第四話 瘋癲
「では真。試合開始前に、このイヤホンをつけたまえ。」
そう言って紅は僕にマイク付きの片耳イヤホンを差し出す。
どうやら紅の着けるイヤホンとペアリングされており、音声が双方受信できるモノのようだ。
紅は試合が始まったらそのイヤホンを付けたまま観客したまえ、とだけ残すと、フィールドの方へ歩いて行った。
昨日の紅の挑発から始まった決闘は、観客席が足りなくなるほどの注目のイベントになっていた。
元々小さいフィールドで試合を行う予定であったが、観客希望者の数が会場に収まりきらず、
大規模フィールドにて試合が行われる事となった。
勿論、観客の希望に沿わずに本来予定していた、中規模のフィールドを使うことも可能であったが、
学園側による要請によってこのような形になったようだ。
表向きの名目としては生徒達のC.O.R.E能力の発展のため、一種の教材として用いるそうである。
実力者同士の試合、それも片方は特科の生徒という貴重な戦闘データをサンプルとして取れるいい機会なのだろう。
「見つけた~!平坂く~ん!」
影葉が手を振りながら駆け寄ってくる。どうやら僕を探していたようだ。
「いや~九重さんはま~た喧嘩売ってるみたいね~、でも今回は前の柏木なんかと比べてかなり強いから流石に負けるかも?」
「なんたって凛音さんは過去に特科の生徒を倒した事もあるぐらいの実力だからね~、いや~さすがの九重さんと言えど中々勝つのは厳しいんじゃないかな~」
影葉によると、凛音は基本的に決闘を申し込まれた場合は断らない性格の為、度々、学園内の強者達が凛音に挑んでくるようで、
その殆どに勝利を収めていたらしい。
対して紅は、そもそも特科の生徒なだけあって矢面に立つことなど、殆ど無く、実力不明のようだ。
辛うじてわかりうるのは柏木程度なら軽くひねる程度の実力が有るという事だけで、それ以外の実績がないため、
会場全体の雰囲気としては実力者の凛音に対して挑む新参者の紅という構図のようだ。
影葉も凛音が負けるとは全く思っていないようで、紅が負けることを少し望んでワクワクしているようにも見える。
「貴方、少し宜しいですか?」
後ろから肩を叩かれて、振り返ると、お淑やかな雰囲気の糸目の女の子がこちらを見つめていた。
髪はロングストレートの深い青色で、その表情からは無機質な印象を受ける。
アイオンが人間のようなロボットと言う印象ならば、彼女はロボットのような人間に感じる。
少し言い表しにくいが、何か僕にとっては近いようで違う印象を受けた。
「少しお話があって…、来て頂きたい所があるのですが構わないですか?…の前に」
突然、彼女は僕の襟を持って自分の顔の前に引き寄せる、体格差もあって、僕はつま先立ちになる。
そして、彼女は目が飛び出んばかりに瞳を大きく開き、両眼を持って僕の目を見つめる。
数秒そうして僕の目を覗き込んだ後、僕を掴む手を下ろし、何かに納得したかのような表情を浮かべる。
彼女は少し歪んだ僕の制服の襟の部分を丁寧に直すと
「では、行きますよ。着いてきてください。」
そう言って彼女は僕の手を掴んで、観客席の出口へと向かおうとする。
その手の掴む強さから、逃さないという意志を感じる。
僕は、諦めて彼女についていく事にした…。
「でね~平坂君!”凛音さんが特科の生徒を倒した時はね!…ってアレ?」
影葉は会場の熱気に呑まれて気づかなかったのか、真が完全にいなくなった後に不在に気づいたらしい…。
「も~、せっかく楽しいイベントだってのに。勿体ないなぁ…。」
「せっかく珍しく二人になる機会だったのに…。次からは気をつけよっと…。」
――――――
「華鈴様、ご指名の方を連れて参りました。」
僕は彼女の後を着いて5分ほど歩くと、とある部屋の扉の前に辿り着いた。
彼女はドアノックをした後、部屋の主に向かって要件を伝える。
「どうぞ、入っても構わなくてよ。」
そして、恐らく部屋の主と思われる人物から声が返ってくる。
