第二十話 革命軍と反乱軍
山あいに広がる革命軍の野営地は、濃密な煙と鉄の匂いに包まれていた。空はすでに茜に染まり、焚き火の灯りが兵士たちの影を地に揺らしている。
その中に、一台の馬車が砂利を蹴り上げて入ってきた。幌に掲げられたのは、割れた王冠をあしらった旗印。アデル・ルシエンが率いる反乱軍の紋章だ。
馬車が止まると、中から黒のマントを羽織った少年が降りてきた。革靴の音が乾いた地面に響く。
「なにかの間違いだろ……これ……」
少年――カイアス・エーレンハイトは頭をガシガシと掻きながら周囲を見渡した。想像以上に荒れた野営地の光景に、思わずため息をつく。
「うっわ……思ったより貧乏くじじゃねえか……」
そうぼやきつつも、彼はにこりと人懐っこい笑みを浮かべた。革命軍の兵士に軽く手を振り、陽気な調子で言う。
「こんにちは〜。アデル・ルシエンからの使者です。通してもらえます〜?」
まるで商談にでも来たかのような軽さ。だが、その仮面の裏に、緊張の糸が張り詰めていることを見抜ける者は少なかった。
革張りの椅子が並ぶ簡素な幕舎に案内されたカイアスは、奥の人物を見て一瞬言葉を失った。
「……は?」
椅子に座っていたのは、長い金髪を結った少女――リヴィア・エーレンハイト。そしてその隣に立つのは、同じく金髪のルーファス・エーレンハイト。
「え?リヴィア姉さん?ルーファスまで……」
まさかここに彼女たちがいるとは。反乱軍の首魁アデルも、一言も言っていなかった。完全に想定外だ。
「カイアス、ようこそ。……驚いた?」
リヴィアが静かに問うと、カイアスは思わず頭に手を当てて笑った。
「いや〜驚きましたよ。よもや貴方達がここにいるとは……」
やがて幹部たちが席を外し、幕舎には三人だけが残った。
カイアスは笑顔のまま鞄から書類を取り出し、柔らかな声で話し始めた。
「さて、それじゃあ本題に入りましょうか。私たち反乱軍としては、あなた方革命軍と――」
「……その口調、やめて」
リヴィアの声が、焚き火のパチパチという音の中に鋭く響いた。
「その話し方も、笑顔も、全部“商人の仮面”でしょ。商人の仮面はもう脱いで。私は“あなた自身”と交渉したいの」
カイアスはしばし無言になり、書類を机の上に置いたままリヴィアを見つめた。やがて笑顔がすっと消え、空気が変わる。
「……相変わらず、姉さんは強引だな」
声が低くなり、言葉遣いも変わった。
「こっちは使者として来てんのに、わざわざ素を引きずり出すなんてさ。ま、あんたらしいけどな。綺麗事だけじゃ済まねぇってわかってても、根っこのところで聖人ぶってる」
「違うわ。今は――違うの」
リヴィアの瞳が揺れないまま、まっすぐに彼を見返す。
「私はもう、宝石の涙で全てを救えると思ってはいないわ。だから、今は“人間”としてあなたと話したいの」
その返答に、カイアスはほんのわずかだけ目を細めた。
「……あんたは全く変わらないね。その宝石みたいにお堅いとことかさ」
短い沈黙。
カイアスはふうっと息を吐き、肩の力を抜いた。
「わかったよ。じゃあ――カイアス・エーレンハイト個人として、姉さんと話す。アデルの使者としてじゃなくて、俺自身としてな」
カイアスは手を組み直した。




