第七話 それぞれの戦
その日の午後、王宮にてユリウスが帰還を告げた。
彼の姿には疲労がにじみ出ていたが、まだ目はぎらついていた。
「レオン、リヴィア、ルーファス」
兄は弟と妹を呼び、玉座の間にて対面した。
「次の戦に備え、三つの策を打つ」
弟と妹は無言のまま耳を傾けた。
ユリウスの声音には、どこか焦りが混じっていた。
「第一に……レオンの“時間戻し”で、死んだ兵を蘇らせる。あいつらの死を、無駄にしてなるものか。血を流した者こそ、再び剣を振るうに値する……」
「それは――」
レオンの顔には焦燥が浮かぶ。
「第二に、リヴィアを隣国ヴィルゼンへ嫁がせる。王子は君に関心を寄せている。これを機に我らの同盟を確固たるものとする」
リヴィアは、そっとまつげを伏せた。
「第三に、ルーファスを戦場に出す。ルーファスの茨を生成する異能力を防衛に使う」
ルーファスはやれやれとばかりに小さくため息をついた。
――誰が話し出すより早く、リヴィアは一歩前に出た。
その声は静かで、けれど確かに震えていた。
「兄上。……私たちを道具のように扱うのは、やめてください」
ユリウスの眉がひくりと動く。だが、リヴィアは止まらなかった。
「ずっと私は……王女として、国のために黙って従ってきました。そう教えられてきたからです。言葉も、感情も、全部。だけど今はもう分かるんです。これは、間違っている」
彼女はレオンとルーファスを一度見た。そして、兄を見据えた。
「レオン兄様に死者を蘇らせて戦わせるなんて、彼の心を殺すことと同じです。
ルーファスだって、まだ九歳です。戦場に出す理由が“使えるから”なんて……それでは道具と一緒です」
ユリウスの顔が怒りに歪む。
「私を嫁がせる話も……“私”ではなく“価値”を見てのこと。そんな同盟に、どれほどの意味があるんですか?」
玉座の間に静寂が落ちた。
ユリウスは低く唸った。
「……この国がどうなっても良いというのか? あの謀反人に、どうされても構わぬと?」
リヴィアは一度、拳をぎゅっと握って、そして解いた。
「いいえ。私はこの国を、守りたい。だからこそ、間違った方法には加担できません」
「綺麗事を抜かすな!!」
ガンッとユリウスは拳を玉座の肘掛けに打ち付けた。
レオンがびくりと身体を震わせる。
「もうよい。リヴィア、脆弱な綺麗事論者め。……ルーファス、お前はどうだ」
沈黙していたルーファスは答える。
「僕は戦場に出るのは一向に構いませんが。王族がわざわざ前線に出て、兵士を生き返らせたり、防衛したりって余計国の恥ではないですか?」
「なんだと……」
「これじゃあまるで使い捨ての先兵ですよ。まぁ、僕は一向に構いませんがね」
ルーファスは口の端を吊り上げた。
ユリウスは目を伏せ、わずかに唇を噛んだ。
その一瞬の揺れが、彼の誇りを深く傷つけていた。
「……この場はよい。それぞれ考えておくことだ」
その夜、リヴィアは一人静かに庭を歩いた。月の光が白く地を照らしている。
「……ユリウス兄様の怒りは、きっと……深い哀しみが滲んでいるのよね」
「それでも間違ってることには従えないよね」
背後から静かに現れたルーファスの声に、彼女は頷いた。
「ええ。女の私には剣もないし、力もない。でも言葉ならある」
彼女は少しだけ口元をゆるめ、けれどその瞳はまっすぐだった。
「私は、自分で自分の道を選びたい。もう国のお人形でいるのは苦しいの」
夜空に浮かぶ星が、彼女の決意をやわらかく照らしていた。