その声からは自信と威厳を感じるような声で、口調からはその育ちの良さが伺える。
「失礼致します。」
そう言って、彼女が扉を押し開けると、部屋の奥の大きな机の向こうに誰かが座っていた。
椅子に腰掛け、足を組んでゆったりと背もたれに体を預けている。
そして、彼女はゆっくりと振り返り、射抜くような視線を僕に向ける。
腰までかかる美しい金髪と、獲物を狩るような威圧感のある金色の瞳。
彼女の瞳を見つめると、紅のそれとはまるで異なる圧倒的な力を感じる。
紅の瞳が吸い込まれそうになる美しさと捉えるならば、彼女の瞳はこちらに覆い被さって取り込むような強引な美しさの印象を受ける。
「始めまして、私の名前は二階堂華鈴と申しますわ。」
「そして貴方は、平坂真で間違いなくて?」
彼女はそう言いながら腕を組み、顎を手に乗せたままこちらに問いかける。
僕は首を前に振り、肯定の意を伝える。
「何故ここに連れてこられたのか、わからないと言った顔ね。」
「まぁ、率直に要件を伝えましょう。」
そう言って彼女は一呼吸置くと
「貴方、私の物になりなさい。」
彼女は僕に向かってそう告げた。
「返事は肯定であれば嬉しいけど、ダメかしら?」
返事も何も、突然呼び出されて私の物になれといわれても、困る。
具体的に彼女は何を求めているのか、それがわからないことには肯定も否定もすることは出来ない。
僕は彼女に何を求めているのかと問うてみる。
「簡単なことよ、貴方が紅との関わりを絶って、私の研究を手伝う。それだけの事ですわ。」
「当然、見返りとしては貴方が十分満足できるような物を提供することを誓いますわ。」
「そこの私の従者、沙耶を好きなように従えてもいいし、私の研究の産物である品々だったり、望むなら権力でも金でも構わないわ。」
「貴方を不自由させる事は無い。これは真実と言って差し支えないですわ。」
何故、彼女は僕と紅の関わりを断つことを望むのだろう。
仮に紅との関わりを絶たず、研究を手伝えと言われたら、見返りなく手伝っても構わないと思っているのだが…。
「その様子を見るに、私の望む答えは得られそうに無いですわね。」
彼女はそうなることが分かっていたかのように、さほど落ち込む様子もなく、言葉を紡ぐ。
「何故、私が紅の邪魔をするのか?」
「それは当然、紅が私を捨てたからに他なりませんわ!」
「私は紅を信用していましたのに!私より優秀な者を見つければすぐお払い箱に!」
「いずれ貴方も紅が貴方に興味を失った時、私と同じ様な目に会うのですから、この提案は善意でもありますわ。」
彼女の怒りを見るに、どうやら過去に紅との確執があったようだ。
僕は紅がその様な人間には見えていなかったため、少し違和感を感じる。が、紅の過去を詳しく知っているわけでもない。
本当にあったことなのかもしれない。
「で、これでもダメかしら?貴方にとってはメリットしか無い提案だと思うのだけれど…。」
仮に彼女の言葉が本当だとすると、彼女が起こる理由も尤もだろう。
しかし、僕はそれが真実であるかを確かめる方法は無い。
そして仮に彼女の提案を飲んだ所で現状、権力や金をそこまで望んでいるわけでもない。
紅との繋がりを絶ってまで欲しいものとは僕には思えなかった。
「そうですか…。では一つ賭けをしませんこと?」
彼女は僕の表情から説得を諦めて、新たな提案を持ち出す。
「今から始まる、凛音と紅の戦いで、凛音が勝った場合は、貴方が私の物になる。」
「負けた場合は…、そうですね。紅の過去を一つ教えましょう。いかがかしら?」
勝った時と負けた時のリターンがあまりに釣り合っていないような気がするが…。
「心配しなくても、紅が私の思う通りの人なら、勝つでしょう。」
「仮に紅が負けるとなると、紅に貴方が付き従う様な価値は無かっただけのこと。」
「これは殆ど私に分の悪い賭け。だからご褒美は多くてもいいでしょう?」
客観的に考えると、おかしいことはわかるのだが、僕は彼女の意見に納得してしまった。
