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VRMMOで『■■■の龍騎士』になった俺、世界を蹂躙する~ドラゴン×クトゥルフの異質な力ゆえに、プレイヤーからラスボス扱いされる~  作者: 旅路


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深淵迷宮3日目 

 ひんやりとした冷たい空気が頬を撫でる。眼前に広がるのは、石造りの無機質な通路、24層の入り口だ。昨日ログアウトした時と、寸分違わぬ景色がそこにある。

 

 そして、ジークの視線の先には二体のスケルトンが直立していた。


 主がログアウトしてから、現実世界で何時間が経過したか分からない。それでも彼らはその場から一歩も動かず、『骸骨王の残骸』が放つ統率バフに律されたまま、忠実な門番のようにジークの帰還を待っていたのだ。


【HP:127/127】

【MP:120/120】

【召喚数:2/∞】


「……待たせたな」


 短く声をかけ、禍々しいオーラを放つ『骸骨王の残骸』を取り出して頭に被り直す。腰に提げた錆びた大剣を引き抜くと、ずしりとした心地よい重みが腕に伝わってきた。


 視界の隅のステータスバーを確認し、ジークの口元がわずかに緩む。ログアウト中の時間経過によって、枯渇していたMPが完全に回復していた。ジリ貧で進んでいた昨日の終盤とは違い、今日のスタートは万全だ。


 二体の骨の兵士が、命令されるまでもなくカラカラと乾いた音を立ててジークの後方へ回り込んだ。完璧なフォーメーションだ。


「行くぞ」


 ◇ ◇ ◇


 24層は、これまでの無機質な迷宮とはまるで雰囲気が異なっていた。

 

 通路の石壁や天井から、青や紫の巨大な結晶が鋭く突き出している。それらは自ら淡い魔力の光を放ち、ジークが踏み込むたびに微かな振動に呼応して、キィン、キィンと澄んだ共鳴音を立てた。


 魔晶鉱山エリア。

 ここでは、膨大な魔力を蓄えた鉱石が独自の生命を宿した『クリスタルゴーレム』が点在して徘徊している。一体ずつの動きは重く鈍重だが、物理攻撃をほとんど受け付けない極めて硬質な外殻を持っていた。だが、空間把握と観察を続けるうちに、その外殻の弱点が「急激な温度変化」であることに気づいた。

 

 ジークは即座にスケルトンメイジを展開し、ゴーレムの胴体へ向けて火球を連射させる。

 着弾の熱で赤く焼け焦げた外殻が、パキパキと甲高い音を立ててひび割れていく。防御力が落ちたその一瞬の隙を見逃さず、近接スケルトンが飛び込んで牽制し、最後はジーク自身が踏み込んで『腐食の爪』を纏った右拳を亀裂に深々と叩き込んだ。


 ガシャンッ!という派手な破砕音と共に、クリスタルゴーレムが光の粒子となって崩れ落ちる。すると、崩れた鉱石の破片の中から、細長い骨の腕が這い出してきた。


「……なるほど、こいつらは鉱石の中に骨格を取り込んでるのか。蘇生できるなら好都合だ」


 クリスタルゴーレムの骨格を素体とした、新たなスケルトンが立ち上がる。関節部分には結晶の欠片が鋭く埋め込まれており、殴るたびに微弱な魔力ダメージを付与する特殊個体のようだ。これは使い勝手がいい。


 道中、天井の高い広い空洞で大型ゴーレム二体と鉢合わせる場面もあったが、ジークの動きに迷いはなかった。片方に近接スケルトンを囮として突っ込ませて足止めし、もう片方をメイジの火球とジークの腐食攻撃で素早く焼き切る。一度も足止めを食うことなく、流れるような連携でフロアを踏破した。


【24層クリア報酬を選択してください】

 ①『召喚上限+1:同時召喚数が増える』

 ②『魔晶の残滓:次に倒したゴーレム系モンスターは確定でスケルトン化し、ステータスが1.3倍で召喚される』

 ③『爆裂腐食:腐食状態のまま死んだ敵が爆発し、周囲に腐食ダメージを飛散させる』


「③だ」

 迷うことなくスキルを選ぶ。22層で経験したような大規模なプレイヤー同士の乱戦は、階層が深くなるにつれて再び起きる可能性が高い。単体への腐食を倒した瞬間に広範囲へと撒き散らせるこのスキルは、集団戦での制圧力を文字通り段違いに跳ね上げてくれるはずだ。


