第七話 深謀
「やっと私が平坂君と特訓出来るわけね、待ちくたびれたぁ~。」
影葉は不貞腐れた表情で僕を見つめる。
神代姉妹による特訓が一段落ついたことで、ようやく奨励祭に向けての影葉との特訓が可能となったのだ。
前々から影葉に誘われてはいたのだが、如何せん凛音から基礎を優先しなさいと言われていた故に
かなりの間影葉を待たせてしまった。
「まぁいいけどね~もうあと奨励祭まで1か月もないのにまともに連携も出来ないけどねぇ~いいけどね~。」
「平坂君には私が色々教えてあげようと思ってたのにな~。」
「九重さん、緋羽さん、凛音さん、焔さんとかね~いっぱいいるもんね~真には~別に私じゃなくてもいいよね~。」
「家では香織が家事とかやってるみたいだし~私がいようといまいとどうでもいいだろうし~。」
次々口から出る不満の言葉を伺うに、相当影葉はお冠だったようだ。
「ごめんなさい、影葉さん。」
「これで気を取り戻して、一緒に特訓してほしい。おねがい。」
そう言って僕は予め、後ろ手に持っていたショートケーキの入った箱を彼女に手渡す。
味の好みがわからなかったので、ラズベリー、チョコ、チーズと3種ほど入れておいた。
1つぐらいは彼女のお眼鏡に叶うものがあるだろう。
「ん…。まぁそこまで言うならいいけど…。」
「じゃあこのケーキ一緒に食べてから始めよっか。」
彼女の提案を受けて僕はこの学校の庭にある、軽食用のテーブルに影葉に先に行くように伝え
僕はケーキに合うコーヒーを学内の喫茶店に買った後、先に席についている彼女に合流する。
「わざわざありがと、平坂君。」
彼女の様子を見るに機嫌は多少直ったように見える。
「にしても、奨励祭って言ったって私は大した願いがあるわけでもないし、倫理的に不可能な願いが叶う訳でもないし。」
「難しい所だね、やっぱりお金とかになるのかな?もしくは権力的な?」
「平坂君は何か欲しいものがあるの?」
「欲しいもの…。」
欲しいものと言われても、これまで深く考えたことは無かった。
一般的には影葉の言うように金や権力になるのだろう。
例えばC.O.R.Eの才能が無いと自覚している自分ではあるが、だからと言ってC.O.R.Eの才能を熱望するかと言われると
そういう事は無い。本来の人の心の動きとしては悔しがったり、望んだりするはずであるものの
なぜか現況と裏腹に、そういった欲が浮かばないのだ。
「それだけ考え込んで無いってことは無いのかな?案外現状満足してたり?」
「まぁ、悩みが無いのは良い事だよね。」
「私はまぁ~人並みにはお金とか欲しいって思っちゃうかな~。あんまりいい答えではないだろうけど。」
深く思案する僕を気遣った様子で、影葉は明るく努めて話しかけてくる。
「にしてもおいしいね~ケーキ。乙女の身体は菓子で出来ている!」
「社会の一般通説的にはそう言われてるんだから!」
影葉は気を使ってか、明るい話題に切り替える。
気遣い上手という言葉は彼女のためにあるのだろう。
そして、彼女が楽しそうにケーキをついばむ姿を見るとこちらまで楽しくなってくる。
僕は彼女が楽しげにケーキをつつく姿を見ながらこの一時を過ごした…。
――――――
「で、二人での特訓といったものの何をするのがいいんだろうね?」
二人でのティータイムを終えた僕達は、実習棟にある会議室に来ていた。
この部屋は防音室になっており、八人掛けほどのテーブルの横にはホワイトボードが置かれており、いかにも作戦室といった感じだ。
二人で使うにはあまりにも広く感じるが、二人用の会議室は存在しないので仕方なくこの部屋を借りた。
「まずは、影葉さんと僕が何が出来るかをリストアップする必要があると思う。」
会議室を借りようと提案したのは僕だ。
これからの戦いは実戦より、僕が出来る戦いは戦術よりの戦いであるという事を焔さんとの特訓によって理解できたからだ。
まずは、彼女が何をできるか、僕が何をできるか、二人の弱点や強みは何かといった理解を深める所から始めようと考えた。
基本的にはこう言った戦術を予め立てるような生徒は少ない様だ。
何せ、C.O.R.Eの能力というのは不安定かつ、相手のC.O.R.E能力が分からない以上、戦術を周到に立てた所でちゃぶ台返しにされる可能性の方が高い。
