表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王なき御伽噺  作者: 烏丸 燈


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/43

第二十七話 強制解散

 薄曇りの空の下、リヴィア・エーレンハイトは草原に立つ小さな演壇の上から、集まった村人たちに語りかけていた。老いた者も、幼い者も、その声に耳を傾けている。


 「……この国の形は、ひと握りの手によって決まるべきではありません。私たちは、私たちの言葉で未来を築くのです」


 拍手が静かに広がった瞬間だった。群衆をかき分けるようにして、黒衣をまとった男たちが近づいてくる。王家の紋章を掲げた使者が、その中心にいた。


 「リヴィア・エーレンハイト殿」


 彼女は振り返った。官服を着た男が巻物を取り出し、声高に読み上げる。


 「王命により通達する。汝の行う『声の集会』は王国法第三章における無許可扇動に該当する疑いがある。よって、すべての活動を即時停止し、王都への帰還命令に従うこと。拒否した場合、国法に基づき……」


 リヴィアは目を細め、静かに言葉を遮った。


 「……王命、ですか」


 「はい、陛下ユリウス・エーレンハイトの名において」


 一瞬、その名に感情が揺れた。兄の顔が脳裏に浮かぶ。


 「ならば、答えは“ノー”です」


 ざわつく民衆。使者の顔が引き締まる。


 「リヴィア殿、お気持ちは分かります。しかしこれは正式な王命です。拒否は、反逆と見なされ――」


 「ならば、そう見なせばいい。私たちは、誰かを倒そうとしているのではない。立ち上がろうとしているだけです。……貴方たちが、それすら許さぬのならば――その方こそが、反逆者でしょう」


 使者の拳が震えるのが見えた。だが、命じられた通りに言葉を告げるしかない。


 「本日をもって、包囲網を強化します。次に陛下の命に背くならば、軍が動きます」


 彼らが立ち去った後、リヴィアはゆっくりと振り返った。民衆の顔に、不安と畏れが浮かんでいる。


 「帰りたい者は、帰ってください。私は……ここに残ります。どれほど包囲されようと、声を上げる自由は、誰にも奪わせません」


 風が吹く。草を揺らし、演壇の旗がはためいた。



 月の沈む直前、峠を包む霧が深かった。


 アルマス峠――王都と南部地方を結ぶ唯一の街道の要衝。その頂に築かれた石造りの関門要塞には、政府軍の部隊が駐屯していた。


 その外周を、音もなく影が取り巻いていた。黒装束の斥候、弓兵、火薬樽を運ぶ部隊。すべてが沈黙のうちに動いている。


 アデル・ルシエンは、丘の上から双眼鏡を模した水晶板で要塞を見下ろしていた。


 「……伝令によるとリヴィアは包囲されたらしいな。次は、奴ら王国軍が我々に手を出す番だ。こちらから先に、動いておく」


 ハーメルンが背後で呟く。

 「成功すれば、王都への物資が止まります。兵糧も、鉄材も、動員命令も――あらゆる流れが鈍る。……だが、これが明確な“開戦”になりますよ」


 アデルは頷いた。

 「構わん。我々は剣に賭ける」


 彼は小さく手を上げた。それが合図だった。


 山側から火矢が飛ぶ。次の瞬間、関門の木製の門が内側から爆ぜる。内通者が仕掛けた火薬が炸裂したのだ。


 混乱の中、アデル率いる本隊が突入する。


 兵の叫び。炎の音。砦の中が戦場へと変貌する。


 わずか半刻――


 夜明けには、王国のアルマス峠要塞に、反乱軍の旗が掲げられていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