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狼風亭の冒険者たち(仮)  作者: うるぅ
プロローグ
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001 プロローグ

冒険者——その名に秘められた響きは、夢や希望を感じさせる反面、現実はあまりにも過酷だ。

命を賭ける職業。そう言えば聞こえはいいが、その実態は死と隣り合わせの稼業に過ぎない。数字がそれを雄弁に物語る。冒険者を名乗った者の半数は、初めの一年を生き抜けずに消える。三年も経てば、生存しているのはわずか二割。剣の腕に覚えがあろうと、魔法に長けていようと、ただひとつの運命のくじ――死神の指先に触れる瞬間を避けられなければ、誰も例外ではない。

一度の戦闘で再起不能となる者もいる。月に一度くじを引けば、確率の帳尻はいや応なく命か四肢を奪い取っていく。だからこそ、冒険とは生き残る術を探す旅であると同時に、己が覚悟を示す証明でもあった。恐怖を抱えながらもなお、そのくじを引き続ける勇気。それだけが、冒険者を冒険者たらしめる唯一の印だった。


この国――ルベリア王国は、五年前に内戦を終えたばかりの若き島国である。戦火によって制度も法律も焼き払われたこの地では、いままさに新たな秩序が形作られている最中だ。だが、戦争が終わったからといって、すべてが平穏になるわけではない。魔物は容赦なく森から溢れ、盗賊は街道を荒らし、焼け落ちた村の多くは復興の手を待たずに荒廃する。治安の回復には、到底、官の手だけでは追いつかない。

そこで導入されたのが、他国の制度を模倣した「冒険者ギルド」であった。その構造は実にシンプル。依頼の受付を担う“ギルド本体”、そして任務遂行の実務を担う“冒険者の宿”。依頼は掲示板や手配書を通じて公開され、魔物討伐から護衛、行方不明者の捜索まで、戦闘経験の浅い者でも応じられる内容が多い。

だが、すべての依頼が表に出るわけではない。所詮ギルドが公式で絡む依頼書というのは公にできる健全な物でしかない。至急の救援、宿の名声によって舞い込む高難度案件、特定の冒険者を名指しする依頼。そして……時に裏口から忍び込む、表沙汰にできない依頼もある。

もっとも、この制度が導入された本当の理由は、別のところにある。内乱によって財政は逼迫し、かつて兵として戦った者たちを国が抱え続ける余力はない。だが、彼らを無為に街に放てば、治安はさらに悪化するだろう。冒険者制度とは、言ってみれば“兵を手放さないための隠れ蓑”だった。民の顔をしながら剣を握らせ、国の金を多少投じ、依頼を回し雇い続ける。民間という形で兵力を確保する。これは、国家の生存戦略でもあった。



ルベリア王国の王都リテイア。戦後の混沌を収めつつあるこの都の中心に、冒険者ギルド本部は聳え立っていた。外光を遮る厚い石壁と、幾世代もの年月に耐えた梁が重苦しい空気を生み、そこに漂うのは古びた革と乾きかけのインクの匂い。外の喧噪とは切り離されたその空間で、一人の若者が木椅子に腰を下ろしていた。

炎のような赤毛が特徴で、軽快な動きができるよう仕立てられた革鎧をまとっている。年の頃は二十を少し越えたばかりか。

若者の前に立つのは、白髪混じりの顎髭を蓄えた職員。皺の刻まれたその顔には、幾多の死線をくぐった者だけが持つ静けさがあった。

「……以上が、ギルドと宿の仕組みだ。質問はあるか?」

職員の問いに、若者は黙って首を横に振る。しばし観察したのち、職員は声を低めに落とした。

「資格は要らん。誰でも冒険者にはなれる。だがな……」

眼差しが鋭くなる。

「どの宿に属するか、それでお前の命の長さは決まる。」

その言葉は、半端な気持ちでなろうというものを拒むような確かな重さがあった。

「こちらから紹介もできる。だが、宿はある意味一生ものだ。宿を移るのは一筋縄ではいかん。慎重に決めることだ。……何か、伝手でもあるか?」

若者は一瞬、躊躇うような沈黙を置いてから、懐から銀の懐中時計を取り出した。

「リュートという方に、昔お世話になりました。今は“狼風亭”の亭主をしていると聞いています。」

その名を聞いた瞬間、職員の瞳に微かな揺らぎが走る。

「……リュートか。確かに狼風亭の亭主だ。まさか本当に知り合いとはな。もしそうなら……君は運がいい。」

若者は口元をわずかに緩め、過去を思い返すように言った。

「内乱の頃、従騎士として従軍していました。その時、リュートさんと行動を共にして……この時計を。『困ったら来い』と。」

職員が時計を手に取ることはしなかったが、その一瞥だけで確かな価値を見て取ったようだった。顎髭を撫でながら、重々しく息を吐いた。

「……なるほど、話は本当のようだ。狼風亭は、リテイアの中でも屈指の実力派。だが、そのぶん、目も厳しい。合わないと見なされれば、容赦なく放り出されるぞ。場所はわかるか?」

「いえ…知りません。」若者の声色はやや小さくなる。

「なら、地図を描いてやろう。」

そう言って、職員はインク壺を手繰り寄せる。その手元でペン先が地図の輪郭をなぞる音が、受付の静寂に響いた。

「無茶はするな。任務を果たすことよりも、生き残ることの方が大事だ。」

「……ありがとうございます。」

深々と頭を下げ、若者は席を立った。

その背後で、大剣を背負った重装の青年と、ローブ姿の魔法使いの女性が立ち上がる。どうやら仲間のようだ。三人はそろって職員に一礼し、扉へと歩みを進める。

職員は、手元のグラスを軽く持ち上げて応じた。別れの挨拶の代わりに。

――こうして、三人の若者たちは、それぞれの命運を手に、“狼風亭”へと足を向けた。

割と遅筆です。エピソードを一つ書ききったら、週1で投稿します。

何かあれば、感想の所かXのDMでご連絡いただければ幸いです。

→ https://x.com/feally_leaf

あとがきで、何かしらの設定を1話ごとに描いておきます。



設定 - 001

ルベリア王国

五年前に建国されたこの国家は、四つの大きな島と百を超える小島から成り立つ。前身は五つの領に分かれた連合国で、商業のリテイア領、宗教のピシア領、魔学のネラート領、農工業のウィスト領、海運のリーボルト領がそれぞれ独自に発展していた。

若い国家として、水を敬うピシア教を国教とし、その巫女を元首に据えているが、統治は律令制が中心である。戦勝領と戦敗領では治安に差があり、首都リテイアは戦敗領の一つであったが、交易や資源が集中する重要拠点であるため、首都に選ばれた。

行政機構や律令は急速に整えられたものの、国家の体制はまだ安定しておらず、戦勝領を含む各地で内乱の兆しが燻っている。

こうした状況を受け、治安維持と民の不満解消のために冒険者ギルドが設けられた。民衆にとって生活基盤を支える存在であり、若者には名声を得る場となる。一方、国家はギルド活動を通じて余剰戦力に仕事を与え、内乱や不満の火種を抑えようとしている。こうして国家と民衆、冒険者が互いに支え合い、若い国家の安定と秩序維持が図られている。


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