~第4話~ 何のための力
氷は熟睡していたため、少し起きるのが遅くなってしまった。
けれども疲れが全てなくなった気がして、
清々しい気分で背伸びをする。
「ん〜〜、、はぁ」
(流石に昨日のはビビったなぁ
とりあえず朝の挨拶をしにいこうかな)
氷は自分の部屋を出る。
しかしあの女性の居場所が分からないため、
とりあえず昨日の応接間に向かう
応接間は部屋と近いためわずか数歩で着いた
応接間を開けてみるがあの女性はいない。
どこにいるかを考えていると
「お、氷、起きたか。
いやぁ本当、昨日はすまなかった」
女性は今日は仕事なのだろうか。
いかにも魔道士といった感じで白地に黄色の糸で装飾されたカッコいいローブの様なものを羽織っている。
「あ、おはようございます!
え〜と、、」
「あぁ、そういえばまだ名乗ってなかったな。
私がネオジムの師匠であり中央剣魔上級学園の学園長を務めている、
パルテア・パンテルだ
みんなにはパルテアと呼ばれている」
「よろしくお願いします!」
「いやぁでも本当君が無事でよかったよ、」
「そういえば、なんでそこまでネオジムちゃんの事を怖がっているんですか?
パルテアさんのほうが強そうに感じるんですけど」
「ん?あぁアイツまだ言ってな、、、
いや!何でもない!」
「え?」
「いや、本当何でもない。
それより、あの子のことよろしくな、」
「もちろんですよ!
でも、なんでですか?」
「いやぁ、、、まぁこれくらいなら大丈夫か、
アイツは才能がありすぎたんだ
それで周りから疎まれていてな、
まぁそんなところだ、
それより、君は正式に学園への入学が決まった。
それを昨日伝えたんだが、、外野がギャーギャーわめき散らかしていたんでな、
今朝行って少し、ほんのちょーと脅してきたんだ」
「あはは、そうなんですね、」
氷は万が一にでもこの人だけは敵に回さないようにしようと思った。
「それでだな。こっちに来て早々で悪いが、
3日後に入園式が執り行われる。
ネオジムからスキルと能力について教えといくれと頼まれたし、異世界から来たのならこちらの常識もわからないだろう。
そこでこの3日間で教えてやる。」
「わかりました!よろしくお願いします!」
「まず、今日はスキルと能力について教えてやる
スキルは基本、スキル使用者の体内でのみ作用する。
二次的な効果で他人に影響を与える事はあるがな、、例えば有名なのは身体強化、反応速度強化とかだな、
ここらへんは努力すれば取得できるからやっておくといい。初心者以外は必ず取得しているからな。
続いて能力だが、、これはまだよく分かっていない。」
「え?どういう事ですか?」
「能力は基本この世界の生物が扱う技術の中で最強であり、努力でどうにかなるものではない。生まれながらにして世界で1つだけ、
唯一無二だ。
だが能力を持っているやつもいるし、持っていないやつもいる。
ただ、強化系であったり、攻撃系であったり防御系であったり、概念系であったり、
今までいろんな能力が発見されている。
まぁ区別して分けようとする事自体バカだと思うがな。
一番有名なのは勇者だな。
こいつは概念系だ。だが、それ以上に厄介極まりないのは条件系だ。」
「条件?ですか?」
「あぁ、私が戦った中で一番厄介だった奴が条件系の能力を持っていた。
未だにその条件がわからない。
そいつの能力は何かの条件を満たすことで
相手の攻撃、防御を完全に無効化する。」
「そんなの勝てないじゃないですか!」
「あぁ、私ですら勝てなかったからな、
ただ、条件系は厄介だと言ったが、必ず穴がある。その穴を突くことができればそいつはほとんど無能力と同じだ。
だから情報が大事だ、まぁこれは対能力者に限らず戦闘全般の話だが、
だから君には先頭中に相手の行動をみて推測、対応できる力を鍛えてもらう。
あと取得可能なスキルは全部取ってもらう。」
「わ、わかりました。」
(大変そうだなぁ)
「まぁ大変だろうが大丈夫だ!