あの紅が負ける未来が全く予想できない上に
仮に凛音に負けるようであれば、自分は紅に対して失望してしまう気がする。
そう思う自分自身に対して冷たい人間だと思う部分はあるが、
仮に彼女が負けて二階堂の物になるのも少し面白いかもしれないと思ってしまった。
「その顔は、肯定って事で構わないですわね。」
分の悪い賭けと言いながら、彼女は楽しそうな笑顔を浮かべている。
どうやら紅に対する感情は憎悪だけでは無いようで、ある種、紅への期待を内包しているように見える。
「では、試合が始まる前に観客席に出向くとしましょうか。」
彼女は椅子から立ち上がり、扉の方へ歩いて観客席へと向かう。
「沙耶、行きますわよ。」
二階堂は僕の後ろに立つ、沙耶と呼ばれる従者に指示を出す。
沙耶と呼ばれる彼女は先ほど同様に僕の手を掴み、部屋を出て、観客席へと足を運んだ…。
――――――
「如何かしら?やはり戦いというものは、特等席から楽しんで見るものですわ。」
「それも今回の剣闘士はあの紅と来たわけで、楽しみで仕方ないですわ。」
僕は、二階堂に連れられて恐らく特別な観客席に招かれていた。
フィールドが一望できるガラス張りの個室のような部屋に招かれている。
置かれたソファーに腰掛けるも、座り心地が良いことから安いものではないことが伺える。
提案の時に言われていたように、この部屋を確保できる辺り、二階堂の権力や財力は本当の事だということがわかる。
そろそろ試合開始のようだ。
僕は思い出したかのように右ポケットから紅に渡されたイヤホンを取り出して右耳に装着する。
「真、聞こえているか?」
耳に付けると直ぐにイヤホンから紅の声が聞こえる。
その声からは彼女の余裕さが伺える。その裏では彼女の勝敗で賭けが行われているとも知らず…。
とはいえ、仮に知っていたとしても対して様子が変わることは無いと思うが…。
そう考えながら、僕は彼女に聞こえていることを告げる。
「真、折角の戦いなわけだ、見世物を楽しめ。」
「過去には暴君が見世物として戦士を戦わせていたが、その主目的は何だと思う?」
「そう、娯楽だ。人間の本能には戦いを見て楽しむという本能がある。真も楽しみたまえ。」
彼女がそう言うと、試合開始の宣言が行われる。
今回も御堂がアナウンスコールを行っているようだ。
――――――
「やぁやぁ、凛音君。ご機嫌は如何かな?君は今から私に負けるというのに凛々しい顔を浮かべて、惚れてしまいそうだよ。」
試合開幕、紅は軽口を飛ばすも、凛音はそれを意にも介さず、紅に対して走って詰め寄る。短期決着をするつもりのようだ。
「おっと、聞く耳も持たないか。折角の試合を楽しむという風情が君には無いんだね。」
そう言って紅は武器を構える前に地面に向かって何かを投げ、凄まじい煙が両者の間を取り囲む。
恐らくスモークグレネードでも投げたのだろう。
「よし真、では早速レクチャーを始める。基本的に最初はまず距離を取るんだ。残念ながら真の能力では最初から近接戦に持ち込むことには適していない。」
「とにかく、距離を取って様子を見る。戦いはまず観察から始まるんだ。勿論事前に下調べすることも大事だが、必ずしも下調べが出来る相手ばかりが来るとは限らない。」
「むしろ基本的には相手は下調べが出来ないように情報を隠したり、あえて嘘の情報を流したりさえすることを念頭に置くことが大切だ。」
そう言って紅は凛音からかなりの距離を取った後、立ち止まる。
「次は、真のアドバンテージについて説明しよう。それはこの特製のE.R.A.Dだ。一般的なE.R.A.Dを特化型と表現するならば、このE.R.A.Dは汎用型だ。」
「本来E.R.A.Dは刀のE.R.A.Dであれば刀の機能しか使用する事は出来ないが、このE.R.A.Dは出力を犠牲に様々な武器として用いることが出来る。」
「つまり臨機応変に戦うことが可能というわけだ。逆説的に言えば、臨機応変に戦わなければ、はっきり言って役に立たない。」
