第二十三話 言葉による改革
その翌週、第二回目の「声の集会」が開かれたのは、反乱軍が足場を築いた炭鉱町だった。今回はリヴィアの姿はなく、現地の書記官と集会に参加した民衆の代表によって進行された。
それでも会は滞りなく行われ、参加者は前回よりも倍以上に膨れ上がった。
「領主の視察が来ると聞けば、仕事は休み。だけど補填は何もない。炭鉱の火が消えそうだ」
「通行税を値上げすると言われた。子どもを医者に見せるのにも金がかかる」
「兵士たちに畑を踏み荒らされて、誰も責任を取らない」
誰かが口を開けば、誰かが頷いた。そしてその頷きは、次第に拍手になり、涙になり、共感の声として会場に広がっていった。
運動は、静かに、しかし確かに広まっていった。
第三回、第四回と「声の集会」は各地で独自に開かれ、やがてリヴィアの名を知らぬ者はいなくなった。
彼女の考えた「誰もが国に声を届ける場」は、彼女の手を離れて走り出していた。
そして――
その報は、首都にある宮廷にも届いた。
「……愚かしい」
玉座に座る、ユリウス・エーレンハイトは唇を歪めた。彼の前に跪くのは、内務省の長官である男で、片手に持った報告書を震わせていた。
「民衆の中に、まるで信仰のように『集会』を開きたがる動きがございます。現在、確認できただけでも十二箇所……うち五箇所では、自治組織のようなものまで立ち上がっております」
「自治組織?それは国家への挑戦ということか?」
「……はい。しかも、それらのほとんどがリヴィア様の言葉を引用しており――まるで、反乱軍の象徴のように扱われています」
ユリウスは低く息を吐いた。王の代行者たる彼にとって、武力によらぬ訴えは、むしろやっかいだった。民衆の支持を得た運動は、力では抑えきれない。
だが、それでも――
「潰せ。名目は何でもいい。扇動、治安紊乱、反王制的言動。いっそ、リヴィアを焚き付けているのは敵国の間諜とでもしておけ。言葉で民を動かそうとする者など、王国にとっては毒だ」
「かしこまりました。ただし、民の反発は避けられませぬ」
「ならば、一部の過激派だけを摘発せよ。『本来の集会は無害だが、過激分子に乗っ取られている』――そう言い訳を用意してから手を下すんだ」
ユリウスは目を細めた。剣よりも言葉の方が、時に人を深く斬る。妹が始めたことを許しておけば、王国の秩序は足元から崩れかねない。
「すぐに動け。民が夢から覚めぬうちに」
その声は静かで、だが冷たい刃のように鋭かった。
一方、リヴィアはその頃、南部の村落から届いた報告書を前に顔を曇らせていた。
「……『集会の会場が、近衛兵に包囲された』?」
彼女の手はわずかに震えていた。報告によれば、会の代表者は“扇動罪”の名目で拘束され、参加者の数人も尋問のために連行されたという。
「まぁ、だろうね……」
ルーファスが肩を竦める。
リヴィアは帳簿のページを閉じ、ゆっくりと顔を上げた。
「彼らは、私の声を信じて立ち上がったのよ。なのに、こんな……」
「ユリウス兄さんからしたら、僕達は余計な活動家ということだよ。でもこんな所では辞めないんでしょ?姉さん」
リヴィアは深く息を吸った。そして――
「当たり前よ。広げるわ。この運動を。集会はもう、ただの会話の場じゃない。民衆の、意志そのものになった。政府が抑えようとするなら、私たちは正面から訴えるしかない」
言葉の重さが、部屋の空気を変えた。
言葉で始めた運動は、言葉で殺されようとしている。だが、言葉が信じられなくなったときこそ、言葉の力を証明しなければならない。