そのため、影葉に戦術メインの戦いをすることに同意してもらえるように説得する必要があると思っていたが、
どうやら彼女も性質上直接戦闘が得意なC.O.R.E能力ではない為、寧ろ乗り気の様子だ。
彼女が得意なのは隠形、監視、狙撃、分析あたりの能力らしい、僕自身も直接戦闘に秀でた能力では無いので
正攻法で戦うという線は殆ど無くなるだろう。
そうして、彼女とこれからの奨励祭の戦い方や連携の仕方について議論を交わしながら時間が過ぎた…。
――――――
あれから影葉との特訓は殆ど会議室で行われた。
時折、焔さんとの特訓をしながら助言を貰い、影葉との特訓に勤しむ。
また、実習棟でフィールドを借りる時は実戦におけるリハーサルのような形で確認のために使う程度で
C.O.R.E能力を高めるというよりは、二人の戦術における連携力をいかに高めるか、また様々な実践におけるパターンを予測し、
対応パターンを作ることで連携にアドリブの幅を持たせるように二人で試行錯誤し、時を過ごし、奨励祭開催の3日前となった。
3日前となると、奨励祭の参加者とペア一覧が掲示板上に掲載され、各試合のトーナメントが発表される。
「え~っと、私と平坂君の相手は…。うん、1回戦と2回戦ははっきり言って大したことが平坂君と特訓出来るわけね、待ちくたびれたぁ~。」
影葉は不貞腐れた表情で僕を見つめる。
神代姉妹による特訓が一段落ついたことで、ようやく奨励祭に向けての影葉との特訓が可能となったのだ。
前々から影葉に誘われてはいたのだが、如何せん凛音から基礎を優先しなさいと言われていた故に
かなりの間影葉を待たせてしまった。
「まぁいいけどね~もうあと奨励祭まで1か月もないのにまともに連携も出来ないけどねぇ~いいけどね~。」
「平坂君には私が色々教えてあげようと思ってたのにな~。」
「九重さん、緋羽さん、凛音さん、焔さんとかね~いっぱいいるもんね~真には~別に私じゃなくてもいいよね~。」
「家では香織が家事とかやってるみたいだし~私がいようといまいとどうでもいいだろうし~。」
次々口から出る不満の言葉を伺うに、相当影葉はお冠だったようだ。
「ごめんなさい、影葉さん。」
「これで気を取り戻して、一緒に特訓してほしい。おねがい。」
そう言って僕は予め、後ろ手に持っていたショートケーキの入った箱を彼女に手渡す。
味の好みがわからなかったので、ラズベリー、チョコ、チーズと3種ほど入れておいた。
1つぐらいは彼女のお眼鏡に叶うものがあるだろう。
「ん…。まぁそこまで言うならいいけど…。」
「じゃあこのケーキ一緒に食べてから始めよっか。」
彼女の提案を受けて僕はこの学校の庭にある、軽食用のテーブルに影葉に先に行くように伝え
僕はケーキに合うコーヒーを学内の喫茶店に買った後、先に席についている彼女に合流する。
「わざわざありがと、平坂君。」
彼女の様子を見るに機嫌は多少直ったように見える。
「にしても、奨励祭って言ったって私は大した願いがあるわけでもないし、倫理的に不可能な願いが叶う訳でもないし。」
「難しい所だね、やっぱりお金とかになるのかな?もしくは権力的な?」
「平坂君は何か欲しいものがあるの?」
「欲しいもの…。」
欲しいものと言われても、これまで深く考えたことは無かった。
一般的には影葉の言うように金や権力になるのだろう。
例えばC.O.R.Eの才能が無いと自覚している自分ではあるが、だからと言ってC.O.R.Eの才能を熱望するかと言われると
そういう事は無い。本来の人の心の動きとしては悔しがったり、望んだりするはずであるものの
なぜか現況と裏腹に、そういった欲が浮かばないのだ。
「それだけ考え込んで無いってことは無いのかな?案外現状満足してたり?」
「まぁ、悩みが無いのは良い事だよね。」
「私はまぁ~人並みにはお金とか欲しいって思っちゃうかな~。あんまりいい答えではないだろうけど。」
深く思案する僕を気遣った様子で、影葉は明るく努めて話しかけてくる。
「にしてもおいしいね~ケーキ。乙女の身体は菓子で出来ている!」
「社会の一般通説的にはそう言われてるんだから!」
影葉は気を使ってか、明るい話題に切り替える。
気遣い上手という言葉は彼女のためにあるのだろう。