「しかし真、なんにせよ君にはこれといったE.R.A.Dの適性がない以上、この戦い方以外に方法もあるまい。」
「まぁ、幸いにも私が似たような適性ゆえ、こうやって真にレクチャーできるという訳だ。」
「では、早速実践編と行こう!」
そう言って紅は持っていた直剣のE.R.A.Dを弓の形に変える。
紅は矢もないまま弓の弦を引くと、紅の弓を引く手に青い光の矢がどこからともなく現れる。
そして、弓を引き絞り、凛音の方めがけて矢を射る。
凛音は少し驚いた様子で、回避行動を行う。
「貴方、そういった物も使えるのですね。私に臆病者という割に、臆病者の使う武器がお気に入りのようですね?」
凛音は皮肉を込めた言葉を紅に投げる。
「ああ、私は臆病者だよ。君と違って武人では無いのでね。戦いから逃げることに何の恥じらいもない。」
「可哀想な凛音君。君はその臆病者に負けてしまうのだよ。ああ、可哀想に。」
明らかに挑発の意図を含んだ紅の言葉に、凛音の動きが俊敏になる。
その反面、紅は向かい来る凛音から逃げる足取りは、軽やかでこの状況を楽しんでいるかのようだ。
「いいか真。言葉を交わせる相手には挑発的な言葉を投げかけるのが有効だ。」
「殆どの人間は怒れば怒るほど動きが散漫、または単調になる傾向がある。」
「心理戦を侮るなかれ。出来る事は可能な限り行い、勝率を上げる事が、現状真が目指すべきスタイルと言える。」
紅はそう言って、再度地面に向かってスモークグレネードを投げる。
そうして、再度凛音と距離を取る。凛音も凛音で不用意に煙の中を追うことはしない。
視界不良のまま無理をして紅を追った時のリスクも計算して冷静に立ち回っているようだ。
その冷静さを欠かさない様子は、彼女が数多の相手と戦ってきた経験を感じさせる。
紅は距離を取ると、再び弓を弾き絞り、追従してくる凛音に向かって矢を放つ。
当然凛音は矢に対して回避行動をとり、難を逃れる。
そのように紅は、距離を取って弓矢を打ち、近づかれては、また逃げてを繰り返す。
「真、不思議だろう。なぜ当たらない攻撃であっても続けるのか。」
「その一つは体力だ。戦いにおいて追われる側より追う側の方が圧倒的に体力を使う。」
「凛音においては基礎体力が私より遥かに上であるから、現状さほど疲れていないように見えるが、少なからずとも効果はある。」
「また、もう一つの狙いは戦いが単調であることによる挑発だ。私は今ひたすら逃げる事で凛音が痺れを切らすことを待っている。」
「ほら、どうやらそろそろのようだぞ。」
突如、今まで紅を追っていた凛音の動きが止まった。
「臆病者の九重さん、貴方ちゃんと戦う気はあるのですか?」
「はぁ…。可能な限り剣技のみで貴方を倒そうと思いましたが、どうやらそうもいかないようですね。」
「では、私のC.O.R.Eを以てして、早々に退場して頂きます。」
そう言って凛音は右手のレイピアに力を集中させる。彼女の周囲には冷気が現出し、彼女の周囲に氷を纏う竜巻が発生する。
「真、勝負はここだ。」
紅はそう言って右手に直剣、左手に盾のE.R.A.Dを現出させる。
次の瞬間、凛音は恐るべき速度で紅の顔前まで詰め寄る。
「食らいなさい!」
「Cryo-Stich durchbohrt das Herz. 貫け、氷の一閃!」
凛音は右手のレイピアに込めた氷の力を、紅に対して目いっぱい放出する。
紅はその攻撃を左手の盾で受け止めようとするが、勢いを殺しきれずに後方に吹っ飛ぶ。
が、紅は即時立て直し、凛音の方に駆ける。
今まで紅側から距離を詰めることが無かった経験から、
詰めて来ることは無いだろうと高を括って、油断していた凛音は、紅が懐に入る事を許してしまう。
「やぁ、凛音君。お見事だね。」
「なっ!?…。」
凛音が驚く声を上げると同時に、彼女の持つレイピアをその直剣で弾き飛ばす。
「どうかな?凛音君、楽しめ…」