基本戦闘の間に入手できるスキルばかりだしついでに推測、対応する力も鍛えられるから私と戦ってもらう。
裏口から出てすぐの広い空き地で待ってるから準備ができたら来なさい」
「え、そ、そんな」
無理だ、と言おうと思ったが言う事を言ったらすぐ外に出ていってしまい、何も言えなかった。
(はぁ、まぁ死ぬ気でやるしかないか、)
氷は気持ちを落ち着かせ、
精神を統一する。
やることは決まった。
自分の力を全て使い戦う。死ぬ気で戦う。
決意を固め裏口に歩き始める。
廊下がギシギシときしむ、普段なら気にもならないかすかな音だが、この緊張感の中では自分の血が流れる音でさえ、うるさいと感じてしまうほどだ。
ガチャ
ドアを開けるそこには杖を携え仁王立ちしているパルテアの姿が見えた。
パルテアの近くまでいき、5mほど離れて対面する。
風が吹く。
また風が吹く。
「氷。準備はいいか?」
「はい。大丈夫です」
「そうだな、この小石をうえに投げる。
それが落ちた時に開始としよう。」
「わかりました!」
パルテアが小石を上に弾き飛ばす。
2秒とちょっと、小石は地面と衝突する。
確かにパルテアは小石が地面に落ちるまで一切の動きを見せていなかったはずだ。
それがなぜか既に蹴りの体勢で氷の横腹を正確に捉えていた。
「がはッ!!!」
「おいおい、もっとよく見ろ!
これが剣だったら既に死んでいるぞ!
次は右!左!!」
蹴り飛ばした氷に追いつき、右と左、計2回の殴打。
(嘘でしょ、あの人速すぎ、)
「こうなったら神刀顕現!!」
「ほう、それが神刀か、なかなかどうして
剣のくせに主人思いなやつだ。
だがお前、剣術習ったことあるのか?」
瞬間。
パルテアの待つ杖が光だし、大剣となった。
おおよそ大剣を持っているとは思えない初速で飛ぶように迫ってくる。
(やばい、あんなの食らったら殺す気はなくても骨が折れる!)
「死ぬ気で防げよ!!!
氷!!!!!」
(受け止めるのも無理、避けても次の攻撃が来る!どうしたら、、、
タイミングを合わせてあの大剣の横腹を刀で叩くしか無い!)
先程見せた見事な横腹への一撃。
たしかに何もすることはできず食らったが、
氷とて、何かをしようとしていたことは間違いない。
通常、スキル取得を目的にしている時、安全な環境で行う。
だが、たとえパルテアは本気を出していないとはいえ、格上の相手が本物の武器を持って攻撃を仕掛けている。
命をかけている時、自己防衛本能で全神経を無理やり使い情報を処理する。
そして氷の成長スキルも加わり、わずか3回の防御意識で反応速度強化を手に入れた。
「ここだぁ!」
だが氷の狙いとは異なり、鍔迫り合いへと発展。質量と速度の差で後方へ大きく吹き飛ばされる。
「狙いは良かったが少し速かったなぁ!」
「かは、、
くっそどうすれば!」
パルテアは先程よりも速く迫ってくる。
(どうしよう!魔法をつかう?いや、そんな隙は無い!!)
氷は考えていた、どうすれば防げるのかを。だが攻撃の威力を直接的に知っている氷の身体は理解していた。
先程取得した反応速度強化スキルと、あのスキルを併用することで大剣の横腹を叩く事は容易いことを………
通常、探知スキルは120分間自分を中心として半径250m〜500mの生命体の情報を使用者に送り続け、2分のクールタイムが発生する。
一方氷が手に入れた特異な探知スキルは時間制限なし、氷が使用してから解除するまで半径2mにあるもの全ての情報を氷に送り続け、クールタイムも発生しない。
スキル2つの併用。
この土壇場で…
(スキル!発動!!!)
「ここだぁぁぁぁあ!!!!」
氷は成功させた。
直後パルテアの大剣の先から手首にかけての軸がブレる。
低飛行状態で高速移動をしていたパルテアにとって、少しのズレですらコントロール不能になる。
はずであった。
パルテアは氷のスキルを知っていた。
それだけではない彼女の異様な勘が氷がこの土壇場でスキルの併用を成功させてくると告げていた。
であればどうするかわざわざ成功させてやるほどパルテアは甘くはない。
大剣を強く握らず右足に意識を集中させていた。
(よし!大剣を弾い、、
え?蹴り!?それは避けきれな!)
