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真紅のセカイ  作者: てとらぐらむ
第一章 Initium~始まり~
5/14

第五話 祝宴

3話修正しました。すいません…。

「さぁ、皆の者。祝杯だ、今夜は遠慮せず飲んで食べて騒ぐと良い。」


 紅がそう言うと、彼女の横にいるアイオンが手に持ったクラッカーを鳴らす。僕達は寮の一階の大広間で、祝賀会を開いていた。

 名目上は僕に師匠が出来たことのパーティらしいが、その実は親睦を深めるための機会づくりらしい。

 そのメンツは影葉、香織、凛音、焔、アイオンと、この寮においては過去最大の賑やかさを見せている。


「はぁ、屈辱ですね。負けたというのにこんな祝賀に招待されたというのは…。」


 そう言葉を溢すのは、全身の殆どを包帯でグルグル巻きにされた凛音だ。安全装置ありの試合といえど、軽減できるダメージには上限がある。

 あくまで安全装置は命を落とさないためのセーフティネットに過ぎない。

 凛音は拒絶の言葉とは裏腹に、その雰囲気はどこか憑き物が落ちたようだった。


 もちろんのこと、凛音に右腕をやられた紅も同様に、右腕に包帯を巻いている。

 そのため、紅の右腕の代わりになるように、アイオンが甲斐甲斐しく世話を焼いており、その姿はいつにも増して張り切っているように見える。

 紅が左手を使って口に物を運ぼうとすると、それを遮るようにアイオンが紅の口元に箸で食べ物を運び、それは自分の仕事と言わんばかりの気迫を見せている。

 紅は特に拒絶することもなく、アイオンのお世話をその身一身に受けている。


 一方、僕の両隣に座る影葉と香織は、僕は一切負傷していないにも関わらず、アイオンに負けじと

 お互い僕の口に自分の作った料理を詰めては、美味しい?と問いかけてくる。互いに一切譲る気は無いようだ。


 そして、焔は凛音の介抱をしながらも、僕達の様子を静かに伺っている。


 一通り皆が小腹を満たし、場が落ち着いたところで、紅が口を開く。


「凛音君、数々の無礼な言葉、すまなかった。」


 そう言って紅は凛音に頭を下げる。状況を知らない影葉や香織は何故謝っているのかわからず、不思議そうな顔を浮かべている。


「はぁ、勝者に頭を下げられると私が情けない気持ちになるではないですか、面を上げてください。」

「あの言葉が私を焚きつけるための方言だったことぐらい、私はわかっていますので。」


 凛音は努めて落ち着いた様子でそう返す。


「いや、姉上はしっかり焚き付けられて効いていたように思うが。」


 焔がそう指摘すると、凛音は鋭い目線を焔に飛ばす。当の焔は目線を空に向け、惚けた態度を取っている。

 二人の仲睦まじい様子を見ると、仲の良い姉妹であることが伺える。


「それは一先ず、貴方が最後に見せたあの力は何?あれが貴方のC.O.R.E能力?」


「まぁ、C.O.R.E能力と言われるとそうではあるな。」


 凛音の詰め寄るような言葉に、紅は濁すように言葉を返す。


「あれほどの力があるなら何故最初から使わなかったの?それとも感情が(たかぶ)らないと発動できないとか?」


「いや、そういうわけでもないんだが…。」


 紅は一呼吸置いて


「端的に言うと目立ちたく無いのだよ。」

「私はこんな(なり)だが、一応名家の娘でね。能力が無く、ほぼ勘当されているからこそ、ある種自由にやらせて貰っているのだよ。」


「まぁ、仮に私の能力が本家の目に付けば、私がどれほど反抗的な人間と言えど家の人間から圧力を受けるのは間違いない。」

「そしてそれは私だけでなく、君達にまで及びかねないのでね。そうなると非常に面倒なのだよ。」


 そう言い肩を竦める。


「だから本来君との戦いはC.O.R.E能力を使わずに収めるつもりだった。その方が真にとっても参考になるだろうしな。」

「が、幸か不幸か君が私の予想を上回ったのでね。仕方なくC.O.R.Eを使う羽目になったわけだ。」


 紅の事情を聞いた僕は、いつも傍若無人な振る舞いを見せる紅も、背負うものがあると知った瞬間、どこか背中が遠く感じられた。


「でもアンタ、目立ちたくないって言うなら柏木とはなんで戦ったのよ。アンタならもっと穏便にやれたでしょ。」


 紅の語る背景を僕の横で聞いていた影葉が、紅の行動の矛盾を指摘する。


