表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王なき御伽噺  作者: 烏丸 燈


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/43

第二十五話 要塞の占拠

 静けさに満ちた指令室の空気を切り裂くように、アデルの言葉が落ちた瞬間、円卓に集った幹部たちの視線が鋭く交差した。誰もがその意味を理解していた。街道の中継基地――それは王都へと続く大動脈、物流と通信の要所である。


 「目標は〈アルマス峠の要塞〉だ」


 アデルが壁の地図を指先でなぞり、その地点に小さな鉄製の駒を置いた。王都から北西に延びる街道が通る狭隘な峠。交易商や軍の補給隊が必ず通るその場所には、石造りの監視塔と軍営が併設されている。

 石造りの監視塔は二重の防壁で囲まれ、内には貯水井戸も備わっている。小城塞のような構造だ。


 「ここを落とせば、王都への補給路は一時的にでも断てる。食料、医薬、兵器の流通は滞るだろう。そして、王都の民もまた飢えることになる」


 参謀であるハーメルンが口を開く。

 「ですが、アルマスの守備兵はおよそ百五十。兵糧も十分に備蓄されています。落とすには犠牲が……」


 アデルは、その言葉に揺らがなかった。


 「承知の上だ。だが犠牲なくして勝利はない。敵の出方を待っていては、民草の叫びも、リヴィアの声も土に埋もれるだけだ」


 彼の視線が、そばにいた人狼の少年・ルーグを射抜く。


 「斥候を出せ。峠周辺の地形と守備配置を洗い直せ。夜間に接近し、狼煙の一つも上がらぬうちに制圧する。奇襲を仕掛ける」


 ルーグが頷く。

 「了解した。俺が先導する」

 アデルはゆっくりと首を横に振った。

 「いや、ルーグ――お前は別の任を果たしてくれ」

 ルーグが眉をひそめる。

 「別の?」

 アデルは卓の上に、新たな文書を置いた。それは、政府内の高官が巡回する予定を記した密報だった。


 「この襲撃と同時に、政府の〈地方監察官〉を急襲する。奴の首を晒す。……それが民への狼煙になる」


 ルーグの瞳がわずかに細められた。やり方は過激だ。しかし、アデル・ルシエンの信念に揺らぎはない。言葉では世界は変えられない。だからこそ、剣と炎で答えを出す。


 「――了解した」

 ルーグがそう答えたとき、地上に向かう階段の先から、哨戒兵の呼び声が届いた。


 「使者です!南の村から、急報!」


 アデルが軽く顎を動かすと、門番が地下室の扉を開き、一人の伝令が泥だらけの外套を翻して駆け込んでくる。息を荒げた彼は膝をつき、声を震わせた。


 「リヴィア様の『声の集会』が……政府軍に包囲されました!兵は数十、武装した騎士団が直接出動した模様です!」


 指令室に緊張が走った。


 アデルは、短く笑った。


 「――始まったな」


 その声には哀れみも怒りもなかった。ただ、確信と、炎のような意志だけが宿っていた。


 「宝石の姫君・リヴィアよ……お前が守ると言ったものが、焼かれようとしている。ならば、俺はその火を奪い取る」


 そして振り返り、幹部たちに鋭く命じた。


 「動け。すべての部隊に通達を。街道の封鎖を開始し、アルマス要塞を落とせ。これは“戦争”だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