第二十四話 変革の違い
岩肌を穿って築かれた地下の指令室は、灯されたランプの明かりに浮かび上がる地図や兵站表で埋め尽くされていた。反乱軍の拠点として整備されたこの場所には、常に緊張と熱が渦巻いている。
その中央、円卓の一角に立つカイアス・エーレンハイトが、ひとつの報告を終えた。
「リヴィア・エーレンハイトとルーファス・エーレンハイト、共に革命軍に合流しましたよ。……彼女らをこちらに引き込むことは……できないでしょうね」
卓を囲む幹部たちがざわめいたが、その中心で腕を組んだまま目を閉じていたアデル・ルシエンは、静かにまぶたを開けた。
「……そうか。リヴィアは、戦わない道を選んだのだな」
カイアスは頷いた。
「はい。彼女は『声の集会』と称し、民の意見を集め、言葉によって国を変えようとしているようです。あくまで非暴力的な変革の道を選んだ」
アデルはしばらく無言のまま立ち上がると、卓の端に置かれた地図を手に取り、それを壁に貼り付けた。地図の上には、占領済みの村や、政府軍との交戦地が赤い印で記されている。
「言葉か……。それも一つの道だろう。否定はしない。実際、民の意識を変えるには、耳を傾ける者が必要だ」
それはリヴィアへの一定の理解とも取れる発言だったが、彼の声はそこで冷たく変わった。
「だが、それでは遅すぎる。人々が目を覚ますまでに、どれほどの血が流れ、どれほどの命が踏みにじられる? 彼女のやり方では、根本は変わらない。支配の構造も、特権階級も、次代の暴政も生き残るだけだ」
カイアスは口を引き結んだまま黙っていた。アデルはその横顔を見やると、短く息を吐いて続けた。
「世界を変えるには、痛みがいる。骨を折り、血を流し、絶対的な象徴を打ち倒すことでしか得られない未来がある。それが現実だ」
その場にいた誰もが口を挟めずにいると、アデルは地図の中央――王都の位置に目を落とし、低く言った。
「政府は今、リヴィアの運動に気づき始めているだろう。だが、奴らの本当の恐怖は、言葉よりも剣だ。ならば――我々はその恐怖を、現実にしてやるまでだ」
カイアスが静かに問いかける。
「……では、次の一手はどうします?」
アデルの目が細められる。
「リヴィアの道が広がれば広がるほど、政府は焦る。そして抑圧に出る。弾圧が始まれば、彼女の言葉では庇いきれなくなる。そうなれば、民は選ばざるを得なくなる――誰の下で、誰と共に立つかを」
アデルはそばにいた側近に短く命じた。
「次の標的は、街道の中継基地だ。兵站を断つ。王都の供給線を締め上げろ。政府の心臓を直接揺さぶる」
そして静かに付け加えた。
「リヴィアが火を灯したならば、我々は風を起こす。焔が足りぬのなら――我々が焼き尽くしてやろう」
アデルの野心の炎は燃え続ける。




