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狼風亭の冒険者たち(仮)  作者: うるぅ
01 いざ。狼風亭へ。
7/20

007 再び、狼風亭にて。

狼風亭の見慣れた外観が夕陽に照らされて橙色に浮かび上がる。一行は、宿の扉を押し開けた。出発のときよりも、その木製の扉はどこか重みが増したように感じられた。

「おかえり、ディル。キャラウェル。それにリッツたちも。」

カウンターの奥から、リュートが微笑を浮かべて声をかけてくる。いつもと変わらない穏やかな声。それだけで、ほんの少し緊張がほぐれる気がした。

「その様子なら、まずは、無事に任務を終えたってことかな?」

リッツたちは静かに頷いた。誰一人、損なうことなく帰ってこられた――それだけでも胸を張るべき成果だ。しかし、三人の顔には微妙な翳りが残っていた。彼らにとって真の試練は、ゴブリン退治そのものではない。この宿で、冒険者として“認められるかどうか”。そのことが、何よりも心に重くのしかかっていたのだ。

「ま、まずは腹ごしらえだ。ほら、こっち来な。」

リュートが手招きをして、一行をカウンター席に誘う。

並べられた料理は、どれも温かく香ばしい匂いを漂わせていた。新鮮なサラダ、じっくり焼かれた鶏肉、そして湯気を立てるコーンスープ。戦い終えた身体に染み渡るような、優しさのある食事だった。

「さて……報酬の話だな。」

リュートが銀貨の入った小さな革袋を取り出す。その中には、依頼の報酬――銀貨500枚がぎっしりと詰まっていた。

「5人の内訳は決まってるのか?」

「新人3人に80枚ずつ。残りは俺たちで受け取るよ。」

ディルの即答に、リッツは目を瞬かせた。そういえば、報酬の分け前については一度も話し合っていなかった。

──“そういう細かい取り決めを最初にしておかないと、後々揉めることになる。”

出発前にディルが、冒険者の契約について言っていたことが脳裏に蘇る。

報酬の分配は冒険者にとって重要だ。しかし、それを言い出すタイミングを与えず、気づけば“もう決まっている”形にされていた。イリアと視線を交わす。彼女の顔にも、同じような戸惑いが浮かんでいた。とはいえ、依頼を導いてくれたディルに不満をぶつけることもできない。それに、この宿での“評価”がかかった初仕事だ。雰囲気を壊すような真似は避けたい。

銀貨80枚。彼たち元従騎士の1か月分の給与と同額だ。彼らにとっては決して少なくない。だが、公平に分ければ銀貨100枚。その差の20枚は二ヶ月分の食費ぐらいに相当する。さらっと流してしまう事には惜しい金額だ。心なしかディルの口角が上がっている様にも見える。

そんな葛藤した空気を感じ取れないのか、あるいは感じても気にしないのか。オルスはにこにこと笑顔を浮かべながら、「ありがてぇ!」と袋を受け取った。

その瞬間、広間にほんの少しだけ柔らかな笑い声が響く。三人はそれぞれ黙ったまま、ゆっくりと食事に手を伸ばす。戦いの後に残るわだかまり――報酬の差、戦闘中の焦り、互いの力量への不安――それらは言葉にならず、スープの湯気とともに少しずつ消えていくようだった。

ふと、キャラウェルが席を立ち、軽く一礼すると、静かに階段を上っていった。先に自室へ戻るようだった。

一方、ディルは料理には一切手をつけず、じっとカウンターの向こうを見据えていた。リュートは他の客の対応にまわっていて、カウンターは一時的に空になっている。

しばらくして、リュートが戻ってきた。店の切り盛りは、従業員の男女が手際よく代わっている。

「さて、ディル。」

穏やかな声色だった。だがその瞳の奥には、見定めるような光が揺れていた。カウンター越しに腕を組み、リュートは静かに問う。

「この三人の実力、どう見た?」

ディルは指先でつば付きの帽子をくるくると回す。少しだけ、考える素振りを見せたあとで口を開いた。

「そうだな……オルスは、正規の騎士の叙勲を受けるだけの素質があるね。」

オルスの瞳が見開かれる。

「戦い方はちょっと荒いところもあったし、戦略を練るようなタイプじゃないがね。まあ、思考の瞬発力と状況判断力は悪くない。まだ伸び代がある。戦闘面に限れば、今後も十分やっていけるだろうな。」

