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狼風亭の冒険者たち(仮)  作者: うるぅ
01 いざ。狼風亭へ。
5/20

005 遭遇戦

洞窟の中は、入り口こそ狭かったものの中に入ってしまえば想像以上に広がり、三人並んで歩けるほどの幅と、頭上にも十分な高さが確保されていた。湿った空気が肌にまとわりつき、生臭さとカビの匂いが混ざった独特の空気が漂う。動物の体臭だけではなく、時間の経過が生み出す重みを帯びた匂いが、彼らの鼻腔を刺激した。

キャラウェルの助言に従い、靴に巻きつけた草のツタが静かな前進を可能にしていた。足音はほとんど響かず、隊列は慎重かつ緊張感を持ちながら進む。洞窟の奥に潜む敵の存在は、彼らの予想よりも遅く、入口から十数メートル進んだ地点でようやく現実味を帯びた。

先頭のオルスがぴたりと足を止める。その手の微かな動きに従い、一行は息をひそめて集まった。視線の先には、既に肉の大部分を失ったイノシシの死骸が横たわっていた。腹部から後ろ半分は骨が露出し、残された部分も無数の噛み跡が刻まれている。野生の残酷さが濃くにじんでいた。

「……っ」

イリアが顔を背けようとした時、オルスがそっと手で合図を送り、イノシシの“頭部”を見るよう示す。頭蓋骨は、まるで大岩で叩き潰されたかのように砕かれていた。一撃だったのだろう。しかも、並のゴブリンの腕力で成し遂げられるような破壊ではない。──ホブゴブリンの可能性が高い。

外傷は頭部以外に見当たらない。つまり、イノシシは逃げる間もなく、一瞬でその命を絶たれたのだ。イノシシもただの獣ではない。鋭敏な感覚と反応速度を持つ。加えて、動きは速く、突進力もある。

(ただの力任せじゃない。狩りの“技術”もある……ここから先は、油断したら命取りになる。)

リッツは目の奥を細め、心の中で認識を改める。その思いはオルスとイリアにも伝わったらしく、二人は無言で視線を交わし、短くうなずく。洞窟は依然として音も気配もなく静まり返っている。しかし、確かに何かが潜んでいるという認識が、彼らの背筋に緊張を走らせた。言葉を交わすことなく、再び歩を進める。息をひそめたまま、慎重に洞窟の奥へと。


「ゴボッ、ゴブッゴブッ!」

洞窟の奥から突然、野太い声が響いた。

ゴブリンが三体。岩陰の向こうからこちらを見据え、既に臨戦態勢に入っている。

「なっ、見つかっちまったか……!」

オルスが吐き捨てるように小さく呟き、剣を構え前傾姿勢のまま駆け出す。一呼吸遅れてリッツもオルスの背を追う。

ゴブリンたちは慌てることなく、足元の石を拾い上げてオルスへと投げつける。単純だが効果的な牽制──こちらの勢いを削ぎ、自分たちのペースに持ち込もうとするやり口だ。

だが、オルスはその意図を見抜く。一発目の石を体を逸らしてかわすと、残りの攻撃には目もくれず直進を続ける。

その時、オルスとゴブリンの間に水の膜が舞い上がる。ゴブリンの投げた投石の勢いを吸収し、軌道を逸らしていく。

「……キャラウェルか。助かる!」

どうやら、後方のキャラウェルが補助魔法を放ってくれたようだ。思わぬ支援に、ゴブリンたちは狼狽する。動きが不自然に止まり、視線が揺れる。その隙を逃すはずもなかった。

咆哮と共にオルスの刃が一体目のゴブリンの胸を裂く。短い悲鳴すら許さず、瞬時に命を刈り取る。残された二体は仲間の死に動揺し、狂ったように叫び声を上げる。その叫びが洞窟の天井を這い、深部へと響いていく。

「静かにしてろ。」

オルスがもう一体との間合いを詰め、袈裟斬りの一閃で沈めた。刃が骨を断ち、血飛沫が洞窟の壁を濡らす。

──残るは、一体。

恐慌状態のゴブリンは、叫びながら後方へ向かって走り出す。

「逃がすか──!」

その直前、リッツの左手が光る。放たれた魔弾が一直線に洞窟を走り、ゴブリンのすぐ脇を掠めた。狙いは頭だったが、その一撃がゴブリンの足を止めるには十分だった。オルスが、最後のゴブリンへと間合いを詰め、鋭い斬撃音とともに、ゴブリンの体が膝から崩れ落ちる。