数秒後パルテアの足が氷の腰辺りを捉える。
だが氷も素早く行動していた。
体を後に反らしつつ、右回りに全身をひねる
その判断が功を奏し、蹴りをいなす事に成功した。
一方パルテアは流石にそこまでは読みきれず
空中で体勢を崩し、地に落ちる。
その一瞬の隙を氷はなんとか捉え刀の棟の部分から振り下ろす。
だが、パルテアはその刀身ごと握り締める。
もちろん指の皮は切れ血が顔に落ちる。
「おい!!舐めてんじゃねぇぞ!!!
殺す気で来い!!!」
「、、、」
「そんな覚悟で!!!大切な友を!!守れるとでも思っているのか!!!!」
当たり前だが氷は人どころか動物すら殺したことが無い。それどころか道端で弱っていた犬を助けたこともある。
だが、この世界は無情で理不尽だ、
死がいたるところに潜んでいるこの世界では
その優しさが、優しさこそが身を滅ぼし、友まで失うことになってしまう。
パルテアは刀身から手を離し、氷の腹部を蹴り上げ、空中へ飛ばす。
パルテアは追撃を加えず氷が自由落下するのを待つ。
「どうした!!!!
お前はネオジムの事を守りたくはないのか!!!ネオジムは君の事を唯一無二の心友だと手紙で言っていたぞ!!!!
お前は!!ネオジムを裏切るのか!!!!」
この時辛い現実を目の当たりにしたのは氷だけではない。
わずか18の少女をこれほどまでに追い詰めるのは心苦しい。
だからといって、甘えさせれば後でもっと傷つくことになってしまう。
氷はゆっくりと立ち上がり、
今までの行動からでは想像がつかないほど速く近づき、パルテアの足を蹴り払う。
パルテアは仰向けに地面に倒れ、氷はその首元に神刀を突きつける。
「パルテアさんは私たちの敵なんですか」
「、、、」
パルテアは何も言えなかった。
嘘でも弟子と弟子の友を殺すだなんて
とても言えなかった。
「殺意が無いならパルテアさんを殺す事はできない。
でも、ありがとうございます。お陰で思い出せました。
私達に殺意を向けてくる人たちは
私が、責任を持って、殺します。」
氷の瞳に光は無かった。
それはパルテアが一番見慣れた目だった。
全てに絶望していて、全てがどうしょうもなく憎くて、でもそれと同時に自分が好きだった景色や、大切に思う人間がいて、、全てを嫌いにも好きにもなりきれない。
だから好きな物だけ守って害をなす者を消す
そういった覚悟の目だ。
「なぜそんなに悲しい目をしてるんだ、、」
「私はもう二度と大切な物を失わない。
ただそれだけです。」
パルテアは聞きたかった、元の世界で何があったのかを、聞いてどうするつもりだったのかは本人ですらわからない。だが聞かなくてもわかる。彼女は壮絶な過去を背負って生きている。
わざわざもう一度ハッキリと思い出させるなんてそんな残酷な事はできない。
パルテアは起き上がり服についた土を払う。
「そうか、余計なことを言ったな。
でもな、間違えたからって自分を責めるな。
その間違いはお前のせいじゃない。」
「…!
わかりました、!」
氷はまだ全てを思い出せたわけではない。でもきっとそんな事を言ってくれたのはパルテアが初めてである。
「まぁスキルも入手できたみたいだし
今日の目的は達成だ。よく頑張ったな」
「ありがとうございます!」
「そうだ、あと何か困ったら私に言いなさい私ができる範囲であれば何でも助けてやる」
「はい!!」
「そうだ、回復魔法をかけてやる。横腹が痛いだろう。私も少し力を入れすぎた。」
「回復魔法使えるんですか!?」
「あぁ、まぁな、私は気力と神力の才があるからな」
「いつか教えて下さい!!」
「あぁ、いいだろう
いくらでも教えてやる!」
今の氷の目に曇りは無い、パルテアはやはり子供は元気であるべきだと、再確認するのであった。




