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VRMMOで『■■■の龍騎士』になった俺、世界を蹂躙する~ドラゴン×クトゥルフの異質な力ゆえに、プレイヤーからラスボス扱いされる~  作者: 旅路


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深淵迷宮1日目 PvP

 第11層のフロアに足を踏み入れた瞬間、これまでの薄暗く狭い迷宮の通路とは、全く違う光景がそこには広がっていた。

 

 見上げるほど異様に高い天井を支えるように、苔むした巨大な石柱が等間隔に何本も立ち並ぶ、広大なホールのような空間。足元は冷たく硬い石畳で舗装されているが、所々がひび割れ、名も知らぬ巨大な獣の骨や、過去の犠牲者らしき冒険者の朽ちた武具が散乱している。

 

 遠くに微かに動く小さな人影が見えた。おそらく自分と同じ、この過酷なサバイバル大会に参加している他のプレイヤーだろう。

 

 ジークは足音を殺し、最も近くにあった太い石柱の物陰へと滑り込む。錆びた大剣を背に負ったまま、息を潜めてホールの中央を観察した。

 

そこには、周囲の淀んだ空気を一手に引き受けるかのような、大型のモンスターが佇んでいた。身の丈は優に三メートルを超え、全身の皮膚はどす黒く変色して爛れている。引きずっているのは、刃こぼれだらけの身の丈ほどもある巨大な斧。頭上に浮かぶ赤いマーカーには『腐敗の処刑人』と記されていた。

 

 一目見ただけで、その異常な膂力とタフさが伝わってくる。明らかに、今のジークがソロで正面から挑んで無事で済む相手ではない。

 

 静寂を破ったのは、鋭い風切り音だった。

 別の方向――ジークから見てホールの右側の通路から、二人のプレイヤーが現れた。一人は深緑の外套を羽織った軽装の弓使いの女性。もう一人は、分厚い鋼の鎧に身を包み、大盾と長槍を構えた重装備の男だ。

 二人は無言のまま視線を交わすと、迷うことなく処刑人へと向かって攻撃を仕掛け始める。


「シッ!」


 弓使いの鋭い呼気と共に放たれた矢が、空気を裂いて処刑人の頭部へと次々に命中する。

 ガァアアッ! 怒りに満ちた咆哮を上げて処刑人が巨大な斧を振り下ろす。だが、その強烈な一撃を前に出た槍使いが斜めに構えた大盾で見事に受け流した。金属が激突する甲高い音がホールに響き渡り、火花が散る。槍使いは体勢を崩すことなく、盾の隙間から鋭い突きを放ち、処刑人の脚部の腐肉を深くえぐった。


 見事な連携だった。弓使いがヘイトをコントロールしつつ継続的なダメージを与え、槍使いが完璧な防御とカウンターで前線を維持している。息の合ったその動きは、彼らがこれまで幾度も死線を潜り抜けてきた熟練のパーティであることを示していた。処刑人のHPゲージが、ミリ単位ではあるが確実に削られていく。

 

 ジークは冷たい石柱に背を預けたまま、その様子を冷静に眺め、自分の立ち位置と思惑を頭の中で整理していた。

(あのままあの二人が倒せば、当然クリア報酬は二人で山分けになる。こっちが横から手を出して横取りすれば……いや、あの連携の隙に割り込むのはリスクが高いか)


 状況を見極めようとしたその矢先、事態は急変した。

 処刑人と二人組の死闘が繰り広げられているホールの反対側から、さらに別の三人組のパーティが姿を現したのだ。


 彼らの装備は、先ほどの二人組よりもさらに豪華だった。全身を純白のミスリルで固めた騎士、ローブの裾に複雑な魔法陣の刺繍を施した魔術師、そして軽快な革鎧を纏った盗賊らしき男。特筆すべきは、魔術師の足元にすでに高度な魔法陣のエフェクトが展開されており、いつでも強力な魔法を放てる状態になっていることだ。


「おいおい、先客がいやがるじゃねえか。しかも随分と消耗してるご様子で」


 三人組の先頭、白銀の甲冑を着た男が下劣な笑い声を上げる。そして、顎で魔術師へ合図を送る。


 次の瞬間、魔術師の杖の先端から、眩い熱を伴った巨大な火球が放たれた。狙いは処刑人ではない、処刑人の攻撃を必死で凌いでいた、槍使いと弓使いの二人組へ向けてだった。


「ッ! なんだと!?」


 背後からの強烈な殺気に気づいた槍使いが、咄嗟に後ろを振り返り、大盾を構え直そうとする。だが、処刑人の重い一撃を受け止めた直後の硬直状態では、完全に防御姿勢をとることは不可能だった。紅蓮の炎が槍使いの大盾ごと二人を飲み込み、凄まじい爆発を引き起こす。