「いや何、久々に悪意をぶつけられたのでね。少し血が滾ってしまったんだ。それまでは研究室でずっと籠もって居たのでね。」


 先程まで語っていた事情とは何だったのかと言いたくなる理由に、聞いていた皆が肩を竦めた。


「事後処理も大変だったよ、全く。」


 紅は小さな声で、意味深な言葉を残した後、アイオンが運ぶ料理を口にする。その言葉の違和感に気づいたのは恐らく僕だけだったであろう…。


「まぁ、この話は終わりとしてだね。今日の本題だ。」


 紅は場を切り替えるように明るく努めて声を張る。


「香織君。君、この学園に入学したまえ。」


「良いの…?入りたい、私も真と一緒に登校したい!」


 その言葉を聞いた香織は藁をもすがる勢いで、紅に詰め寄る。


「いや、入るも何も香織にはC.O.R.E能力が無いんじゃないの?流石にC.O.R.E能力が無い生徒は入れないと思うんだけど?」


 影葉はそう言いながら少し困惑した表情を浮かべている。


「そんな事はない、確かに香織にはC.O.R.E能力があるといえる。」


 そう返す紅の声には確信に満ちている。


「そんなワケ無いわ!だって私にはわかるもの。それが私のC.O.R.E能力だから!」


 そう言って影葉は順番に指を指しながら


「凛音、金。」

「焔、火。」

「アイオン、火。」

「真、木…と少し火。」

「九重紅、不明。」

「香織、無し。」


 と、それぞれのC.O.R.E能力の属性を言い当てる。


「それが君の能力か、影葉。私と姉上は確かに合っている、が、それはそうとして彼女の不明というのは何だ?」


 焔はそう言って影葉を問い詰める。


「何だって言われても、何もわかんないわよ、概ね情報を偽装する類の能力でも持ってるんでしょ。私の能力はそこまで看破出来るものじゃないし。」

「それはそうと、香織には何も無いはずよ。辛うじて火の属性は有るけど、C.O.R.Eが発現するに至るほどの物ではないし…。」


「それはそうだ。なぜなら彼女は五行に属したC.O.R.E能力では無いからな。」

「アイオン、頼んでいたあれを持って来てくれたまえ。」


 紅がそう言うと、アイオンはどこからか格式高そうな和弓を運んできた。

 弓の装飾には金属で出来た白い溝が掘られており、本来の姿から何かしら改造した様子が伺える。


「香織君、これが君のE.R.A.Dだ。これを持って強い力を想像しながら、弓の弦を引いてみたまえ。」


 紅がそう言うとアイオンは持っていた和弓を香織に手渡す。

 香織は緊張した様子で、その弓を受け取ると、空に向かって弓の弦を引く。

 すると、弓の白い溝の装飾部分が紫色に染まり始め、香織の弦を引く手に、黒色の光を放つ影のような矢が現出する。


「おおっと、ここでは打つのは止めたまえよ、香織君。ゆっくりと弦を引く手の力を抜くと良い。」


 香織が紅言葉に従い、弓を引く手の力を緩めると、矢は影のように霧散し、その姿を失う。

 その様子を見ていた影葉達は呆気に取られて、しばしの間言葉を失っていた。


「やった、これで私も真と一緒…!」


 香織は大変嬉しそうな顔をしながら僕の手を取って喜ぶ。


「で、結局彼女のC.O.R.Eの属性の秘密は何なんです?五行に属さないと言うと、別の属性があるとでも言いたいようですが。」


「ああ、何。属性で言うと…。黒、影、闇、霊…。これ迄にない新しい物と思ってもらえれば構わない。」


 凛音の言葉に紅がそう返す。


「いや、貴方。それは今までの定説を揺るがすような発見ではないですか、学園に報告したほうが良いのでは無いですか?」


「まぁ、そうなるな。と言うわけで他言無用で頼む。」


「いえ、他言無用と言われましても…。」


 凛音は紅の提案に動揺しているようだ。本来であればC.O.R.E能力の発展のための礎となる発見をあえて表に出さない事は彼女の正義感を燻るのだろう。

 それを見越したかのように紅が畳み掛ける。


「凛音君、あのだね、私は香織君を実験動物にしたくは無いのだよ。勿論、C.O.R.E能力の発展に置いてこの考え方が間違っていることもわかっている。」

「しかし、香織君のような希少な存在を報告した場合、五体満足で返ってくるかと言うと、私はそうは思えない。」

「よって、私の研究室で彼女を預かる形にして、ある程度研究が進んだタイミングで学園には報告する。それが一番穏便に済む方法だろう。」

「当面、彼女のC.O.R.E能力は火の属性という事で処理をする。どうかな?」


