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そうだ、田舎に帰ろう

自身初の作品です、いろんな作品をパロってますが、どうか生暖かい目で見てください。

文章が下手なので、次の投稿までかなり間が開いてしまうと思いますが、どうか完結まで頑張ります。

 剣と魔法の世界『アイリーフェルテ』、その大国の一つ、王都『ファストペイジ』のとある冒険者ギルド、そこには屈強な冒険者たちが集い、依頼の受注や狩ってきた魔物の売買、仲間達との談笑など多くの喧騒であふれていた。


一人の男性職員が呼ぶ「ノール!こっちの運搬手伝ってくれ!」

別の受付嬢が呼ぶ「ノールさん!この報告書の件で相談が・・・」

更に別の屈強な解体作業員が呼ぶ「ノール!大物が入った解体手伝ってくれ!」


 冒険者ギルド『冒険者の(ともしび)』の職員達が口々に一人の人物の名を呼んでいた。

 声の先には冒険者と見間違うほどの屈強な体の男性職員がいた。

 2mはある背丈の男は支給されたギルド制服がはちきれんばかりの筋肉と鋭い目つき、彼こそ、この物語の主人公『ノール』35歳である。

 しかし、


「おい見ろよ、あいつがこのギルド名物の無能野郎だぜ」


「マジかよ、どう見てもおっさんだろ?あの年で無能なのか?ギルドの足手まといだろ」


「俺たちに迷惑かけないでくれよ」


 ヒソヒソと冒険者達の一団が、周囲に聞こえないよう、話している。

 しかしその内容はノールの耳に届いており、話している冒険者にノールが顔を向ける。

 目線が合った冒険者はサッと目を背け、手に持っていたエールをチビチビと飲み始める。


「気にするなノール、お前はこのギルドの大黒柱、お前がいなかったら俺が潰れる」


 声をかけたのは痩せ気味の、眼鏡をした栗毛が印象的な男性、ノールの同僚であり職員達をまとめるリーダー『サブリダ』35歳である。


「ありがとう、サブリダ、だけど俺は気にしてない」


 サブリダとノールが顔を見合わせると苦笑いをかわす。

 そんな二人に一人の女性職員が近づいてくる。


「あの~、ノールさん、ギルド長がお呼びです」


 女性職員はどこか申し訳なさそうに話してくる。

 ノール本人は引きつった笑みに不安を浮かべ、それとは対象にサブリダは目を輝かしていた。


「ついに来たんじゃないか!?日々の功績が認められ、副ギルド長への昇進!実際お前はリーダーの俺より優秀だからな」

「茶化すな、・・・正直不安しかない」


 ノールは祝福するサブリダの声を背に、ギルド長室へ向かう。

 扉を前に一つ深呼吸をして、ギルド長室の扉をノックする。


「入りたまえ、来たかね〈無能〉のノール君?」

「何のようでしょうか?ギルド長『プロミネ・エリーシェン』様?」


 椅子にふんぞり返り、豪華な机の上に足を組んでいるこの赤髪の男こそ、現ギルド長プロミネ・エリーシェン32歳、前ギルド長の一人息子である。

 前ギルド長は人望厚く、ギルド職員、冒険者ともに慕われていたが、それとは対照的に息子である彼は権力を傘に弱い立場の人物をこき使い、ギルド内でやりたい放題である。

 そしてその最たる被害者がノールであり、仕事の押しつけは当たり前、そのくせ、仕事の評価や給与を差し引かれ、パワハラは日常茶飯事、他のギルド職員もそのことは気にしているが、相手がギルド長であり、逆らうことができなかった。


「今日は君に重大な話があるのだよ、君のこれからに関わる重大な話だ」

「もし昇進の話なら、すみませんが辞退します。それより机の上にある承認待ちの報告書に判を押していただければ、現場が早く回りますので」


 ギルド長の話を待たず、淡々と仕事の話を進めるノール、ギルド長と面と向かって堂々と進言するノールを見た為か、ギルド長エリーシェンは手で顔を隠し、肩を震わせている。


「プッ!アーッハッハッハッハッハ!昇進!?誰が?お前が!?昇進だってさ!身の程知らずがまさか昇進できると思ってんのぉ?アーッハッハッハッハッハ!イヤァ傑作!まさに無能の考えだよねぇ、そんで俺に命令してやんの!ほーんとむかくよなぁ!?」