【スキル『爆裂腐食』を取得しました】


 ◇ ◇ ◇


 25層への重い鉄扉を押し開けた途端、ジークの展開する『空間把握』のマップに鋭い反応が出た。

 前方の通路に光点が一つ。移動せず、完全に動きを止めている。


(待ち伏せか)


 ジークは足音を殺し、壁沿いに張り付くようにして慎重に進んだ。

 25層は、古い下水道か巨大な配管の中のような構造だった。天井が低く、横幅も極端に狭い。大軍団を展開して数の暴力で押し潰すには最も不向きな地形だ。だが裏を返せば、相手にとっても一対一の状況を強制される構造でもある。


 薄暗い曲がり角の手前で立ち止まった瞬間、壁の向こうから低く落ち着いた声が響いた。


「待ってたぞ、骨使い」


 角の先から、ゆっくりと一人の男が姿を現した。

 長身で、全身に深い真紅の装束を纏っている。両手には取り回しの良さそうな細身の双剣。腰の後ろには小型のクロスボウが固定されていた。歩様にブレがなく、動きに無駄がない。歴戦のプレイヤー特有のプレッシャーがあった。

 

 頭上に浮かぶプレイヤーネームは「ラグ」

【HP:138/140】(ラグ)


 ジークよりも最大HPが高い。ここまで他のプレイヤーを複数狩ってステータスを上げているか、あるいはHP強化に特化したビルドか。どちらにせよ厄介な相手だ。


「俺のことを知ってるのか」

「22層の話はトップ層の間じゃ結構広まってる」


 ラグは双剣の切っ先を、ゆらりとジークへ向けた。


「六人まとめて骨の海に沈めたってな。お前を倒せばシステムからの追加報酬が跳ね上がると思って、ここで網を張ってた」


「悪い発想じゃないな。合理的だ」


「そうだろ? ただし、俺はお前のその骨どもがひどく苦手でな」


 ラグが視線をジークの後ろに控えるスケルトンたちへ向け、すぐにジークへと戻す。

「だからこのフロアを戦場に選んだ。こんな狭い通路じゃ、大軍団を展開されても前に出せるのはせいぜい一体か二体。それほど怖くはない」


 その通りだった。この横幅では、前衛として押し出せるスケルトンは二体が限界。後ろに控える軍勢はただの順番待ちの列にしかならない。


 ジークは無言のまま、錆びた大剣を正眼に構えた。

 最初の交錯は瞬きする間もないほど一瞬、ラグが壁を蹴り、驚異的な跳躍力で頭上から飛びかかってくる。ジークは迎撃のために大剣を横に薙ぎ払ったが、ラグは空中で猫のように身を捻り、なんとジークの大剣の「刃の腹」を足場にして着地した。


 そのまま流れるような動作で、右の細剣がジークの脇腹を深く狙って突き込まれる。

 ジークは咄嗟に左へ体を捌いたが、鋭い刃先が防具の隙間を縫って腕を深く掠めた。


【HP:123/127】(ジーク)

(速い……!)

 この一ヶ月、死に物狂いで積んだ剣術の訓練がなければ、反応すらできずに胴体を貫かれていただろう。


 ラグは一撃離脱を徹底し、すぐにバックステップで距離を取る。その跳躍の最中にクロスボウへ持ち替え、素早い射撃を数発混ぜ込んでくる。近距離での双剣と、中距離でのボウガンの切り替えが滑らかすぎて、ジークに反撃の糸口となる一定のリズムを全く刻ませない。


(前に出せるスケルトンは二体。後方に展開できない以上、戦力として数えられるのは俺自身の身体と、後ろから撃たせるアーチャーの牽制だけだ)


 ジークは近接スケルトン一体を盾として前に押し出し、その背中に隠れるようにして前傾姿勢で突進した。ラグは迷うことなく前に飛び出し、双剣の乱舞でスケルトンの頭蓋を粉砕すると、勢いそのままにジークの側面へ回り込もうとする。

 

 そこへ、後方から放たれた『影縫いの矢』が一本、音もなく飛来した。

 狭い通路ゆえに、ラグの横移動の選択肢は限られている。その軌道を完璧に読んだ射撃だった。ラグの足元にドロリとした黒い影が広がり、床に縫い付けられたように動きがピタリと止まる。


 拘束時間は1.5秒。

 ジークは『腐食の爪』の右拳に力を溜め、踏み込んだ。

 ラグが両の剣を交差させて防御姿勢をとるが、腐食の緑色のエフェクトが金属の刃と甲冑の表面を瞬時に侵食し始める。痺れで身動きが取れないその隙を突き、ジークは大剣の柄頭をラグの顎下へ向けて容赦なくカチ上げた。