そして、彼女が楽しそうにケーキをついばむ姿を見るとこちらまで楽しくなってくる。
僕は彼女が楽しげにケーキをつつく姿を見ながらこの一時を過ごした…。
――――――
「で、二人での特訓といったものの何をするのがいいんだろうね?」
二人でのティータイムを終えた僕達は、実習棟にある会議室に来ていた。
この部屋は防音室になっており、八人掛けほどのテーブルの横にはホワイトボードが置かれており、いかにも作戦室といった感じだ。
二人で使うにはあまりにも広く感じるが、二人用の会議室は存在しないので仕方なくこの部屋を借りた。
「まずは、影葉さんと僕が何が出来るかをリストアップする必要があると思う。」
会議室を借りようと提案したのは僕だ。
これからの戦いは実戦より、僕が出来る戦いは戦術よりの戦いであるという事を焔さんとの特訓によって理解できたからだ。
まずは、彼女が何をできるか、僕が何をできるか、二人の弱点や強みは何かといった理解を深める所から始めようと考えた。
基本的にはこう言った戦術を予め立てるような生徒は少ない様だ。
何せ、C.O.R.Eの能力というのは不安定かつ、相手のC.O.R.E能力が分からない以上、戦術を周到に立てた所でちゃぶ台返しにされる可能性の方が高い。
そのため、影葉に戦術メインの戦いをすることに同意してもらえるように説得する必要があると思っていたが、
どうやら彼女も性質上直接戦闘が得意なC.O.R.E能力ではない為、寧ろ乗り気の様子だ。
彼女が得意なのは隠形、監視、狙撃、分析あたりの能力らしい、僕自身も直接戦闘に秀でた能力では無いので
正攻法で戦うという線は殆ど無くなるだろう。
そうして、彼女とこれからの奨励祭の戦い方や連携の仕方について議論を交わしながら時間が過ぎた…。
――――――
あれから影葉との特訓は殆ど会議室で行われた。
実習棟でフィールドを借りる時は実戦におけるリハーサルのような形で確認のために使う程度でC.O.R.E能力を高めるというよりは
二人の戦術における連携力をいかに高めるか、また様々な実践におけるパターンを予測し、
対応パターンを作ることで連携にアドリブの幅を持たせるように二人で試行錯誤し、時を過ごし、奨励祭開催の3日前となった。
この時点で奨励祭の参加者とペア一覧が掲示板上に掲載され、各試合のトーナメントが発表される。
「え~っと、私と平坂君の相手は…。うん、1回戦と2回戦の相手ははっきり言って大したことなさそうね。」
当然、相手の情報を得るために僕と影葉はいち早く掲示板に駆け付けた。
「3回戦はう~ん…。この伏見蓮って人のペアが上がってきそうね、彼は腕が立つ噂は聞いてるから要注意かも。」
彼女曰く3回戦目に伏見蓮という土の属性の使い手が強敵だそうだ。
が、その相方の網走涼という人物は名前も聞いたことが無い程度の人物らしい。
「う~ん一通り見たら優勝候補はまぁこの二階堂さんのペアかなぁ…その相方は、匿名で参加?何か訳アリって感じかな?」
「まぁ決勝まで当たることは無いとはいえ、決勝で勝てるかなぁ…。」
影葉は訝し気な表情だ。しかし、その名前に聞き覚えがあった僕は影葉に問いかける。
「二階堂さんって金髪のお嬢様みたいな人?」
「まぁそうだけど…。って平坂君が知ってるのって珍しいね。もしかして会ったことあるとか?」
影葉は不思議そうな顔で尋ねる。
「まぁ、ちょっとね。」
僕がそう言うと
「ふーん、そうなんだー。」
影葉は不貞腐れたまま投げやりに言葉を返す。
また機嫌を損ねてしまったようだ。
「なんかよりにもよって強烈な人ばっかりと知り合いなんだね、平坂君って。何かに憑かれてるの?それともそういうのが好きなの?」
「って聞いても答えてくれるわけないよね、まぁいいや。」
彼女は自分の中で完結したようで、話を続ける。
「神代姉妹も準決勝まで当たらないとは言え要注意ね、あと気になる名前は…。」
「双葉香織…予想はしていたけど出るのね、その相方は…アイオンさん。」
「九重さんのお付きだから強いんだろうけど…、香織と組むとはね。仲が良い様には見えなかったけど…。」
僕と影葉はそう言って掲示板を眺めた後、再度会議室で自分が当たりそうなペアの情報を整理し、
残りの3日間は他のペアに対する対策を練ることに専念した…。