 爆風がホールを吹き抜け、二人のプレイヤーは紙屑のように吹き飛ばされて硬い石畳に転がった。

 ジークの視界の端で、二人のステータスバーが危険域を示す赤色に点滅する。

【HP:38/120】(槍使い)

【HP:15/80】(弓使い)


「やめろ! 卑怯だぞ、お前ら!」


 煤だらけになった槍使いが血を吐きながら叫ぶ。三人組の顔に浮かんでいるのは、獲物をいたぶる捕食者のような冷酷な嘲笑だけだった。

 彼らは歩みを止めることなく、そのまま追撃を仕掛ける。弓使いが這いつくばったまま必死に弓を引き絞り、牽制の矢を放つ。しかし、三人組の騎士が前方へかざした左手から青白い光の障壁が展開され、矢は乾いた音を立てて無残に弾き落とされた。


「大会なんだぜ? 卑怯もクソもあるかよ。生き残った奴が勝者なんだよ」


 騎士が冷たく吐き捨てると同時に、魔術師が再び杖を振るう。今度は無数の氷の礫が、身動きの取れない二人へと降り注ぎ、悲鳴を上げる間もなかった。無数のダメージエフェクトが宙に舞い、槍使いと弓使いのHPゲージは一瞬にしてゼロへと消失する。

 二人の体は光の粒子へと分解され、システムが宣告する無機質な死亡エフェクトと共に、虚空へと消えていった。


「ざっこ。ま、あいつらが削ってくれた分の労力と、この階層のクリア報酬は美味しくいただかせてもらうけどな」


 三人組は高笑いしながら、今度こそ本来の標的である『腐敗の処刑人』へと向き直った。

 一部始終を見ていたジークは、物陰でさらに深く息を潜める怒りや正義感など、このデスゲームに近いイベントにおいては何の役にも立たない。ジークが感じていたのは、純粋な損得勘定と生存本能に基づく冷徹な計算だった。


 あの三人組は明らかに格上だ。装備の質も、躊躇なく他者をキルする冷酷さも、今の自分が正面から戦って勝ち目のある相手ではない。かといって、このまま石柱の陰で震えて見過ごせば、大会を生き抜くための貴重な報酬は全て彼らに奪われてしまう。


(……どうする。引くか? いや、ここで引けばジリ貧だ。何か手は――)

 

 その時、獲物を横取りされた形となった処刑人が、鼓膜を破るような激しい咆哮を上げた。怒り狂った巨体が地響きを立てて突進し、巨大な斧が横薙ぎに振り回される。圧倒的な質量を持った一撃が、三人組の盗賊らしき男を直撃し、壁際まで大きく吹き飛ばした。


「うおっ!? なんだこいつ、予想以上に一撃が重いぞ!」

「チッ、盾役がいないとキツイな! 俺が前衛で凌ぐ、お前らは全力で回復と魔法を回せ!」


 騎士が慌てて大剣を構え、陣形を組み直す。しかし、処刑人の猛攻は凄まじかった。先ほどの槍使いのように完璧に攻撃を受け流す技術を持たない騎士は、一撃を受けるたびに大きく体勢を崩し、ゴリゴリとHPを削られていく。

 三人組は、先ほどの余裕を完全に失い、ギリギリのタイミングでの回避と、アイテムや魔法による必死の回復を繰り返しながら、泥臭く処刑人のHPを削り続けることになった。

 

 十分ほどの激闘が続いただろうか。

 激しい息闘の末、ようやく処刑人の動きが目に見えて鈍り始めた。全身から黒い瘴気を吹き出し、その巨体がフラフラと揺れる。


「ハァッ……ハァッ……よし、あと少しだ! 一気に押し切れ!」

 

 三人組の騎士が大きく息を吐き、勝利を確信したように叫んだ。

 

 ――だが、その瞬間。完璧にヘイトが処刑人に集中し、彼らの意識から「周囲への警戒」が完全に抜け落ちたその刹那。

 

 ジークは動いた。石柱の物陰から音もなく飛び出し、自身のスキルで使役している四体のスケルトンを引き連れ、乱戦の背後へと大きく回り込む。狙うはただ一人、パーティの生命線であり、最も後方で無防備に杖を構えている魔術師だ。


「おい、後ろ!」

 

 ポーションを飲んでいた盗賊がジークの存在に気づき、悲鳴のような声を上げた。だが、遅すぎた。

 ジークの手にある、重量だけが取り柄の分厚く錆びた大剣が、魔術師の無防備な背中へと容赦なく叩き込まれた。


 ドォォォン!!!!


