第十七話 力の在り方
王国の宮殿内。
レオンの部屋を、重い足音が踏み鳴らす。
入ってきたのは兄――ユリウスだった。
「……兄上」
レオンは慌てて立ち上がろうとしたが、ユリウスは片手を上げて制した。
「いい。座っていろ。話がある」
そう言って、ユリウスは立ったままであった。
夜の空気は冷えているのに、部屋の中は妙に重苦しい熱気を孕んでいた。
「今後の戦で……お前の力を使ってもらいたい」
レオンの肩がびくりと震えた。
「お前の“時間の巻き戻し”で、死んだ兵を蘇らせてほしい。わかっている。お前にとっては重いことだと。だが今、我々には決定打がない。アデル軍は勢いを増している。挽回するには……異能力の助けが要る」
レオンはうつむき、髪の先を指でいじり始めた。
口を開くが、声がかすれて出ない。
「レオン。返事を」
ユリウスの声がわずかに低くなる。
レオンはぴくりと身をすくめ、ようやく絞り出すように口を開いた。
「……僕の力は……人に向けるべきものではないよ……何回も兵士に死を味あわせるなんて……できない……」
「だがこれは戦だ。民を守るためには、非情な決断も必要になる」
「……でも……それでも使いたくない」
声は小さく、かすれていたが、明確な拒絶だった。
ユリウスはせり上がる怒りを抑えながら平静を装った。
「お前がそう言うのはわかる。だが、それが“個人の感情”だということもわかっておけ」
「…………はい……」
レオンの返事は従順に聞こえるが、目を合わせようとはしなかった。
その態度に、ユリウスの眉がぴくりと動く。
「……いいだろう。今夜はこれ以上は言わない。だが、よく考えておけ。お前の力は、“呪い”じゃない。必要とされるから、ここにいる」
「…………」
レオンはただ黙ってうなずいた。
部屋の蝋燭に照らされるその髪は、鈍く銀に輝いていた。
ユリウスは立ち上がり、部屋を出る。
「弟よ。俺はお前を信じている」
それだけ言い残し、夜の闇へと戻っていった。
残されたレオンは、膝を抱えて小さくなりながら、自分の髪を、そっと握りしめた。
ユリウスには戦争の決定打が無かった。
ユリウスの異能力は鏡で戦況を覗いたり、鏡から鏡へ物や人をワープさせたりする能力だ。
軍隊や物資を自由自在に移動させられる能力は戦争には有効だが、アデルの灰の能力の前には無力だ。アデルの灰はどんな兵も屈服させ、物資を駄目にする。アデル軍の背後を突いても同じことだ。
レオンの部屋を去ったユリウスは廊下を早足で歩きながら、舌打ちをする。
レオンの能力さえ使えれば、いくらでも兵を生き返らせて、物資も復活させて、物量でアデル軍を押し切れるのに。
ユリウスの目にはいつぞや鏡で見たアデルの姿が焼きついていた。