 高笑いを始めたと思いきや、最後には怒気を孕みながらノールを睨みつけた。

 ギルド長の機嫌が急に変わる姿を見慣れているノールは呆れ半分にギルド長を見ていた。


「ああ、笑った笑った、はいこれ「解雇通知書」お前、明日から、いや今からギルド出ていけ」


 ノールはギルド長から解雇通知書を渡されたが、言われた言葉を飲み込めず混乱していた。

 考えもしなかった内容に、足元がぐらつく感覚さえしていた。


「な、なぜですか?私が解雇なんて」


 衝撃的な内容に頭が追い付かないが、どうにか言葉を紡ぎ質問を投げかける。


「いや、お前このギルドのお荷物だろ?仕事が遅いせいでギルドに夜遅くまで仕事して、自分の担当だけじゃなく、周りの職員にまでこき使われて、突然ギルドからいなくなったと思えば書庫でサボったり、挙句の果てにはギルドから抜け出してダンジョンに行っている始末」

「いやそれは全部仕事で、それもギルド長が仕事を・・・」

「言い訳は聞きたくないよ?それに君も知っているだろう?自分が周りに何と言われているか?そうだよね?〈無能〉のノール君?」


 ノールはギルド長の挑発的な言動を聞き、怒りが頭を支配していたが、拳を強く握り冷静になろうと、落ち着けと頭の中で反芻する。


「いいんですね?本当に後悔しませんか?」

「なんだね?言い訳の次は同情狙いかね?正直君を雇う金がもったいないと思っていたんだ。君の代わりはいくらでもいる。話は以上だ。とっとと()()ギルドから出ていきたまへ。最後の情けに退職金は出してやろう、ごくろうさん」


 そう吐き捨てたギルド長は手を払う仕草でノールに退室を促す。

 怒りで力んでいるノールは乱暴に部屋のドアを閉め出ていく。

 様子のおかしいノールに気づき慌ててサブリダが近づいていく。


「お、おいおいどうした?ギルド長に何か言われたのか?っておい!なんで荷物を片付けているんだ?まだ仕事始まったばかりだぞ!?」

「すまないサブリダ、俺はここ20年間ギルドに尽くしてきたつもりだ」

「ああ、それはここにいるギルド職員全員が知っている。お前がいなければここはとっくに終わりだ」

「だがすまない、俺は今さっき、ギルド長から解雇通知を言い渡された」

「はぁ?・・・ハァーーーーーー!?いや待て!なんの冗談だ?解雇通知!?」

「俺も正直信じられない」


 ノールはギルド長から渡された解雇通知書をサブリダに見せる。そこにはありノールのもしない職場での悪事がつづられており、どちらかと言えば、それらはギルド長が行っていた所業であった。

 更にそこに最終決定の判を押していたのはギルドに資金援助していた上位貴族のものであった。


「マジかよ…あのギルド長、お前が気に入らないからってここまでのことを…」

「と言うことで、俺は実家にでも帰らせてもらう」

「おい待ってくれ、今日は()()()()じゃないのか?」

「ああ、()()()()だ、だが、俺の代わりはいくらでもいるらしい、それにあいつもさすがに対応できるだろう?」

「いや…さすがに」

「俺はもう疲れた、幸い貯金は有り余っている、実家の農業でも次いで田舎で隠居するよ」

「お前まだ35歳の独身だろ?田舎で隠居には早すぎるだろ?こっちで再就職目指そうぜ?」

「いや、あのギルド長の事だ、裏から手を回してここいらの店に俺の悪評を流して再就職できないようにしているだろう」

「・・・確かにやりそうだな、いいや、それにお前を慕っている職員や一部の冒険者はどう説明すればいいんだよ」

「すまないがサブリダ、ほかのみんなへの説明を頼まれてくれるか?」


 サブリダと話したことで、怒りが収まったノールの顔は何かが抜け落ちたように皺枯れて見えた。

 その顔を見たサブリダは、これ以上の説得は無駄だと思ったのか強くうなずき、荷物をまとめてギルドを出ていくノールを見送ったのであった。

 その後、ノールが出ていいたことを不審に思った他職員から、質問攻めにあうサブリダであった。


 ノールはギルドを出てすぐに住んでいたギルドの職員寮を引き払い、溜めていた金を貴金属に変え、冒険者装備を身にまとい、愛用の大剣を背負い、王都から出る最後の馬車へ乗り込んだ。