「ガ、アッ……!?」


 肉を断つ嫌な感触と共に刃が深く突き刺さり、魔術師が前のめりに倒れ込み、鮮血が噴き出す。同時に、ジークの指示を受けた四体のスケルトンたちが、カタカタと骨の音を鳴らしながら魔術師を四方から取り囲み、錆びた剣を次々と突き立てた。


「うわっ、なんだお前! どこから――!」


 地面に這いつくばった魔術師がパニックを起こし、慌てて杖を振り回して魔法を詠唱しようとする。だが、ジークはそれに構うことなく、無慈悲に二撃目を放った。

 鈍い銀色の弧を描いた大剣が、魔術師の首元を正確に捉え、そのままの勢いで冷たい石畳へと叩きつける。スケルトンたちも一斉に剣を乱れ打ちし、魔術師のHPゲージを一気にゼロの底まで削り切った。


【HP:0/95】(魔術師)


 断末魔の叫びを上げる暇もなく、魔術師の体は光の粒子となって砕け散った。

 背後で起きた惨劇に気づき、残る騎士と盗賊が怒りに顔を歪めてジークへと向き直ろうとする。


「てめぇ、よくも……!」


 だが、彼らは致命的なミスを犯していた。自分たちの目の前には、まだ「死にかけだが生きている」凶悪なボスモンスターがいるということを。

 怒り狂う二人の背後で、処刑人が最後の力を振り絞り、巨大な斧を天高く振りかぶっていた。


「あっ――」

 絶望的な声が漏れた直後、重力と膂力の全てを乗せた斧が、騎士の脳天へと真っ直ぐに振り下ろされる。

 防御する間もなく直撃を受けた騎士は、ボールのように吹き飛び、石柱に激突する。鈍い骨の折れるような音が響き、彼の体は力なく石柱から滑り落ちた。

【HP:12/150】(騎士)


「クソッ、タイミング最悪だ! 一旦退け!」


 残された盗賊が恐怖に顔を引きつらせ、撤退を試みようと背を向ける。だが、獲物を逃がす処刑人ではなかった。地を這うような突進からの追撃が容赦なく二人へ襲いかかり、回復役である魔術師を失い陣形も崩壊した二人には、もはや処刑人の猛攻を凌ぐ術は残されていなかった。


 やがて、悲痛な叫び声と共に二人とも完全に打ち倒され、光の粒子となって虚空へと消えていく。

 静寂が戻った空間に、無機質なシステムのアナウンス音が鳴り響き、ジークの目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がった。


『PvPの条件を満たしました。追加報酬を選択してください』

【追加報酬を選択してください】

 ①『暗殺者の刃:パッシブスキル。背後からの近接攻撃ダメージが大幅に上昇する』

 ②『略奪者の勘:パッシブスキル。倒した敵プレイヤーの装備品を低確率でドロップアイテムとして取得できる』

 ③『死霊の増援:アクティブスキル。PvP撃破時、倒した相手の死体を即座にスケルトンとして蘇生し、一時的な使役対象とする』


 ジークはウィンドウの文字を素早く目で追い、迷うことなく③の『死霊の増援』をタップした。

 プレイヤーを倒せば、即座に手駒が増える。ネクロマンサーというジョブを選んだ以上、手数の多さはそのまま生存率に直結する。特に、孤立無援のこの状況においては、最も有効で凶悪な選択肢だった。


【スキル『死霊の増援』を取得しました】


 ウィンドウが光と共に消え去り、広大なフロアには、荒い息を吐くジークと、全身から黒い血を流す『腐敗の処刑人』だけが残された。

 処刑人はゆっくりと巨体を揺らし、真っ赤に血走った眼球でジークを見据え、低く不気味な唸り声を上げた。刃こぼれした巨大な斧を引きずりながら、一歩、また一歩とこちらへ近づいてくる。

 