 紅は香織の身を案じて敢えてこの様な決断に至ったことが伺える。

 唯一紅に食いかかった凛音も、少し考えたのち紅の考えを賛同するに至った。

 影葉はとても不満そうな顔をするも、紅の尤もらしい理由に楯突く気は無いようだ。


「では、そういう訳で、よろしく頼む。」


「暗い話はさておき、食べようじゃないか。まだまだ夜は長い、せっかくの宴なわけだ。思う存分食べ給え。」


 紅はそう言うと、アイオンが配膳用の台車に色とりどりなスイーツを乗せて運んで来る。

 その美味しそうなスイーツの前に女性陣達は目の色を変えて、あれにしようか、どれにしようかと楽しそうに悩んでいる。


 こうして、甘く賑やかなひとときは、夜更けまで続いていった。


 ――――――


「おはよう真、ご飯だよ!」


 僕はいつもの香織の声で目が覚める、昨日の宴の疲れか、今日はとても深く眠れた気がする。

 香織は昨夜の件からとても上機嫌な様子が続いている。何なら本来の性格さえ変わっているような気さえする。

 元々香織は大人しいタイプであり、ここまで感情の発露を表にする方では無かった筈だ。

 僕が彼女の一面を知らなかっただけなのか、もしくは何か彼女を変えるきっかけがあったのか。

 そう考えながら僕は香織と朝食を済ませて、学園へ向かうため寮を出る。


「今日からはここで別れなくていいなんて、凄い幸運。あの紅さん?には感謝してもし足りないぐらい。」


 香織はそう言って僕の手を引いて学園へ続く道を歩いた。

 紅の手引きで香織は次の日から転校することが叶った。あまりの手の早さに紅本人に尋ねると、前々から手引きしていたようだ。

 ただ、香織はあくまで研究室預かりのため特科の生徒として転校することになったようで、僕と一緒に授業を受ける事にはならないようだ。

 香織はその説明に少し悲しそうな顔をしたが、彼女の立場上どうすることもできない。

 僕は、教室まで香織と歩くと、教室の入り口前に紅が立っている。

 香織の転校初日のため、研究室まで付き添うようだ。


 僕は影葉に挨拶をした後席に座ると、後ろの席から指でツンツンとする感触を感じる。

 僕が後ろに向くよう要求しているようだ。


「改めておはよう、平坂君。昨日の事はさておき、最近暗いニュースばっかりだね。」

「なんか宗教絡みの紛争がまた起きたみたいで、経済的影響も考えて公的に初めてC.O.R.E兵器が導入されるとかなんとか」

「世間的には良い事なんだろうけど、新しい力が見つかったら何でもかんでも戦争戦争って…なんか微妙な気持ちかも」


 そう語る影葉の顔は真剣な顔をしている。


「ま、まぁそれは置いといて、この学園の大ニュース!なんか学園主催の奨励祭とかいうイベントをやるみたいよ。」

「C.O.R.E能力者同士でタッグを組んでトーナメント形式で優勝を争うみたい。」

「優勝者は倫理的に問題のない範囲で可能な限り学園側がなんでも願いを叶えてくれるみたい。」


「どう?平坂君。私と組まない?…って言っても九重さんと組むよね…きっと。」


 影葉は笑顔のままで諦めた様な表情を浮かべる。


「紅様は平坂真と組みません。」


 影葉の横に座るアイオンが口を開く。いつも紅の横にいるイメージの彼女が話しかけてくるのは珍しく感じる。


「え?ああ、九重さんは貴方と組むわけか。」


「いえ、私と組むわけでもありません。そもそも紅様は出ません。」


 アイオンは呆れた顔でそう返す。


「昨夜の話を聞いていればお分かりかと思いますが、紅様はあまり人前で目立つわけにはいかないのです。理解できましたか?」


 アイオンは僕達を少し馬鹿にした様子で言葉を紡ぐ、どうやらあまり良くは思われていないようだ。


「そ、そう。ありがと。じゃあ、どうかな?平坂君、私と組んでくれる?」


 そう言って差し出された影葉の手を、僕は肯定の意と共に握った。


 ――――――


「ああ、君が(くだん)の香織とやらか、ふむ。私は緋羽鏡、よろしく頼む。」


 私が紅さんに手を引かれて案内されたのはKagami's Labと書かれた看板の部屋の一室だった。

 彼女に紹介された鏡という人物は、私の眼から視線を逸らさない。

 私を見るその眼はまるで実験動物を扱う研究者のように感じる。研究者故の性なのかもしれない。


「では、香織君の解析を頼むとするよ、鏡君。」


 そう言って紅は研究室に無造作に置かれた椅子に腰かける。