【HP:91/140】(ラグ)

「ちっ……思ってたより重いな!」


 拘束が解けたラグが、よろめきながら後退して舌打ちをする。機動力を削られた状態での殴り合いでは、大剣の理不尽な重さが彼の想定を上回ったらしい。


「お前、骨に頼るだけのビルドかと思ってたが、純粋に剣の腕も立つじゃないか」

「骨に隠れてばかりじゃ、ここまで来られないからな」


 ラグが歯を食いしばり、今度は搦め手を捨てて正面突破を選んだ。

 凄まじい手数の乱打がジークに降り注ぐ。双剣でジークの大剣を上に逸らし、がら空きになった胴体へ重い膝蹴りを打ち込んでくる。ジークが息を詰まらせて後退した瞬間、右の刃が首筋を正確に切り裂いた。


【HP:99/127】(ジーク)

【HP:83/140】(ラグ) ※腐食継続ダメージ

「……やばいぞこれ。さっきの腐食か」


 ラグが、不気味な緑色のエフェクトに侵食され続ける自分の腕を一瞥し、酷く渋い顔をした。継続的なHPへのスリップダメージが、ジワジワと彼の命を削り取っている。


「解毒や浄化手段は持ってないのか」

「そんな便利なもん、持ってねえよ」

「そうか。なら終わりだ」


 ジークは削りかけのスケルトンを後方へ退かせ、自分自身が最前線に立った。

 すでに勝負は決している。腐食を受け、時間経過と共に確実に死へ向かっているラグに対し、ジークは正面から大剣を振り回して物理的な圧力をかけ続けるだけでいい。


 ラグも決死の覚悟で双剣を振るい、ジークのHPを削りにくる。しかし、焦りから生じた動きの乱れと、着実に蓄積していく腐食ダメージには勝てなかった。

 

 最後にジークの大剣が、ラグの胴体を真横から両断するように叩き込んだとき、ラグにはもう回避するための体力も、後退する余地も残っていなかった。


【HP:0/140】(ラグ)

「……マジかよ。ネクロマンサーのくせに、接近戦で負けるとか思ってなかったわ」

「俺も骨が使えない場所で、剣だけで戦う羽目になるとは思ってなかった」


 光の粒子となって消えゆく中でラグが自嘲気味に苦笑し、ジークもそれに短く笑い返した。


【死者の恵み 発動 最大HP+3】

【HP:130/130】

【25層クリア&PvP報酬を選択してください】

 ①『双剣の残影(消費型):一定時間、前後左右への回避速度が2倍に上昇する』

 ②『腐食強化(上):腐食の継続ダメージと防御低下効果が大幅に上昇する』

 ③『影歩き:移動中の足音と気配が完全に遮断される』


「②だ」

 腐食の蓄積速度と防御低下のデバフ効果が底上げされれば、ラグのような高耐久・高機動のプレイヤーを相手にしても、もっと素早く安全に削り切れる。


【スキル『腐食強化(上)』を取得しました】


 ◇ ◇ ◇


 26層は、巨大な大樹の根が縦横無尽に張り巡らされた広大な地下洞窟だった。


 根に絡みつかれたゾンビ型のモンスターが多数出現したが、もはやジークの軍勢にとっては良質な「補充素材」に過ぎない。アーチャー二体、近接三体、メイジ一体という洗練された陣形を組み、圧倒的な殲滅力で素早く踏破した。


【26層クリア報酬を選択してください】

 ①『生命吸収の牙:配下スケルトンの近接攻撃に、与ダメージの一部をジークのHPとして吸収するヴァンパイア効果が付与される』

 ②『召喚上限+1:同時召喚数が増える』

 ③『骨の要塞化レア:発動した瞬間、ジークの周囲に球状の骨のシールドを展開する。スケルトンを消費せず発動可能』


「①だ」

 スケルトン自身が前衛で戦いダメージを与えるだけで、後方にいるジークのHPが自動的に回復していく。近接型の骨を多用すればするほど、ジークの生存力が跳ね上がる。持久戦において、これほど頼もしいスキルはない。


【スキル『生命吸収の牙』を取得しました】


 続く27層は、通路が細く複雑に絡み合った迷路構造だった。

 足元には毒ガストラップ、壁には矢が飛び出す仕掛け扉がこれでもかと配置されている。しかし、不要なスケルトンを先行させて物理的にトラップを作動・消費させるという、ネクロならではの非道かつ合理的な常套手段が完璧に機能した。