 すでに日が沈み始め、徐々にオレンジ色に染まる空と王都を眺めながら、ノールは王都で暮らしていた二十数年間を振り返る。

 辛い事もあったが、それでも多くの良き人達と出会い、満足いく生活でもあったことに感謝し、過去を断ち切るように馬車が進む方へ向き直った。


------ 一方ノールが出て数時間後のギルド ------


「やっとあの憎きノールを追い出すことができた!ここまで来るのに、貴族にまで利用してやっと実現できた。これでこのギルドは俺の物だ!俺の思いのままだ!アーッハッハッハッハッハ!」


 ギルド長、プロミネ・エリーシェンは上機嫌でギルド長室を出る。

 すると受付の方から何やら揉めている声に気づく。


「おい!・・・・って・・・・どう・・・・」

「いえ・・・ですから・・・で・・・・」

「こっち・・・・出せ・・・・」


 厄介ごとだと早々に感づいたギルド長エリーシェンは、仲裁に向かう。

 しかしそれは権力を傘にした脅しのようなものであり、自分が出ていけばなんでも思い道理になるという、浅はかな考えの行動である。


「いったい何事ですか?ギルド内のもめ事は・・・」


 エリーシェンは受付、いやギルド内の状況を見て固まった。

 いつもギルド内には冒険者が多いが、エリーシェンの目に映ったのはギルド内を埋め尽くすほどの冒険者たちの群れであった。


「なんだねこれは!?」

「ギルド長!今すぐ応援に入ってください。職員の手が足りません!」


 ギルド長を見つけたサブリダが声をかける。


「何を言っている!いつも対処出来ているだろう?それとも君たち職員が何か不手際を起こしたんじゃないかね?」

「何を言っているはこっちのセリフですよ!いつもこの時間は冒険者たちが大勢押し寄せてくるんですよ!それをうまく捌けていたのはノールがいたおかげです」

「なぜあの無能の名前がここで出てくる?言い訳も程々にしたまえ!」


 ギルド内は混沌としていた。冒険者の依頼の受付や報告、素材の鑑定・買取・解体、依頼内容の精査や受注、冒険者へ適切な依頼や買取を行うため、ギルド職員は日夜働いていた。

 冒険者の灯は王都最大のギルドであり、登録している冒険者・舞い込む依頼の数が膨大であり、解体場に運ばれる魔物も通常の個体から、珍しい魔物、特殊な魔物と多岐にわたり運ばれる。