「今日はさほど急がないんでね、ここで見物させてもらおう。」

「純粋に香織君についても興味がある事だしね。」


「ふむ、そうか。まぁ好きにしたまえ。」

「では、香織。腕を出してもらえるかな?ああ何、少し採血するだけだ。」


 鏡の指示通り、私は右腕を彼女に差し出す。

 彼女は手に持った注射針で私の右腕の静脈に針の先端を潜り込ませる。

 シリンジに私の赤々とした血液が注がれ、メモリの一番上まで溜まったのを確認した後、鏡は注射針を抜き、注射痕にガーゼを押し当てる。


「私の時とはやり方が違うんだな。直で吸うのかと思っていたが。」


 紅が不思議そうな様子で鏡に問いかける。


「ああ、アレは気に入った人間しかやらないんでね。」


 鏡は冷静な表情のままそう返し、プレパラートに乗せた血液を指を乗せ、そのまま舐めた。


「ほう、それは嬉しいことだ。少なくとも私は君に気に入られているという訳だな。」

「私も同様に鏡、君の事を気に入っている。君のその心の内に隠す熱を感じるんでね。」

「その心の内が将来的に私と違える結果になったとしても、私は君のような人間はタイプなんでね。」


 紅はニヤニヤとした表情で鏡を見つめながら喋っている。その言葉が本心かどうかはわからないが、少なくとも楽しんではいるようだ。

 鏡は血を舐めた後、少し俯き。思考を巡らせているようだ。


「ああ、彼女の能力だよ香織君。彼女は血を通して相手の情報を解析することが出来るのだよ。」

「私も多少の解析能力はあるんだがね、彼女ほどではない。解析の深さが違うんだよ。」

「私はどの程度の能力があって、どういう系統か、ぐらいしかわからないんだが、彼女は特別だ。」

「どの能力があって、どういう系統かというのは勿論、潜在的能力や本人の意思の供給源は何から来るのか?」

「慈悲、怒り、愛、嫉妬、正義、悪意。人によってその原動力は様々だ。それすらも彼女には見透かされるようだよ?」

「まぁ相手の血を必要とするというハンデはあるがね。」


 不思議そうな顔をして彼女を見つめる私に、助け舟を出すように紅が説明を行う。

 私がここに連れてこられた理由は、鏡の解析能力で私の能力を見定めるためのようだ。


「ふむ、確かに彼女は面白いパターンだな。で、紅よ。コレは何処で拾って来たんだ?」


 彼女は私を指しながらコレと言って、不思議そうな顔をしながら紅に尋ねる。


「彼女自身は意識をもって動いている。そして流れる血肉は偽りなく人間のものだ。」

「しかし、彼女の身体は彼女の物ではないように思えるが?まるで幽霊が彼女の肉体を乗っ取ったかのようだ。」

「幽霊の生きたいという意思が彼女が本来得るべきではない権限を得て彼女の身体を使役している(ふう)に見える。」


 何を言っているんだ?この鏡という女は、まるで私が存在してはならない人間であるかのような言いようだ。

 私の今までの人生が嘘だったとでもいうのか?そんなことはありえない。

 私が真と過ごして来た日常の記憶はその総てにおいて私が享受し、私が満たされるためのものであるはずだ。

 このエセ研究者如きが真実の私である私の意思を揺るがしてはならないし、私の意思よりあの女の意思が優先されてはならない。

 あの女?あの女とは誰だ。私がなぜこのような仕打ちを?何をしたというのだ。ふざけるな、ふざけるなよ。矮小な臆病者の分際で。


「香織君、香織君、落ち着き給え。」


 私の肩を叩く紅の声で私は自分が正気を失っていたことに気づく。


「これでも飲んでゆっくりしたまえ。」


 そう言って紅が差し出したカフェラテを私は両手に取って飲んだ。

 少し気が落ち着いたのか、眠気が私を襲い、体から力が抜ける。

 目を閉じる時、私を見る紅の眼は子供を見る母のような優し気な目をしていた…。


「危ない危ない、不用意だよ鏡君。不安定な彼女を揺るがすのは。」

「研究室が吹っ飛んではたまらないからね、それともあれかな?私が止める事を想定して反応を伺ったのかな?」


「反応を伺うのは研究者として当然の事だろう。何、アレから得られる知識を考えれば研究室など安いものだ。私の知的好奇心の前には諦めたまえ。」


 香織の寝るベッドを囲むように立つ二人の顔には、本心に宿るものこそ違えど、二人とも笑顔の表情だった…。


 ――――――


「じゃあ、約束通り貴方の稽古をつけるとしましょうか。」


 今、僕は凛音と焔に連れられて実習棟の一番小さな規模のフィールドに立っている。