 道中入り組んだ石壁の隅に、淡い光を放つ豪奢な宝箱を発見した。スケルトンを先行させて周囲の罠の有無を確認し、安全を確保してから蓋を開けさせると、眩い光が迷路の通路を照らし出した。


【アーティファクト発見】

【魂縛りの指輪(装備:指)永続】

 効果:スケルトン一体に「縛り」のマーキングを付与する。マーキングされたスケルトンが撃破された場合、撃破した相手に十秒間「呪縛」が発生し、スキル使用速度が著しく低下する。


「……なるほど。意図的に倒させたスケルトンが、相手のスキルを封じる爆弾になるってわけか」


 対人戦において、相手は厄介な魔法や弓を使うジークの骨を「優先して処理」しようとする。そのセオリーに沿った行動そのものが、致命的な罠になるのだ。

 ジークが指輪を右手に嵌めると、冷たく重い金属の感触が指にすっと馴染んだ。


【27層クリア報酬を選択してください】

 ①『霧迷宮の心得:視界不良・煙幕・迷宮などの混乱状態での方向感覚と回避精度が上昇する』

 ②『不死の烙印(ストック+1):死亡時にHP1で耐える回数が0→1に上昇する』

 ③『痛覚遮断:被ダメージ時の硬直が消滅する(ダメージは通常通り受ける)』


「③だ」

 昨日のラグとの一戦でも、被弾した瞬間に発生するシステム的な「硬直」を何度か突かれて連撃を許した。痛みを感じず、硬直がなくなれば、肉を切らせて骨を断つような強引な打ち合いで圧倒的に有利に立てる。


【スキル『痛覚遮断』を取得しました】

 

 ◇ ◇ ◇

 

 28層は、透明度を持つ巨大な水晶の柱が乱立する幻想的な空間だった。

 足元には足首ほどの深さの浅い水が張られており、歩くたびにパシャパシャと音が響く。さらに水晶柱のせいでエコーが複雑に交差しており、音だけで敵の方向を掴むのが非常に難しい地形だった。


 そしてこの厄介なフロアの開けた場所で、二人組のプレイヤーが待ち構えていた。


「やっぱり来たな。掲示板で噂通りの、不気味な骨使いだ」


 片手剣と身の丈ほどある大盾を持つ、重装甲の男。プレイヤーネームは「クロウ」

【HP:145/150】(クロウ)


 その隣に立つ小柄な女プレイヤーは、細身だが装飾の美しい弓を構え、すでに矢を番えてこちらを狙っていた。

【HP:112/115】(ファリア)


「二人で組んでかかってくるのか」

「悪いか?」


 クロウが余裕の笑みを浮かべてニヤリとした。

「この深さまでソロで来るようなプレイヤーに、単体で当たるには強すぎる。だから俺たち二人で当たる」


 極めて合理的だ。文句のつけようがない。

 しかし、ジークの視線はクロウの言葉よりも、後方に立つファリアの「矢の先端」に強く釘付けになっていた。矢じりの部分に、薄いが確かな黄金色の霊光が宿っている。


 ――聖なる矢だ。


 23層で戦ったセラという聖騎士との記憶が鮮明に蘇る。『骸骨王の残骸』が聖属性ダメージを20%軽減してくれるとはいえ、後方から継続してあのような矢を撃ち込まれれば、軍勢はあっという間に瓦解する。

 

 ジークは即座に、『魂縛りの指輪』のマーキング対象を決定した。後方に配置したスケルトンアーチャー一体に、「縛り」のマーキングを密かに付与する。弓使いであるファリアは、同業者であるアーチャーを最も危険視し、優先して処理しようとするはずだ。彼女がその骨を倒した瞬間、致命的な呪縛が炸裂する。


 思念波で全スケルトンへ瞬時に指示を飛ばす。

 近接三体が盾役のクロウへ突撃。アーチャー二体は牽制射撃。メイジは魔法支援。そしてジーク自身は、一直線にファリアへの接近を狙う。


「――来い」

 静寂を破ったのは、クロウの重戦車のような突進だった。

 

 重装の巨体が水を激しく蹴散らし、水飛沫を上げながら猛スピードで突っ込んでくる。スケルトンたちが即座に骨の壁を作り、クロウの大盾によるシールドバッシュを正面から受け止める。