 ズン……ズン……と、その重い足音が石床を叩くたびに、ジークの足元へ不吉な振動が伝わってくる。

 相手は瀕死だ。だが、その一撃の重さは先ほどの光景が証明している。まともに食らえば、一撃でHPの大部分を持っていかれるだろう。

 ジークは掌の汗をズボンで拭い、錆びた大剣を両手でしっかりと構え直した。そして、足元で待機する四体のスケルトンたちへ、意識を集中して念話で指示を飛ばす。


『全員、散開しろ。俺から引き離してヘイトを稼げ!』


 カタカタと音を立て、四体のスケルトンが四方へゴキブリのように素早く散らばり、処刑人の注意を引くために足元へ斬りかかる。

 煩わしそうに処刑人が斧を横薙ぎに振るい、凄まじい風圧と共に哀れなスケルトン一体が上半身を完全に粉砕され、骨の粉となって消滅した。

 

 だが、その犠牲は無駄ではない。残る三体のスケルトンが、処刑人の意識が逸れたその隙を突き、背後へ回り込んで錆びた剣を脚部へ深く突き立てた。

 

 ギィアアアッ! と処刑人が痛みに吼える。

 その決定的な隙を見逃さず、ジークは地を蹴って側面へと大きく回り込んだ。大剣の柄を両手で握り締め、全身のバネを使って全力で振り抜く。


「シッ!」

 

 鈍い銀閃が、処刑人の腐りかけた脇腹の肉に深く食い込んだ。

 硬い筋肉を断ち切る重い手応えと共に、真っ黒な血が噴水のように噴き出し、処刑人が怒り狂い、強引に体を捻ってジークへ向けて斧を振り下ろしてきた。

 ジークは刃を強引に引き抜き、後方へ大きく飛び退く。鼻先を巨大な刃が通り過ぎ、前髪が数本斬り飛ばされた。ギリギリの回避だ。


 だが次の瞬間、処刑人の赤い目が凶悪に輝き、予想外の行動に出た。大上段に構えた斧を、ジークへ向けてではなく、自身の足元の石床へと全力で叩きつけたのだ。


 ドゴォォォォンッ!!爆発のような轟音と共に、石畳が粉々に砕け散り、凄まじい衝撃波が円状に発生した。

 不可避の範囲攻撃。爆発的な物理のうねりが、ジークとスケルトンたちを容赦なく襲う。


「ぐっ、あぁっ!?」


 ガードする間もなく体が宙に浮き、数メートル後方へと吹き飛ばされ、硬い床を何度も転がった。

 極限まで痛覚設定を制限しているにも関わらず、鋭い痛みが全身を駆け巡り、視界が一瞬真っ白に明滅する。肺から空気が押し出され、呼吸が止まる。


【HP:9/100】

 視界の隅で警告音と共に赤く点滅するHPゲージ。半分あったHPが、たった一撃の余波で瀕死まで消し飛んでいた。

 

 周囲を見渡せば、スケルトンたちも悲惨な状態だった。二体は骨が砕けて半壊状態になり、残る一体は衝撃に耐えきれず完全に砕け散って消滅していた。

【召喚数:2/4】


「……クソが」

 口内に広がった鉄の味を吐き出しながら、ジークは歯を食いしばって立ち上がる。土煙の向こうで、処刑人が再び斧を肩に担ぎ、ズン、ズンと死神のような足音を立ててこちらへ向かってくる。


 残りHP9、まともなスケルトンは二体。対する相手は、瀕死とはいえまだ底知れない力と、即死級の範囲攻撃を残している。

 

 勝てる保証などどこにもない。圧倒的に不利な状況だ。だが、ここで背を向けて逃げれば、消耗しただけで何も得られない。生き抜くためのリソースが尽きる。


「……やるしか、ねぇよな」

 

 ヒビの入った錆びた大剣を肩に担ぎ直し、自分自身を鼓舞するように低く呻くように笑った。恐怖よりも、ジークは生き残るための執念が勝った。彼は足に力を込め、自ら処刑人へ向かって真っ直ぐに走り出した。

 

 主の意志に応えるように、半壊した残る二体のスケルトンもカタカタと骨を鳴らして後に続く。距離が詰まり、処刑人の巨大な斧が大気を震わせて斜め上から振り下ろされる。

 

 ジークはその軌道を冷静に見極め、紙一重のタイミングで前方へ前転するように飛び込み、巨大な刃を回避した。轟音と共に背後の床が砕ける。

 その直後、背後へ回り込んでいた二体のスケルトンが、処刑人の膝裏へ決死の特攻を仕掛け、錆びた剣を深く突き立てた。

 

 ギィイイイッ!