 部屋の大きさは10m×10m程度で、部屋の隅には練習用の的が置かれているだけのシンプルな部屋だ。


「姉上が格闘戦について、私がC.O.R.E能力についての指導を担当しようと思うが。それでいいかな?真。」


 僕は反対する理由もない為、素直に頭を縦に振る。


「では姉上の格闘戦についてのレクチャーから始めてもらうとするか。私は眺めているとしよう。」


 焔はそう言い残して部屋の隅の椅子に腰かける。


「ではまず、私と実際に戦う所から始めましょうか。」


 そう言って凛音は腰にかけた鞘から、直剣を取り出す。


「九重から聞いたけど、貴方は彼女と同じ直剣のE.R.A.Dを使うみたいね。」

「この剣は彼女の持っていた直剣とリーチが殆ど同じの物よ、私はこれを使って貴方と戦う。」

「条件やリーチは殆ど同じ中でまずは私にかかってきなさい。心配しなくとも安全装置のおかげで命の心配はない。」

「本気で来てもらって構わないわ。」


 そう言って凛音は直剣を構える。

 僕は右手に意識を集中して、紅と同じ、直剣のE.R.A.Dを現出させた。

 改めて手にすると重く感じる。安全装置があると言えど、この武器が人の命を奪うものであるという事実は変わらない。


「何をしてるの?ボーっとしてると…こうなりますよ!」


 そう言って彼女は僕に向かって上から剣を振り下ろす。

 僕は咄嗟に剣を上に構えて防御姿勢を取り、その一撃を防ぐ。が、その一撃を防いだ衝撃で手が痺れ、剣を落としてしまう。


「どうです?簡単に防げると思っていたでしょう?しかしダメです。まともに受けてしまっては防ぐことすら(まま)なりません。」

「受け流すのです、剣の柄をしっかりと持って、受ける時には力を逃すように振る舞う。」

「まともに返そうとすると相手以上の力が必要となりますからね。」


 そう言って僕が直剣を落としては構える度、凛音は僕に向かって剣を打ち下ろす。

 僕は剣を握って相手の剣の軌道を見て合わせるのが精一杯で、まるで受け流せずに何度も剣を落としてしまう。


「貴方、九重に目を掛けられているにも関わらず。あまり筋は良くないようですね。」

「貴方に教えるのは中々骨が折れそうだ…。困りましたね。」

「では、今日の格闘戦の指導はここまでに致しましょう。では、焔に後は任せましょう。」


 僕の腕が疲労によって剣を持つのが精一杯になったことを見越して、彼女は練習を切り上げ、焔と入れ替わる様に椅子に座る。


「姉上はスパルタだからな…。すまない。」


 そう言って焔は僕の身を案じてくれる。僕の呼吸が落ち着くまで少し時間を取った後、彼女は言葉を発する。


「では、C.O.R.Eについて簡単な説明から始めようか。とはいえやることは簡単だ。」

「自身の心を奮い立たせる事だ。その奮い立たせ方によってC.O.R.E能力の出力が上がると思って貰えると良い。」


「まぁ見本にやってみようか。」


 そう言って彼女は右手の手のひらを上にあげて力を集中させる。

 すると彼女の手のひらの上に赤く燃え上がる小さな球体が浮かび上がる。


「これが、小出力の際の力だ。これを奮い立たせていくと…。」


 彼女は右手により力を集中させると、その燃える球体はみるみる大きくなる。

 それにつれて周囲の温度は瞬く間に上昇し、僕は体から凄まじい量の汗を噴き出す。


「焔、やめなさい。暑すぎるわ。」


 鬱陶しそうな顔をした凛音の言葉によって彼女の手から球体が消える。


「というように、自身を奮い立たせる事が大事という事だ。」

「人それぞれ原動力となる感情は違うが、基本的には相手を倒すという意思が大切だ。ともかくやるといい。」


 僕はその言葉を聞いて、相手を倒すという意識を軸にして自信を奮い立たせる事を試してみる。

 倒す。倒す。倒す。倒す。

 そうして右手に力を集中させると、何かが現れ出でんとする感覚を感じ、それを放出する。


 僕の右手から緑の蔓のような植物が生えてきて、近くにいる焔に絡みつこうとする。

 が、その数は5本程度で、焔の手を覆う程度しか絡みつくことは叶わなかった。


「う~む、これは中々C.O.R.Eの方も大変だなこれは…。どうしたものか…。」


 焔の呆れるような呟きを耳にした僕は、これから先の前途多難な未来が頭に浮かんだ…。


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