第9話 鬼の分裂
ここはシャモ平原、そして今日は4月7日。スライム鬼化事件より、二週間が経った日である。
対スライム戦闘部隊、第六小隊隊長のアナエルをはじめ、32人のエーテルバリアの使い手が交代でバリアを張り、鬼を閉じ込めている。一人がバリアを張っている間は他の三十一名は休養だ。まだシフトには余裕があり、休んでいる者は陽気にバーベキューなどして栄養の補給をしていた。
ここシャモ平原でも色々なテストがなされた。まずは鬼に対し、通常の兵器が通用するか、爆弾や銃、レーザー光線などが試された。結果は全て失敗だった。そのような通常兵器が全く効かないスライムが変化して生じた鬼なのだから、それは妥当な結果だった。また対スライム戦闘部隊の手練の者達を何人か連れてきて討伐を試みたが、それも失敗した。皆、ジョエルやヒュームのように失敗し、戦闘不能となり病院送りになった。ちなみにマリアは最後の切り札として温存された。
「シャラララ、シャララララー。」
のっぴきならない状況ではあるが、無駄に緊張していても始まらない。軍のジープについている音楽プレイヤーのボリュームを大きめにし、皆、心の緊張を溶かそうとしていた。
鬼は鬼でどうしているかと言うと、バリアを突き破ろうと常にトライしており、バリアを張っている者は気が抜けない。
(あと十分でシフト交代か。)
今バリアを張っている、第五小隊のジェイソン オットーが、そんなことをボヤッと考えていた、その時だった。鬼が急に光だしたのだ。
「な、なんだ?」
皆が鬼の方向を向いた。鬼は体の左右の中央の面、正中面でスパーッと二つに分かれた。それでも鬼は立っている。
「鬼が真っ二つになった!」
「鬼は死んだのか?」
などと言う者もいたが、それは希望的観測に過ぎないことがすぐにわかった。なんと真っ二つに割れた二つから、もう片方の体がニョキニョキと再生したのだ。最終的には二匹の鬼が出来上がり、鬼が放つ光は止んだ。
「やばいぞ、シフトの次の者、そして次の次の者、同時にバリアを展開するんだ!」
アナエルが叫んだ。二人の術者が同時にバリアを張る。同時にバリアに向かってタックルしてきた鬼は、そのダブルバリアに跳ね返された。
(鬼は分裂もできるのか?これは早期に解決しないと、鬼をバリアで封じ込められなくなるぞ。)
アナエルは冷や汗をかいた。