第二十七話 強制解散
薄曇りの空の下、リヴィア・エーレンハイトは草原に立つ小さな演壇の上から、集まった村人たちに語りかけていた。老いた者も、幼い者も、その声に耳を傾けている。
「……この国の形は、ひと握りの手によって決まるべきではありません。私たちは、私たちの言葉で未来を築くのです」
拍手が静かに広がった瞬間だった。群衆をかき分けるようにして、黒衣をまとった男たちが近づいてくる。王家の紋章を掲げた使者が、その中心にいた。
「リヴィア・エーレンハイト殿」
彼女は振り返った。官服を着た男が巻物を取り出し、声高に読み上げる。
「王命により通達する。汝の行う『声の集会』は王国法第三章における無許可扇動に該当する疑いがある。よって、すべての活動を即時停止し、王都への帰還命令に従うこと。拒否した場合、国法に基づき……」
リヴィアは目を細め、静かに言葉を遮った。
「……王命、ですか」
「はい、陛下ユリウス・エーレンハイトの名において」
一瞬、その名に感情が揺れた。兄の顔が脳裏に浮かぶ。
「ならば、答えは“ノー”です」
ざわつく民衆。使者の顔が引き締まる。
「リヴィア殿、お気持ちは分かります。しかしこれは正式な王命です。拒否は、反逆と見なされ――」
「ならば、そう見なせばいい。私たちは、誰かを倒そうとしているのではない。立ち上がろうとしているだけです。……貴方たちが、それすら許さぬのならば――その方こそが、反逆者でしょう」
使者の拳が震えるのが見えた。だが、命じられた通りに言葉を告げるしかない。
「本日をもって、包囲網を強化します。次に陛下の命に背くならば、軍が動きます」
彼らが立ち去った後、リヴィアはゆっくりと振り返った。民衆の顔に、不安と畏れが浮かんでいる。
「帰りたい者は、帰ってください。私は……ここに残ります。どれほど包囲されようと、声を上げる自由は、誰にも奪わせません」
風が吹く。草を揺らし、演壇の旗がはためいた。
月の沈む直前、峠を包む霧が深かった。
アルマス峠――王都と南部地方を結ぶ唯一の街道の要衝。その頂に築かれた石造りの関門要塞には、政府軍の部隊が駐屯していた。
その外周を、音もなく影が取り巻いていた。黒装束の斥候、弓兵、火薬樽を運ぶ部隊。すべてが沈黙のうちに動いている。
アデル・ルシエンは、丘の上から双眼鏡を模した水晶板で要塞を見下ろしていた。
「……伝令によるとリヴィアは包囲されたらしいな。次は、奴ら王国軍が我々に手を出す番だ。こちらから先に、動いておく」
ハーメルンが背後で呟く。
「成功すれば、王都への物資が止まります。兵糧も、鉄材も、動員命令も――あらゆる流れが鈍る。……だが、これが明確な“開戦”になりますよ」
アデルは頷いた。
「構わん。我々は剣に賭ける」
彼は小さく手を上げた。それが合図だった。
山側から火矢が飛ぶ。次の瞬間、関門の木製の門が内側から爆ぜる。内通者が仕掛けた火薬が炸裂したのだ。
混乱の中、アデル率いる本隊が突入する。
兵の叫び。炎の音。砦の中が戦場へと変貌する。
わずか半刻――
夜明けには、王国のアルマス峠要塞に、反乱軍の旗が掲げられていた。