 ずしん、という腹に響く衝突音。スケルトン一体が粉々に吹き飛んだが、即座に二体目がその隙間を埋めるように詰めた。


 そのクロウが作った前線の隙を縫うように、ファリアがジーク本体を狙って聖光の矢を放ち始める。

 一本目は首を傾げて躱す。二本目は大剣の腹を盾にして強引に弾き落とす。三本目が放たれる前に、ジークは水面を強く蹴って一気に間合いをゼロに詰めた。


「速っ!」

 ファリアが目を見開き、大きく後方へ飛び退る。

「クロウ、前衛が抜けてこっちに来てる!」

「くそっ、持ちこたえろ!」


 ジークとファリアが完全に接近戦の間合いに入ったその瞬間。

 

 縛りマーキングを施したスケルトンアーチャーが、時間差で飛来していたファリアの矢を受けてガラガラと崩れ落ちた。


 システム音が鳴り、【呪縛】の凶悪なデバフがファリアの身体に深く刻み込まれる。


「え、なにこれ――スキルが、発動しない!?」


 予期せぬ状態異常への戸惑いで、ファリアの動きが完全に止まった。

 その隙をジークが見逃すはずがない。踏み込みと同時に『腐食の爪』の左手がファリアの腕を万力のように掴み、そのまま強引に石の床へ叩きつけた。


【HP:73/115】(ファリア)

「クロウ! 助けて、動けない! スキルが使えない!」

「今それどころじゃないんだけど!!」


 クロウの悲痛な叫びが響く。彼は近接スケルトン三体の攻撃と、後方からの魔法支援によって完全にその場に釘付けにされていた。大盾で防ぎ、片手剣で骨を弾き飛ばしても、倒した傍から死体が新たなスケルトンとして起き上がってくる。無限の蘇生連鎖が、彼の体力をじわじわと削り取っていた。


 ジークはファリアとの容赦ない格闘戦に集中した。

 弓使いを近距離の泥仕合に引き込めば、射撃の精度は極端に落ちる。おまけに呪縛の効果でスキルも碌に発動できない。彼女は必死に腰の護身用短剣を抜いて応戦してきたが、純粋なステータスと近接戦闘の経験値において、圧倒的に分が悪かった。


 三発の腐食攻撃と、大剣の柄による強烈な打撃で、ファリアはあっという間に水晶の壁際へと追い詰められていく。


【HP:21/115】(ファリア)

「……負け、負けだ。クロウ、降参しよ!」

「はァ!?」


 クロウが驚いて振り返った瞬間、その無防備な背後を骨の戦士の一撃が直撃した。バランスが大きく崩れ、鉄壁の大盾が傾く。そこに生まれた致命的な隙へ、ジークの大剣が横薙ぎに走り、分厚い金属鎧に深い亀裂を刻み込んだ。


【HP:72/150】(クロウ)

「降参は受け付けないぞ」

「分かってるよクソッ!」

 クロウが血を吐くように怒鳴り返す。

「なら最後まで、腹くくるしかねえだろ!」


 再び激突。

 クロウは重装とは思えないほどの機動力を見せ、ジークの大剣の間合いの外側に張り付きながら、大盾の押し込みと短い片手剣の突きを嫌らしく組み合わせてリズムを崩しにかかってきた。流石はここまで生き残ってきた前衛だ。

 

 それでも、すでに付与された腐食の継続デバフが彼の命を削り、無限に湧き出すスケルトンたちの削り攻撃が確実に積み重なっていく。


 やがて、腐食によって大幅に最大値を削られたHPが尽き、クロウががくりとその場に膝をついた。


【HP:0/150】(クロウ)

「……強えな、骨使い。次は絶対勝つからな、覚えとけよ」

 

 光となって消えるクロウの隣で、ファリアの姿もすでに消滅していた。ジークは肩の力を抜き、波立つ水面に映る自分の姿を一瞥した。

 

 禍々しい『骸骨王の残骸』を頭に乗せ、全身から腐食のオーラを漂わせる大剣使い。我ながら、完全に悪役かボスモンスターの格好だ。


【死者の恵み 発動×2 最大HP+6】

【HP:136/136】

【28層クリア&PvP×2報酬を選択してください】

 ①『氷結の気配レア:スケルトン一体に「凍気」を付与。その個体の攻撃命中時に凍結の確率判定が発生する』

 ②『死の行進:スケルトン全員の移動速度が大幅に上昇する(常時適用)』

 ③『蘇生加速:スケルトンの蘇生速度が極端に短縮され、ほぼ即時で蘇生可能になる』


「③だ」

 

 蘇生が即時になれば、スケルトンが敵の攻撃で砕け散ったその瞬間に、文字通り「すぐさま」新しい個体を補充できる。軍勢の壁に途切れ目が一切なくなるのだ。


【スキル『蘇生加速』を取得しました】


読んでいただきありがとうございます。

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