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第16話 鬼退治 シャモ平原にて

 今日は5月22日、ONI1阻害剤Kintaronibの大量合成が終わった次の日だ。いよいよ、ジェレミー、マリア、そして魔法熱素の妖精シャラァが軍用ヘリに乗り、シャモ平原の鬼退治に出かける日である。

 シャモ平原の地上では32人いるこの国の最高のエーテルバリアの使い手のうち十六人が同時にバリアを出し、十六体の鬼を封じている。

 バリアは大きな円柱状でその中に十六体がひとまとめに囲われている。その上は空いているのでそこからヘリで近づき、魔法元素エーテル、魔法熱素シャラァで構成したビームに、ONI1タンパク質阻害剤Kintaronibを混ぜ込み、それを鬼に照射し、鬼をスライム化しようと言うのである。それができてしまえば、後は地上の対スライム戦闘部隊が、スライムを掃討すると言う次第だ。


「いたいた、鬼だ。もう少し接近するぞ。」


 ヘリは鬼達の真上に到着した。


「良いわね?打ち合わせ通りやりましょう!」


 シャラァが掛け声をかけた。ジェレミーは鬼の真上で静止するようAIによる自動運転を設定した。


「いつでも、号令があれば、阻害剤を噴霧できるぜ。」


「魔法熱素シャラァをヘリの真下に展開!」


 シャラァがそう言うと、紫の雲がヘリコプターの下部に形成された。


「阻害剤、噴霧開始してください!マリアのエーテルもこの紫の雲の中に注いでください!」


 シャラァがそう言葉を続けると、ジェレミーは噴霧開始のボタンを押し、阻害剤をヘリの下部から噴霧した。それは紫の雲に受け止められていく。

 マリアは両腕からエーテルを発し、それを紫の雲の中に充満させた。


「ONI1阻害剤・エーテル・シャラァ合成砲、発射!」

 シャラァがそう叫ぶと、ONI1阻害剤・エーテル・シャラァ合成砲が放たれた!それは鬼達の10メートルほどの上空で16本に分かれ16体の鬼それぞれに作用し始める。


「グッ!」


 マリアに強烈な負荷がかかる。魔法元素エーテルと魔法熱素シャラァを混ぜ込むには、相当なエーテル消費が必要なのだ。

 鬼に阻害剤を投与を始めて2分が経った。鬼は動きを止めているが、まだスライムには戻っていない。だが、マリアの中のエーテルは枯渇寸前まで減少した。


「マリア、もうエーテルの放出を止めるんだ!君の体がもたない!」


「いやよ!ジェレミー、あなた達の研究がついに鬼を倒すのよ。絶対にやめないわ。」


 ドスン、っと鈍い音がした。ジェレミーがマリアの背中にある秘孔をエーテルを纏った指で突いた。彼はシャラァにユークリッド聖域で分けてもらったエーテルを今は使えるのだった。マリアは眠りへと誘導され、エーテル放出を続ける事ができない。


「何をするのジェレミー?シャラァが言っていたでしょ、ある一人のエーテルがこの作戦には必要なのよ?」

 

 薄れゆく意識の中、マリアは言った。


「ごめんなさい。例外があるのよ、マリア。あなたとジェレミーはエーテルを共有している。だからこの世界でジェレミーだけは、あなたのエーテル放出を引き継ぐ事ができるの。」


 一旦、鬼への阻害剤投与を止めつつシャラァが言った。


「なんで、ごめんなさいって言うの、シャラァ?やだ、ジェレミー、あなた、危険なことをするつもりなのね?そんなの嫌だ。」

 

 いつも自分がピンチな時に限って、ジェレミーは生き生きとして自分を助けてくれる。だが時に、ジェレミーは大きな代償を払う。マリアは、彼女の世界がそんななのがたまらなく嫌なのだ。だが、そうこうするうちに、ついに彼女は、完全に眠りに誘導され、意識を失った。


「ごめんなさい、ジェレミー。私の魔法熱素が本調子でなくて、最初思っていたのより、少し効率が悪くなっちゃって。あなたの中にあるエーテルの量を考えると、50%くらいの確率で命に危険が出てしまうわ。それでも、あなたは、エーテル放出をますか?」


「もちろん。謝らないでよ、シャラァ。これしか方法がないんだから。さあ行くぞ!」


 ジェレミーはまず、AIにこの作戦が終わった後で、国防軍病院のヘリポートまでヘリを自動運転するように頼んだ。そして、ジェレミーはエーテルの放出を開始した。ONI1阻害剤は最後まで魔法熱素の雲の中に噴霧され、そしてシャラァの放出をした魔法熱素とジェレミーのエーテルと混ざり、鬼に降り注ぐ。


「グアッ、身体中が、張り裂けるように痛いな、エーテルをシャラァに混ぜるのは。マリア、こんなのを平然と耐えていたのか。すごい奴だよ。」


「私はできるだけのシャラァを集中させてここに込める!もう少し、耐えてジェレミー!」


「ヘッ、生きるか死ぬかフィフティフィフティーか。まさか、自分が生と死の重ね合わさった状態、量子力学で言えば、猫の状態になるなんてな!」


 太陽系にある地球では生きた状態と死んだ状態が重ね合わさった巨視的量子状態、及びそんな状態にあるような生命を比喩的に、シュレーディンガーの猫状態という事がある。偶然だが、惑星マジーでもそのような状態を猫の状態と言う科学上のスラングがあるのだった。


「生きて帰って、ネコちゃん!マリアが待っているのよ!」


 数十秒後、鬼はついにスライムへと姿を戻した!エーテルバリアを張っていた十六人の使い手達はバリアを止めた。対スライム戦闘部隊が十六体のスライムを取り囲みエーテルで一斉攻撃した。スライムはあえなく絶命し、鬼化したスライムの掃討は成功した。


「やったわ、ジェレミー!作戦成功よ!」


 魔法熱素の放出に全神経を集中させていたシャラァがジェレミーの方を振り向き、叫んだ。返事は無かった。


『作戦の成功を確認。国防軍病院へ直行します』


 無機質なAIの音声が、そう言うと、ヘリコプターは病院へ自動運転を始めた。

 


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