 確実にダメージは蓄積している。処刑人の巨体が大きくぐらつく。前転から立ち上がったジークは、その反動を利用して大剣を両手で握り、下段から処刑人の無防備な胸ぐらへ向けて、渾身の力で斬り上げた。


「おおおおぉぉッ!」


 金属と骨が軋む不快な音と共に、刃が処刑人の分厚い胸の肉を深く裂き、黒い血が派手に飛び散る。

 致命傷に近い一撃。だが、処刑人は倒れない。再び赤い目を光らせ、先ほどの衝撃波を放とうと、両手で斧を高く振り上げた。


 ――だが、ジークはその動きを完全に読んでいた。

 斬り上げと同時に大剣を手放し、自らは後方へ全力でバックステップを踏んで、すでに安全圏へと距離を取っていたのだ。


 ドゴォォォンッ!


 処刑人の放った衝撃波が空しく虚空を叩き、誰もいない床を粉砕する。

 生じたデカい隙。そこへ、スケルトンたちが最後の一撃とばかりに一斉に突撃し、処刑人の傷だらけの脚部を集中攻撃する。腐った肉が完全に削げ落ち、太い骨が剥き出しになる。

 ついに限界を迎えた処刑人の巨体が、バランスを崩し、轟音と共にズシンと両膝をついた。


「今だッ!!」

 ジークは床に突き刺さっていた大剣を蹴り上げて掴み取り、全力で地を踏み込んだ。

 跳躍し、大剣を頭上高く振りかぶる。重力、自身の体重、その全てを剣の刃に乗せ、眼下に迫った処刑人の太い首元へ向けて、一文字に叩き落とす。

 

 メチャッ……という、ひどく生々しく鈍い破壊音がホールに響き渡った。処刑人の首が不自然な方向へ折れ曲がり、その巨体が糸の切れた操り人形のように完全に崩れ落ちる。

 

 一瞬の静寂の後、巨大な体は無数の眩い光の粒子となって砕け散り、空高く舞い上がって消えていった。


『11層のボスモンスター【腐敗の処刑人】の討伐を確認しました』

【第11層 クリア】

 

 ファンファーレと共に響くシステムアナウンス。

 ジークは安堵のあまり大剣を杖代わりにしてその場に膝をつき、肩で大きく、荒い息を吐いた。

【HP:9/100】

「はぁ……はぁ…本当にギリギリの死闘だった。あと一撃、いや、あの衝撃波の余波をもう一度でも喰らっていたら、確実に死んでいた」

 

 だが、生き残った勝ったのだ。心地よい疲労感に包まれる中、目の前にフロアクリア報酬を示す煌びやかなウィンドウが出現する。

 

 しかし、今回はいつもと少し様子が違った。ウィンドウの縁が、微かに黄金色の光を帯びて明滅しているのだ。


『規定タイム内のクリア、およびソロ討伐ボーナスを確認。報酬テーブルが一部変動しました』

【11層クリアレア報酬を選択してください】

 ①『召喚強化(中):パッシブスキル。召喚体の基礎攻撃力と防御力が15%上昇する』

 ②『死霊の絆:パッシブスキル。使役する召喚体が倒されても、15秒後にMP消費なしで自動的に再召喚される』

 ③『魂の収奪:パッシブスキル。敵プレイヤーをキルした際、そのプレイヤーが付与されていたバフ効果の一部をランダムで奪取する』


「……レア枠、だと?」


 ジークは目を丸くした。何十もの階層を潜ってきたが、報酬画面で黄金のレア表記を見たのは初めてだった。ソロで格上のボスを倒したことへの、システムからの特別ボーナスだろうか。

彼は少しだけ息を整え、三つの選択肢を慎重に吟味する。


 ①も悪くないが、地味だ。③は対人戦に特化しすぎている。だが、②の『死霊の絆』――これは破格だった。スケルトンが倒されても自動で復活するなら、消費MPを気にすることなく、長期戦や乱戦で圧倒的な手数と壁役タンクを維持できる。ネクロマンサーにとって、喉から手が出るほど欲しい能力だ。

 

 ジークは震える指で、迷わず②の黄金に輝くテキストをタップした。

【スキル『死霊の絆』を取得しました】

 温かい光がジークの体を包み込み、新たな力がステータスに刻み込まれるのを感じる。彼はゆっくりと立ち上がり、ホールの奥、さらに深い暗闇へと続く下り階段を見据えた。

 

 まだ大会は一日目が終わろうとしているに過ぎない。この過酷なサバイバルゲームは、あと四日間も続くのだ。

 

 この先の階層にどんな理不尽な化け物が待っているのか、どんな狂気じみたプレイヤーと出会い、殺し合うことになるのか。


 全く分からない。

 だが、それでも前に進むしかない。生き残るため

*死霊の増援は、取得する前だったので発動しません。


読んでいただきありがとうございます。

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