「なるほど。」

リュートは短く頷きつつ、次の名前を口にする。

「イリアは、どうだ?」

ディルは帽子を回すのを止めた。

「それがな、ちょっと面白い子だね。精神感応に感知系の魔法……。天性の珍しい能力だね。ちょっと、確保しないのはもったいない。」

イリアは思わず口元が緩みかけ、慌てて表情を引き締めた。

「まあ、魔法自体は、使いこなしてるという感じまではしない。将来性を買うって感じだな。」

「ふむ……」

リュートの視線は、そのままゆっくりとリッツへと向いた。そして、それに応じるようにディルも、リッツを見つめる。その目が、少しだけ細められた。

「リッツは――」

少し澱んだ間をおいて、ディルは続ける。

「正直なところ、戦闘面だけで言えば、物足りない局面が多かったかな。連携はできても単独では戦力とカウントできない感じだ。」

帽子のつばを指先で軽く押さえながら、ディルはわずかに微笑んだ。

「そのぶん、慎重で冷静。頭が回るし、器用さや立ち回りで補ってた。とっさの判断はまだ苦手っぽいが、これは場数でどうにでもなる。まあ、オルスと組ませるなら何とかって感じだな。」

リッツは、言葉なく静かに頷いた。否定も肯定もせず、ただその言葉をしっかりと胸に刻むように。

リュートが、わずかに身体を乗り出した。そのまま最後の問いを投げかける。

「なるほどな。じゃあ……この三人は、うちでやっていけると思うか?」

一気に場の空気が張り詰めた。リッツ、イリア、オルスの視線が、自然とディルへと集中する。リュートの問いは、ただの戦闘面の判断ではない。この宿所属の“冒険者”として認められるか。命を賭け、仲間と共に生き残り、未来を切り拓ける者かどうか――その覚悟を見定めるための問いだった。

沈黙が数秒ほど続く。それを破ったのは、やはりディルだった。

帽子を改めてかぶると、柔らかく、けれどどこか試すような目つきで三人を見渡す。

「俺の中の答えはあるけどさ。リュートさん。」

言葉に、少しだけ茶目っ気が混じる。

「この子たちにも、自分の口で話させてやらなきゃ。アピールする機会は必要でしょ。」

そう言って、ディルの視線は三人をまっすぐに射抜く。評価される側から、一歩前へ踏み出すその瞬間を、彼は見守っている。


「君たち、今日の討伐で、それぞれに“課題”を感じたんじゃないかな。」

ディルが静かに語りかける声には、押しつけがましさが一切なかった。ただ、自分の言葉で答えることを――考えることを求める、そんな声だった。

「まずは、それを言葉にしてみてごらん。」

少しの沈黙のあと、最初に口を開いたのはオルスだった。

「あー……やっぱ、俺は細かい状況の確認とか苦手だな。」

頭をかきながら苦笑する彼の瞳には、真剣さが宿っている。

「けどさ、そこはリッツとイリアに任せとけば安心できるって思えたんだ。俺達三人はガキの頃から十年近く一緒にやってきたからな。顔を見なくても気配だけで何したらいいかわかる関係は特別さ。」

オルスは一呼吸置き、ぽつりと続ける。

「ただ……課題があるとしたら、やっぱ戦闘力だ。時間をかければ今日の相手は、負ける気はしねえ。でも、少人数で動くなら、俺はもっと早く敵を倒して援護に回るべきだった。力が足りてねえ。」

一拍おいて、ぽつりと続けた。

「それと……もっと刃渡りの短い武器も持ってくべきだったな。洞窟ん中じゃ、振り切れなくて手間取っちまった。」

その言葉には、悔しさと冷静な反省の両方が同時に滲んでいた。

次にイリアが、手元のスプーンでスープをくるくると回しながら言った。

「私は……やっぱり、後方からの不意打ちを察知できなかったことね。」

声は静かだったが、その口調には自分を律する強さがあった。

「今思えば、私だけが探知魔法を持ってたのよね。最初から増援の可能性は想定されてたわけだから、感知魔法で洞窟の奥しか調べなかったのは、迂闊だったわ。それに戦闘中でも、感知魔法を展開しておくべきだったわ。そしたら、あんな危ない展開にはならなかったわ。」

