清香と柚果の独房生活
5月10日。武田清香と娘の柚果は独房の小窓を代わる代わる覗き込んだ。すると朝の日差しが差し込む。名古屋育ちの美人母娘は4月27日から独房暮らし。サザナミ公国に仮投降して今日で2週間目。清香たちは[いちづ]として3月9日に異世界へ参戦したが、当初から不安定な大気に悩まされた。美人母娘はエージェント活動をしなかったため、魔法戦士のコスチュームに不慣れだった。ナルシスとの対戦場所は屋外だからなおさら天候に左右されやすい。そのため[いちづ]は初戦から思い切りを欠いた。対戦前から彼らに下着の色を把握されては綺麗な生足が高く上がらない。魔法戦士は上からのキックで始まるから序盤から生足が高く上がらないと受け身に回る。アロンソが清香。コーガンが柚果を受け持つ。彼らとの力の差はないが、清香たちはリズムに乗れないまま4月を迎えた。すると衣替えで夏服に変わり、白のセーラーに紺のミニスカート。冬服よりも丈が短めで露出度が上がり、美人母娘は序盤からナルシスに押し込まれた。アロンソたちはスワッピングも即興も控えてくれたが[いちづ]はなかなかリズムを掴めない。そのうち母娘の仲が微妙になり、4戦目は自滅する形であっさり敗北を喫した。清香たちは今日負けたら仮投降と決めており、入房までスムーズに進んだ。通算成績は1勝1敗2分けだから悪くないが、別荘暮らしは憧れでもある。サザナミ公国にはニュース映画がなく、リタイヤした魔法戦士の受け皿がない。そのためいまだに仮投降制度が機能している数少ない国。いざ独房暮らしを始めてみると悪くない。シャワーの日は週に3日だが、5月から10月までは日曜が加算され4日に増える。女性看守のヘレーネとは仲がいい。太い革の首輪とおヘソまでの細い鎖と黒革の貞操帯しか身にまとわないから男性看守だとキツい。だがサザナミ公国の独房に男性看守はいない。理由は単純。独房は魔法戦士専用に創設されたからだ。私たちの魔力は完全に封印された。だがシャワーの時間以外で廊下に連れ出されはせず、異性の目にさらされはしなかった。辛いのは小用を足す時。用意されたおまるに跨り、聖水を解き放つ瞬間は目を閉じる。ソレはまるで厳かな儀式のようだが、柚果がその瞬間喜悦の表情を浮かべた時はゾッとした。恐怖ではなく美しいのだ。かろうじて私たちの関係は破綻を免れたが、いつ崩れ去るかわからない。娘は再戦に意欲的。私もアロンソに一矢報いたい。だがナルシスからの差し入れは固く禁じられた。彼らに借りばかり作ると再戦に暗い影を落とすからだ。シャワーの時間が来た。私たちはヘレーネに鎖を引かれ、シャワールームに向かった。脱衣所で首輪と鎖と貞操帯を外され、私たちは熱いシャワーを浴びることを赦された。娘と一緒になり聖水を解き放つのがルーティン化していたが、女性看守は見て見ぬふりをしてくれた。バスタオルでからだを拭かれ、私はゴールド。柚果は赤の首輪。次に鎖。最後に貞操帯を装着された。カチャリと冷たい金属音が響き、黒光りする貞操帯にカギを掛けられた。私たちは喜悦の表情を浮かべるようになった。コレまた厳かな儀式だからだ。ヘレーネの手で貞操帯にカギを掛けられた瞬間、私たちは虜囚として完成する。その前に小用を済ませなければならない理由は貞操帯の小穴にある。尿道に合わせて楕円状の穴が空き、周りにステンレスが縁取られている。儀式が完了した瞬間、私たちの尿道から聖水がジュッと噴き出すからだ。憶測でしかないが間違いない。いくら気心が知れた間柄とはいえ、死ぬほど恥ずかしい。さすがに母娘揃って粗相するわけにはいかない。だって私たちは誇り高き魔法戦士なんだから。「あなたは立派ね清香。独房に入れられて2週間もすればとっくにボロが出るものよ」「ま、まあねヘレーネ。あなたのおかげよ」「柚果もね。あなたは立派な魔法戦士になれるわよ」「ウフフ」娘はまんざらでもない表情を浮かべたが、私は内心複雑。26日の釈放式までまだまだ日数がある。果たして私たちは女として堕ちずにいられるかな?柚果は気づいていないが、私はギリギリのラインで何とか持ちこたえてる。そんな気がしてならない。拘束期間が1ヶ月なのはそれ以上拘束すると私たちが女として羞恥を失い堕落するからだ。私たちは生身の人間から精神体に変わったまま拘束されている。だから飲み物しか摂取できず、毎日新鮮な野菜ジュースが支給された。「ストローがないから尿道を刺激できないわ」「ゆっ柚果、なんてこと言うの?」「なあによ。お母さんだってストローが欲しくてたまらないくせにい」「まっまあね。ひっ否定はしないわ」私は鼓動が高まるのを抑えきれない。でも柚果に罪はない。愛娘を連れて参戦したのは私。でも再戦してアロンソたちに勝てるかしら。彼らはゆるめてくれてたし。かと言っていつまでもナルシスに甘えてるわけにはいかないわ。