──一連の戦闘は、数秒の間で完結していた。


洞窟内に漂う湿気と血の匂いの中、ディルは静かに周囲を見渡した。床に広がるゴブリンたちの血だまりを一瞥し、その口元にわずかに微笑を浮かべる。

「なるほど、鮮やかな連携だね。」

その声には軽さはない。短時間で敵を制圧した一連の動き――それは偶然ではなく、何度も鍛えられた連携であり、多少のアドリブも含みながら実践できる。そういうものであるとディルは心の中で噛みしめていた。

キャラウェルが首をかしげ、問いかける。

「イリア、あなた……精神感応系の魔法を使ったのかしら?あのゴブリンたち、どう考えても不自然なほど足が止まってたわ。」

イリアは淡々とうなずき短く答えた。

「ええ、恐怖の感情を増幅させたのよ。オルスとの力量差が“恐怖の種”になったからね。」

その言葉の裏には確かな自信と研鑽がにじんでいた。

精神感応系の魔法――それはルベリア王国でも特に体系化が難しく、学問としての理解が追いついていない分野だ。使い手の才能に強く依存し、再現性も個人差が激しい。だが、イリアはその得がたい魔法を、あたかも呼吸をするかのように使いこなしている。

ディルは視線をリッツへと移し、穏やかながらも核心を突く口調で問いかけた。

「ところでリッツ。敵に気づかれたようだが……この後はどう動く?」

リッツは少し息を整え、前方を睨むオルスを横目に静かに言葉を紡ぐ。

「敵がばらばらに仕掛けてくれれば楽ですが……足音も聞こえない。たぶん待ち構えてるでしょうね。分隊が外にいる前提で考えれば、残りは、多く見積もっても四体ぐらいだと思います。このまま突っ込んで一気に片付けるのが理想ですね。」

ディルは軽く頷きながらも、さらに踏み込むように問いかけた。

「ふむ。数の優位はこちらにある。だから、進む、という判断か。――オルス、イリア。君たちは何か意見は?」

リッツの言葉の後に珍しく彼の仲間の意見を求めている。どうやら、彼の分析にはまだ補完すべき点があるという事だろう。


オルスは肩をすくめ、わずかに首を横に振る。どうやら特に異論はないようだ。

代わりにイリアが、少し思案しながら口を開く。

「そうね……敵に見つかってるのなら、もう“感知”を使っても問題ないわ。数と位置がある程度は把握できれば、先手を取られるリスクは大きく減るはずよ。」

「なるほど、良い判断だね。」ディルが頷く。

イリアは両の掌を合わせるように構えると、その間に淡い霧のような魔力を漂わせた。生成された霧はまるで意思を持っているかのように洞窟の奥へと流れていく。空気を撫でるように滑らかに、静かに。

やがて数分経ち――

「……ディルさんの言ってた通り、シャーマンが一体。そして普通のゴブリンが三体。警戒はかなり高いわね。先に進んで二度曲がった先に、広間がある。そこで全員待ち構えているわ。」

その精度の高さに、ディルとキャラウェルが目を見張る。だがリッツとオルスは、それが当然のように振る舞う。

オルスが腰の剣に手を添えながら、装備を最終チェックする。

「待ち伏せの場所が分かってるなら、こっちのもんだな。」

リッツが全体を見渡しながら、短く言う。

「じゃあ、予定通りで。ゴブリンシャーマンはディルさん。残りは僕とオルスで。イリアは足止め、キャラウェルさんはフォローをお願いします。」

全員が深く頷く。洞窟内に再び静寂が戻り、魔弾の淡い光だけが揺れている。その光を頼りに、一行は確実な足取りで、決戦の広間へと進んでいった──。

割と遅筆です。エピソードを一つ書ききったら、週1で投稿します。

何かあれば、感想の所かXのDMでご連絡いただければ幸いです。

→ https://x.com/feally_leaf

あとがきで、何かしらの設定を1話ごとに描いておきます。



設定 - 005

ディル・ウェム

年齢30歳。ネラート領出身。男性。

普段は片手剣を扱うが、本気で戦うときは短剣と炎系魔法を扱う魔道戦士。

狼風亭の戦闘力のランク付けでは、冒険者のみで10/19位。従業員込みで13/25位


ネラート領で自警団をしていた元狩人。内乱への従軍をきっかけに火属性の精霊魔法を獲得する。戦士としての身体能力は二流だが、器用さで補って巧みに戦う。投擲も含めた短剣術は狭いエリアでの戦いに向き、強い炎の魔法は開けた環境で真価を発揮する。常に冷静も断片的な情報を繋ぎ合わせ、最適解を導く思考力を持ち、共に行動する仲間から信頼を得ている。宿では中堅に位置し後進の指導をメインで担う。

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