その横顔には、悔しさ以上に、「次は必ず」という決意が宿っていた。

最後に、リッツがゆっくりと口を開く。

「僕は……やれることはやったつもりです。でも……それでも、後悔する場面は多かったです。」

記憶をたどるように言葉を紡ぐ。

「見張りを倒した時、魔弾を保険で残したけど……保険が無ければ、最初の一撃を躱されなかったかもしれない。感知魔法の便利さはわかってたけど、魔力感知のリスクが頭から離れなくて……状況が変わった時に、すぐに使う発想にならなかった。それに、ディルさんも言ってたけど、イリアの援護がなければ敵を倒すことはできなかった。」

苦く、悔しく、言い淀むような声。それでもリッツは、自分に嘘をつかず、最後まで言い切った。その言葉には、敗北の重さと、それを認める勇気が込められていた。

リュートは、三人の言葉を黙って聞きながら、手元の食器を丁寧に拭き、棚へと戻していた。静かなその動作のなかにも、彼なりの“答えを待つ姿勢”が滲んでいた。

そして、その問いに応えるのは――ディルだった。エールのカップを手にしており、にこやかに言う。

「ほら、リュートさん。報酬を分けた時、俺、“新人3人に”って言ったろ?それが答えさ。」

リュートが手を止める。その言葉の真意を問うように視線を向けると、ディルは軽く肩をすくめた。

「まっ。三人ともお互いの特性をちゃんと理解してる。そして、現状から課題を見つけて、それを次に繋げようとしてる。それができるなら、成長するよ。しばらくは誰かが面倒見てやれば、十分やっていける。」

グラスの中のエールが揺れる。リュートは、ディルの言葉をゆっくりと受け止めるように頷いた。そして、三人を見据えながら言った。

「そうか……。まぁ、ディルが言うなら、間違いないだろうな。」

そして、微笑む。

「三人とも――合格だ。ようこそ、狼風亭へ。」

その一言に、リッツたちの顔が一気に明るくなる。表情には、安堵と、誇りと、ほんの少しの涙がにじんでいた。これでもう、故郷にすごすごと帰らずに済む。ここが、彼らの居場所になる。戦う理由が、絆が、確かにここに生まれたのだ。


その夜。合格祝いとして振る舞われたエールは、昨日飲んだものと同じはずだった。だが、その味はまるで別物だった。仲間と交わす言葉と笑顔が、それを何よりも特別な酒に変えていた。

杯を重ね、夜が更ける。三人の寝床はまだ一部屋のままだったが――今夜からそこは、仮の宿ではなく、拠点と呼べる場所となったのだ。

とりあえず、ここまでで1エピソードです。

小説を書くという難しさをかみしめながら、ありきたりなエピソードを書くという目標で書きました。

次は、もう少し冒険者っぽい曲者的な結末を書こうと思います。


割と遅筆です。エピソードを一つ書ききったら、週1で投稿します。

何かあれば、感想の所かXのDMでご連絡いただければ幸いです。

→ https://x.com/feally_leaf

あとがきで、何かしらの設定を1話ごとに描いておきます。



設定 - 007

三人の資質について

自身の課題を述べる回答内容は、三人の成長の方向性(資質)を示している。

リッツの回答は、自身の課題のみを挙げ、何をすべきかまでは示せていない。このタイプは、教えられたことを吸収することはできるが、自ら応用する力は弱い。今後、様々な人に教えを請い成長するが、実力の伸びは緩やかである。ただし、いずれ自分の力を組み合わせることに成功すれば、大きく飛躍する可能性を秘めている。

イリアの回答は、現状の自分の能力で何ができるかを考え、課題を現実的に解決しようとしている。この姿勢は、成果として早く表れるであろうが、現状の組み換えに過ぎないため、根本的な能力の成長には時間を要する。しかし、壁にぶつかることで新たな能力や戦法を獲得し、長期的な成長へとつながる可能性を秘めている。

オルスの回答は、自らの目指す姿を明確に持ち、その目標とのギャップに必要なことを認識している。そのため、目標を達成するために必要な努力を理解し計画的に実行することで着実に成長する。その過程は、他者の助言を的確に取捨選択し、表面的には見えにくいがちゃくちゃくと吸収し、やがて目を見張る成果として現れる。

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