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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

償いの捧げ

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 反省文。

 おそらく、この世で書きたくないものの中でも上位に位置するものじゃないかと思う。

 これが業務になると始末書になり、客観的な報告となると顛末書になる。本人がどれだけ事態を把握し、再発防止に努めようとしているかの表明になるし、場合によっては裁判の場で求められるものになるかもしれない。

 謝罪の意を伝える方法のひとつだが、これだけで納得されるケースなどは、まああまりないだろうな。最終的には行動と結果で示していくことになり、一生懸命やっていようが結果が伴わなければ、反省していない意思表示になってしまう。

 ガチで反省するもの、というとどのようなケースがあるだろうか……。

 だいぶ前に友達から聞いた話なのだけど、耳に入れてみないかい?


 ことのおこりは何十年も前。

 友達がまだ子供だったころ、海で遊んでいたときのことだという。

 ひとしきり泳いで一休みしようと、海から浜辺へ戻ってきたとき、ほぼ同じタイミングですぐ隣に流れ着いてきたものがある。

 透明な小瓶。それも中に小さく折りたたんだ紙切れの入ったものだ。

 まだまだロマン大好きな友達は、それを見て目を丸くした。このような手紙が冒険への導入になるような創作作品を、たびたび観賞してきたからね。いよいよ自分も、その立場になるのかとワクワクしたらしい。

 口をしめるコルク栓を抜くのには少し難儀したが、どうにか中の紙切れを取り出した。四方のふちはボロボロで切れ目もそこかしこに入った、ハンカチほどの大きさのそれには、にじんだ文字でこう書かれていた。


『ごめんなさい ぼくじしんをささげます』


 日本語、というのにまず驚いたという友達。瓶詰の手紙といったら異国の香りと思っていたから、てっきり解読不能な言語が来るのを期待していたそうな。それが同じ日本語を解する誰か、となるといささか残念。

 しかし、文面は短いながらも穏やかじゃない。

 謝罪から入りながら、その証として「ぼくじしんをささげます」ときたもんだ。あげますじゃなく、ささげるというあたりに、敬意を払うべき大きな相手の存在がにおってくる。

 冒険は冒険かもだけど、これを喜び続けるのはなあ……と、友達は紙切れを瓶に入れ直し、蓋も締めなおすと、瓶を海の中へ沈めたらしい。

 誰に対しての謝罪なのか、分からないままに。


 その翌日。

 自室の布団で寝入っていた友達は、目覚め一番に叫ぶことになる。

 横になっていた自分の眼前に、いきなり一本の腕が横たわっていたのだから。ひじから「く」の字に曲がったそれは、一見して人間のそれとよく似ている。

 しかし、手首より先が問題だ。五本の指それぞれの間には、はっきりと水かきが見て取れたんだ。水泳の達者な人は水かきができていく、と聞くけれど、これはあまりにはっきりしすぎている。ほぼ爪の付け根あたりまで、存在するんだ。

 そして、指そのものも問題あり。

 親指と小指をのぞいた三本の指たちは、その先っちょの皮が剥げていたのだけど、そこからのぞくべき骨のカタチは、理科室で見た骨格標本のそれとは異なる。

 先っちょが、秋のすすきの穂先のごとく無数に割れ広がっていたらしいのさ。それは自然に分かれたとは信じがたい整い方で、気持ち悪さを超えた一種の美しささえ覚えたと友達はいうが……このままにはしておけない。

 誰かに見つかったら、とがめられるのは必至だ。自分もさっぱり分からないことで詰問されることほど、人生の時間を無駄するときはなかなかない。


 友達は部屋に転がっているビニール袋にしまい込み、何重にも封をしたうえで、家の裏手にある倉庫の中へそっとしまったらしいのさ。

 とっさの隠し場所として、思い当たったのがそこだったらしい。当時、住んでいたのは住宅街であって、適当に捨てるには人様の家の敷地範囲が広かったし、あまりこれを持ってうろつきたくはない。

 倉庫の奥深く、ほかのガラクタたちといっしょくたにして、知らぬ存ぜぬを続ければ時間が勝手に解決してくれるはずだ。自分がいずれ、ここを離れてしまったあとに出てきても、見つけた人たちが首をかしげるばかりで、焼くなりなんなりトドメを刺してくれるだろう……。

 どこまでも、友達は自分で責任を背負いたくはなかった。ゆえに、そこから数日おきに身体の一部分らしきものが、寝起きの部屋へ突然現れ続けても、誰にも相談しなかったらしい。

 それは同じ腕のようであったり、足のように見えたり、胴体のように思われたり……けれども皮の削がれている部分からは、あのススキの穂のような骨がのぞくのは変わらない。

 その異様さが友達の冷静さをかえって引き留めてくれていたらしく、友達はどんどんと出てくるものを同じように倉庫へ放り込み続けていたらしいんだが。


 あるときに、それらがごっそりなくなった。しかも、その倉庫内にあったがらくたたちの一部も、まるっと消えていたらしいんだ。

 そしてしばらく、近所では身体のあちらこちらからススキを生やし、ゴミらしきものを体中に張り付けた不可解な人影の目撃談が相次いだという。

 友達は実際に、その姿を見なかったらしくうわさで聞いたどまりだったが、どうしても自分の部屋にあらわれ、倉庫に放り込んだあれらの身体のことを思い出してしまう。

 海で見つけた瓶の紙切れにあった「ささげます」。あれらが捧げものであったなら、どこから流れ着いたのだろうか。ひょっとして謝罪とともに捧げられたと思しきあれらは、ここでもって償いの歩みを始めたのだろうか……。

 友達は自身がその理を狂わせたのではないかと、今も心配しているそうだ。

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― 新着の感想 ―
〇怪談としてプロットが調っていた。 〇細かな叙述に気遣っている。読者に「肉感」を与えている。 ▲作者の意図かもしれないが、文体が安定していない。
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