紅が喋りかけると同時に凛音が左手の盾を使って凄まじい速度で紅に殴りかかる。
流石の紅もこれは予測していなかったようで、左手の盾でガードするも、体勢がよろける。
凛音はすかさずガラ空きの顔目掛けて右ストレートを打ち込むも、咄嗟の判断で、紅が右腕で顔を防御する。
しかし、その右腕もあれほどの威力のパンチでは無事ではないだろう。
その証拠に、紅は右腕をだらんとした様子で降ろしている。
「やはり大した事無い…、貴方、詰めが甘い様ですね。」
「私がレイピアのみに長けているとお思いであれば大間違いです。どうですか?臆病者の九重さん。」
そう言う凛音はどこか得意げそうな顔をしている。
「身に沁みたよ、すまない。君を少し侮っていたようだ。」
その時、紅の瞳はいつもの黒色から、静かに燃え上がる炎のような、紅色の瞳に変わる。
そして、紅はいつの間にか左手で凛音の首を掴んでいた。
「来た、来たわね!私の紅!」
僕の横で観戦している二階堂は凛音のピンチにかかわらず、紅の様子が変わった事を楽しげに見ている。
その姿はもはや紅を応援しているかのようにすら思える。
「え?」
凛音の驚きの声と共に、紅が首を掴んだまま今までの戦いの比にならない速度でフィールドの端を目掛けて走り出す。
「少し痛いが我慢してくれ、これは君への誠意だ。そして、これからよろしく頼むよ。」
凛音は必死に紅の手から逃れようともがいているが、それは叶わない。
直後、凄まじい轟音が響き、実習棟の建物が激しく揺れた。
紅が凛音を壁に叩きつけた瞬間、音はまるで地鳴りのように広がり、周囲の空気が一瞬で変わった。
震える地面、粉塵が舞い上がり、瓦礫が弾け飛んでいく。
一体どれほどの力を込めれば、このような事が起こるのか想像もつかない。
つい先程まで熱狂していた観客も、今の惨状に目を見開き、息を呑んでその光景を見守っている。
粉塵が収まって、二人の姿が鮮明に見えるようになった時、紅が左手に掴んだまま、フィールドの壁に叩きつけられた凛音の様子は、完全に意識を失っている。
紅の勝利と言えるだろう。
――――――
「そう!そうよ!私の紅は凛音如きに負けるような雑魚では無いのよ!」
自身が賭けに負けたにも関わらず、僕の横でヒートアップする二階堂は今までのお嬢様然とした態度を崩し
純粋に戦いを楽しむ子どものように振る舞っていた。
僕はその様子を見つめていると
「あ、いや、違うわよ。凛音が負けて悔しいわ。とってもよ、とっても。」
先程までの熱狂を取り繕うかのように大人しい佇まいになってしまった。
やはり、彼女が紅に対して抱く感情は憎悪だけでなく、愛憎絡んだものなのだろう。
「そうね、約束通り貴方には紅の過去を一つ教えるとしましょう。」
彼女は真面目な佇まいで、こちらの目を見つめながら、僕に紅の過去をの過ちを僕に告げた。
「彼女は昔、その力を暴走させて数多の人の命を奪っているわ。」
「その時彼女が何を思って人の命を奪ったのかはわからないけれど、彼女は少なくとも潔白な人間では無いわよ。」
その言葉を聞いた僕は、何故か頭に強烈な鈍痛を感じた。
特に彼女の過去に失望したというわけではない、嫌いになったわけでもない。
とは言え彼女の言う人の命を奪ったことは事実であること間違いないと直感が告げている。
ただ違和感を感じるのだ。
「あと、私は気分がいいわ。沙耶、アレを持ってきなさい。」
「はい、華鈴様。」
そう言って沙耶が部屋を出て再度戻ってくると、華鈴に赤い腕輪のようなものを手渡す。
「この腕輪を貴方に渡すわ。私特製のE.R.A.Dよ、困った時に使いなさい。」
「使い方は簡単よ、腕につけて、いつも通りC.O.R.Eを使えばいいの。」
「でも貴方の場合困ったときにしか使えないと思うわ。」
「後、そのE.R.A.Dを誰かに公表する事はダメですわ。たとえ身内であっても。それでは…。」
そう言って彼女はその腕輪を僕に手渡し、軽やかな足でこの場を後にした…。