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第14話 ユークリッド聖域にて 後編

『二つの太陽が、生まれし月が上に出会い、そして音が奏でられる時、古の熱の力、その眠りより甦らん。』


 次の日、4月26日の朝から、ジェレミーとマリアはユークリッド聖域の四つの城を調べ始めた。三つの城に囲まれた、真ん中にある城の最上階の薄暗い小部屋の壁の上の方にこれが書かれているのをジェレミー達は発見したのだった。

 

「古の熱の力ってシャラァの事じゃないかしら、触媒になりうる魔法熱素に関係する精霊だとしたら、化学反応の障壁になるエネルギーをコントロールできる。それを抽象的に熱の力と言っている可能性があるんじゃないかしら?」


「なるほどね。それを仮定するのも面白そうだね。二つの太陽はどうする?」


「何か光源でもあるのかしらね。光が入ってくる窓は二つあるけど。」


「こっちの窓の外からはちょうど他の城が見えるぜ。あれは、ベアタの城だったはず。」


「こっちの窓からはソフィアの城が見えるわ。」


「光は直進するんだから、ベアタの城とソフィアの城に仕掛けがあって光をこっちに導く仕組みがあるんじゃないかな?」


 二人はまずベアタの城に行ってみた。最上階の部屋にはバルコニーがあった。ここが先ほど中央の塔から見えた場所だった。ここに一つのミラーらしきものがあった。


「このミラーに太陽の光を反射させて中央の塔のあの小部屋まで導けばいいんじゃないかな。今日に日付からして、そうだな、この角度だと正午に反射光があの窓から入ってくるはずだ。後でソフィアの城のミラーも角度を同様に調節しよう。」


「太陽の部分は、これでオッケーなのかしら?」


「それはどうだろう?この角度だと、中央の塔の部屋のでこぼこした壁に光が当たる。一方、その壁の向かい側の壁はスクリーンみたいになっていた。太陽の光が出会うならそっちの方の壁で出会うと言うのが自然な気がする。」


「と言うと、もう一回光を反射させる鏡があるのかしら?」


「そうかもね。ベアタの城とソフィアの城をちょっと探してみよう。」


 二人は太陽のように丸い鏡を探してみた。するとベアタの寝室に一つ、ソフィアの寝室にもう一つの同じ丸い置き鏡があった。この鏡自体は普通の鏡に思えたがそれを置く台は特徴的だった。鏡が鏡の面と垂直な軸を回転軸にして回転可能なのだった。


「この鏡を1から12までの数字の書かれた時計と見立てると、上の位置にくる数字が自由の選べるような構造ね。鏡だから数字は無いけど。」


 そうマリアが言った。


「いや、あるのかもしれないぜ。少し暗い場所に行こう。そして懐中電灯で光を反射させて見ようぜ。」


 二人はそうしてみた。


「反射光には、あたかも時計のように1から12までの数字が浮かび上がってる!」


「そうだね。この鏡は魔鏡というわけだ。」


「思ってたんだけど、やっぱり、1から12までの数字がキーワードになっているのね。私達の言語でもその基となった古代語のテール語でも月というのが空にある月だけじゃなくカレンダーの月も指すわけだけど、中央の城で見かけた『生まれし月』っていうのは誕生月の事を指すのかしらね?」


「そうだとするとベアタとソフィアの誕生月を調べるといいのかな?」


「それからマルガレータの手記にバッチリ書いてあったわよね。本当なら今日は姉の誕生日パーティーの日なのに、みたいな事が書いてあるページがあったと思うわ。現代語に翻訳したのを電子書籍化したものを携帯に落としてあるから、調べるわ。。。あった。ベアタが4月でソフィアが9月生まれよ。」


 今は朝の11時で、ベアタの城とソフィアの城のバルコニーからの反射光が中央の城の部屋に入ってくる正午まであと一時間ある。とりあえず、ジェレミーとマリアは二つの魔境を中央の城の最上部の小部屋まで運んだ。そしてベアタの城とソフィアの城の反射鏡から来る光を魔境で反射して、この部屋にあるスクリーンに投影できるように、それらを配置した。魔鏡による反射光の角度の微調整は後で行う。


「後は、音を奏でれば良いのね。楽器が必要ね。」


「マルガレータの手記によると、女王、ベアタ、ソフィア、そしてマルガレータの四人はサックスでよく四重奏をしてたらしい。ベアタのパートはテナーサックス、ソフィアのパートはアルトサックスだったらしい。」


「マルガレータの城の中に楽器があるのかしらね?」


 マルガレータの城の中には確かに楽器室があった。様々な楽器が一つづつあって、その中にテナーサックスとアルトサックスがあった。


「ちょうど私達が、士官学校で練習したことのある楽器で良かったわね。」


「そうだねぇ。楽器を持って中央の城の部屋まで行こう。そこで正午を待とう。」


 大体正午になると、中央の城の部屋にベアタの城の反射鏡で反射された光、ソフィアの城の反射鏡で反射された光がスポットライトの光のように入ってきた。小部屋の中には、二つのスポットができている。ジェレミーとマリアは、それを二つの回転可能な魔鏡でもう一度部屋の中で反射させた。ベアタの魔鏡は4の文字が上になるように、ソフィアの魔鏡は9の文字が上になるようにして、そして二つの反射光のスポットが重なるように、スクリーン状になっている壁に投影した。

 すると、魔法元素エーテルと光が二人には感じられた。二人の目の前には、仮想現実、つまりヴァーチャルリアリティのように、空中に楽譜が現れた。テナーサックスとアルトサックスで吹ける楽曲だ。

 

