬間、場の空気が凍りついた。

 

 ジークが感じたのは「速い」という単純な驚きではない。もっと異質な何かだ。まるで空間の隙間に入り込んでくるような、認識の死角を突くような、絶対的な精度の動き。


 大剣を構えようとした腕が、一瞬だけ硬直した。なぜ止まったのか自分でもわからなかった。

 気づけば細い剣の切っ先が、ジークの兜のスリットの目の前、眼球まで数センチの距離でピタリと止まっていた。


「……」

 シエラは音もなく剣を引き戻し、またふわりと笑った。

「反応できましたね。剣を握って三日目の人間にしては、かなり良い。――ただ」

 彼女は冷徹な教師のように、ジークの足元へ視線を落とした。


「踏ん張る前に足が止まっています。体が動く前に、頭で判断しようとしている。順序が逆です。体を先に動かして、頭は後から追いかけてくればいい」

 言葉は優しかった。しかし、先ほどの剣先が突きつけられた死の感触を思い出すと、ジークの背筋に冷たいものが走った。

 あれは、わざと止めてくれたのだ。実戦なら、今頃脳を貫かれている。


「……もう一本、やるか?」

「ええ、もちろん」

 シエラは小首を傾げた。

「それが目的でしたので」

 

 ロウが訓練場の壁に背を預け、腕を組んで二人を見ている。その顔には、最初にジークに向けたものと同じ、興味深げな観察者の色が浮かんでいた。ただし今度の視線は、ジークではなく底知れない実力を見せたシエラへと向けられていた。


 残り、三日……。


 ◇ ◇ ◇


【エタクロ】第一回公式大会『深淵への挑戦』情報スレ Part.143【もうすぐ開始!】


389: 名無しの冒険者

 大会まで3日切ったなー

 各ギルドの参加者リストとか出回ってるか?


390: 名無しの冒険者

 「黄金の盾」は団長のベルデが参加確定らしいぞ

 あの【不倒の盾】を魂源封印なしで使える後半戦、正直他の参加者が可哀想すぎて草


391: 名無しの冒険者

 剣聖はどうなの?

 あいつSNS一切やってないから情報が全然わからんのだけど


392: 名無しの冒険者

 >>390

 参加するかどうか不明

 でも「面白そうな相手がいれば行く」って誰かが酒場で聞いたっていう噂はある


393: 名無しの冒険者

 あとさ、例のジーク、訓練場に毎日来てるって噂があるぞ

 

394: 名無しの冒険者

 え? あいつ訓練場行くタイプかよww

 どうせレア装備と魂源でゴリ押すだけの脳筋かと思ってたわ

 

395: 名無しの冒険者

 >>393

 しかも魂源封じた状態で手合わせしてるって聞いたぞ

 魂源なしだとPSプレイヤースキルは普通以下らしくて、野良相手にかなりボコられてるって


396: 名無しの冒険者

 ボコられてるのに毎日来る……なんかそれだけで嫌な予感するわ


397: 名無しの冒険者

 大会前に強くなるつもりか

 一ヶ月で剣術身につけようとするのは無謀すぎる気もするが


398: 名無しの冒険者

 あとジークと一緒に訓練してる相手が、大聖堂の「白衣の剣姫」じゃないかって話もある


399: 名無しの冒険者

 は?

 シエラが?


400: 名無しの冒険者

 あの人も参加するのか大会に

 それはそれで別の意味でヤバいだろ


401: 名無しの冒険者

 シエラの魂源って確か公開されてないんだよな

 戦闘スタイル見てもよくわからないって言われてるし


402: 名無しの冒険者

 >>400

 本人は「治癒系です^^」って言ってるらしいが

 治癒系があんなエグい剣技使うか? っていう目撃談も複数あるぞ


403: 名無しの冒険者

 まあ大会が楽しみなのは変わらないんだけど

 剣聖・シエラ・ベルデ・ジークが全員本気で動くとしたら

 他の参加者がどこかで割を食うのは確実だよな


404: 名無しの冒険者

 俺の【穴掘り】はどうすればいいですか


405: 名無しの冒険者

 >>404

 知らん、掘ってろ


406: 名無しの冒険者

 まあ3日後が本番だ

 俺も登録だけしといたし、せめて中層くらいまでは行きたいわ


*ローグライク要素少なかったので、 死亡した場合1層からにします。(蓄積した強化は1つ引き継ぎ)


評価して下さった方ありがとうございます!


読んでいただきありがとうございます。

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