「1、2、1、2、3!」


 マリアはテナーサックスを、ジェレミーはアルトサックスを吹いた。何度かやり直ししたが、1分ほどの短い曲を二人は最後まで吹いた。

 すると仮想現実は次のステージへと進んだ。いや、今度はヴァーチャルリアリティというよりは、蛍のように生き物が自ら発しているような幾つもの光の球が部屋の中で宙に浮かんでいるのが見える。赤、緑、黄色の幾つものピンポン球くらいの大きさのそれらの球は空中で一つになり、一瞬一層眩しくなった。

 眩い光が止んだ時、そこには羽根の生えた手のひらサイズの妖精がいた。


「ふぁぁ、よく寝た。私の眠りを覚ましたのは誰かしら?ベアタとソフィアなの?」


「いや、マリアとジェレミーなんだな、それが。」


「って、誰よアンタ!乙女の寝起きをジロジロみないでくださる?」


「申し訳ない。あなたがシャラァですか?」


 初対面なので、ジェレミーは仕事モードに切り替えて丁寧にした。


「シャラァでいいわよ。シャラァで。私は妖精、そして魔法熱素シャラァを司る妖精。」


 ジェレミーは事情を説明した。


「ふーん、鬼が現れて、鬼退治に私の力が必要になって遥々ここまでやってきたと。」


「力を貸してもらえないでしょうか?」


「うーん、私を封印する前の女王との話によると、私と再契約する第一候補の二人は、やっぱりベアタとソフィアの二人だったのよね。エーテル移植をした二人なら無効化できる聖域のバリアを通って二人がやってくる。そして魔鏡の謎を解き、音楽を昔のように弾く。そこまで一緒にできるなら、流石に仲直りしたと判断できる。それが女王の第一の考えだった。」


「その考えからすると、俺たちは女王の遺志に沿わないってわけだね。」


「そうね。でも、女王には第二の考えもあって、それはマルガレータ、つまり私の前の相棒の事を想っての考え。それによると、ほぼあり得ないと予想していたけど、ここに来て私を起こすのはテール人でも良いという事だった。マルガレータはあなた達の祖先、この星の古代人であるテール人のグレゴリーを愛し、他のテール人とも分け隔てなく接した。マルガレータ達、オートル人の方がずっと魔法力も科学力も高かったのにね。そして彼女は、テール人の子孫のことを想い、彼女の手記やタンパク質阻害剤事典を遺したのでしょう、恐らく。何らかの役に立つかもしれなかったから。だから、あなた達がマルガレータの意思を注ぐ者として契約するのは、女王の意思に反しないわ。」


「あなたの迷惑にはならないかな?」


「私もそれでもいいわ。私のパートナーはマルガレータだったんだしね。私と契約すれば、魔法熱素シャラァがあなた達のために使えるようになって、マルガレータの遺した阻害剤辞典に載っているいくつかの化合物は合成できるようになるはずよ。」


「契約って具体的には何が起こるんだい?」


「あなた達二人と私が相棒になるのよ!相互に助け合いをする事になる。」


「俺たちには鬼の問題が目の前にあるわけだけど、君は具体的にはどんな助けが必要になるんだい?」


「例えば契約すると、私はお腹が空くようになるわ。だからご飯を用意してもらったりとか。あなた達を危険に巻き込む案件は今の所はないわ。」


「俺ら三人でアパート暮らしになるけど、良いのかい?」


「私は、それなりに、わきまえあるわよ。二人の夜を覗いたりとかはしないわ。」


シャラァは言った。


「マリアは?」


「私は契約したい。鬼を倒せないままだと、おそらく私達の国は滅んでしまうわ。」


 マリアはそう言った。そんなマリアの顔をシャラァは覗き込む。


「ふーん。あなた達、かなり危険なエーテル移植をしたのね。ジェレミーに元々あったエーテルの99%をマリアの中から感じるわ。マリア、これはおそらくだけど、あなたはジェレミーのキャパシティや力を得て楽しい事ばかりではなかったはずよ。私の協力を得れば鬼の問題は解決できるかもしれないけど、辛いこともいっぱいあると思うわよ?本当にいいの?」


「良いわよ。もう覚悟はできているわ。ジェレミーと生きて、大変なことがいくつもあっても、足掻いてみたいの、私は。ジェレミーがいいっていう限りはだけど。」


「俺もだよ。」


「そう、では同じ質問はもう聞かないわ。契約を開始しましょう!我は魔法熱素の精霊シャラァ!神々の名の下にジェレミーそしてマリアとここに盟友の契約を結ばん!」


 光が放たれると、ジェレミーとマリアはシャラァと不思議な一体感を感じるようになった。契約が終了したのだ。


「あと私、封印で休んでいる間に、持ち主のいないエーテルを少しばかり得たの。ジェレミー、これはあなたにあげる。」


 シャラァがそう言うと、ジェレミーにエーテルが注がれた。これは持ち主のいないエーテルなのでエーテル移植とは違う術式だ。

 ジェレミーからマリアへのエーテル移植が起きる前は、ジェレミー100に対し、マリアが30だったのが、エーテル移植後はジェレミー1に対しマリアが129だった。今はジェレミーが30でマリアが129という感じだ。


「やったわ、ジェレミー!これであなたの活躍の場も広がるわね!私達の共同任務も増えたりして!」


(あらあら、マリアったらもう浮かれちゃって。覚悟が揺るぎないのはいいけど、少し楽観的すぎるかもね。)


 シャラァは、はしゃぐマリアを見て思った。


「さあ、みんなで帰ろう!鬼をスライムに戻す薬を作らないとな!」


「オーッ!」


 ジェレミーの掛け声に、マリアとシャラァが呼応した。


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