 ギルドの職員はそのすべての対応に追われる。


「誰か!この依頼内容の確認頼む!あとこっちの素材鑑定も!」

「おい!新種の魔物が運ばれてるぞ!解体!誰か解体を!!」

「無茶言うな!下手に傷でもつけたら依頼人が激怒するわ!ノールさん!お願いしまーす!」

「バッカ!ノールさんいないんだぞ!そっちは後回しにしてこっちの依頼、必要な冒険者ランク査定してくれ!」

「ああ、ノールさん!なんで実家に帰っちゃうんですか~!せめてこの魔物の情報だけでも残していってくださいよ~!」

「嘆いている暇あったら、書庫の魔物図鑑で調べろ!クッソー!ノールさんさえいてくれれば!」


 ギルド職員たちが口をそろえ、ノールの名を呼んでいる。

 ノールはギルドで働いている際、どんな仕事も出来るようにほぼ全ての作業を一人でこなせるようになり、他の職員のサポート・フォローを完璧に行っていた。

 その為、滞ることなく膨大な数の冒険者の対応をこなすことができていた。

 エリーシェンはギルド職員たちがノールの名前を連呼していることに怒りを覚え怒鳴り声を上げようとする。

 その直前、ギルドの入り口が勢いよく開かれる。


 冒険者やギルド職員がそちらへ向くと、身なりの良い甲冑を着た騎士たちがギルドに入り冒険者たちに道を開けろと命令をする。

 冒険者たちは何かを察し、ギルド内の左右に分かれ道ができる。

 そこへ赤いカーペットがまっすぐ伸び、その上を気品をまとった令嬢がゆっくりと一歩ずつ歩み進む。


「ご機嫌麗しゅう、本日仕事の契約を予約した「スカーレット・エリザベート」ですわ」


 美しく整ったボディーラインと顔立ち、男だけでなく女も見とれる彼女は王都でも5本の指に入る最上位貴族スカーレット家の公爵夫人スカーレット・エリザベート30歳、その人であった。


「これはこれは、スカーレット様、ご機嫌麗しゅう、ただいま担当の職員をお呼びいたします」

 すぐに営業スマイルを浮かべ、手をすり合わせて彼女に近寄るエリーシェン。


「おい、すぐにスカーレット様を応接室へ、それと飛び切りのお茶菓子を!くれぐれもスカーレット様のご機嫌を損ねないように!」


 スカーレットはギルド長秘書に案内され応接室へ移動する。

 そこへサブリダが引きつった顔でギルド長へ話しかける。


「いや、ギルド長?すみませんがスカーレット様に対応できる職員は今ギルド内にいません」

「はぁ?何を言っている、言い訳はいい、早くスカーレット様を・・・」

「さっきも申しましたが、何を言っているはこっちのセリフです!相手は貴族です!貴族相手の取引・契約は国家認定の公証人資格が必要なんですよ!?このギルド内にその資格を持っている職員は!今は!いません!」

「!?」


 【国家認定公証人】この国では、一般人が貴族を相手に契約を交わす際、国に認められた公証人が契約をまとめ、貴族と契約を結ぶ法律となっている。

 特に様々な条件の依頼を取り扱うギルドとの契約は、貴族とのわだかまりがないように入念な調査、情報・交渉が求められる。

 しかしこの国家認定公証人は王国が認めるだけの学力が必要となる。


「待て!なら、だれがこの予約を受けたのだ!?ギルドに公証人がいないなら、こんなのただの嫌がらせ・・・ハ!さてはノールだな!あの無能、解雇されたからと、こんな嫌がらせを!」

「はぁ・・・確かにこの予約を受けたのはノールですよ」

「やはり、あの男!」

「ノールが国家認定公証人の刺客を持っていたからスカーレット様の予約を受けたんです」

「!!??」


 エリーシェンは仰天した、無能と見下していた男が王都が認定した資格を有したことを。

 しかし、あのノールなら資格を有することもあり得ると心のどこかで認めていた。


「ならなぜ予約を中止にしなかった!?解雇してすぐなら角が立たずに取り消しにできただろう!」

「スカーレット様の依頼の契約は一か月より前から予約しておりました。今日になるまで、何度も事前の打ち合わせを行っており、今日中止にされたからと言って穏便に済ませられるわけありません!まさか今日ノールがいなくなるなんて、だれも思いませんでしたから」

「ふざけるな!それじゃあお前が責任もってスカーレット様に謝罪してこい!」

「はぁ、まだ気づきませんか?国家認定公証人以外に貴族と交渉できる人物が一人います」

「なにぃ?誰だ!?」

「あなたですよ、ギルド長、プロミネ・エリーシェン様?」

「どういうことだ?」


 ギルド長の頭の悪さに頭痛さえし始めたサブリダだが、自身も落ち着くため深呼吸をして話始める。


「私たち一般人が貴族と対する際は、国家認定公証人の刺客が必要になりますが、貴族同士の契約・交渉にはそれが必要ありません。そして私たちギルドの中で貴族なのはただ一人、ギルド長は”一応”貴族でしょう?」

「それは、ま、まさか、俺がスカーレット様と話し合いを?」

「そのまさかです。私たちはスカーレット様とお話しする資格さえないので」


 やっと事の重大さがわかったエリーシェンの顔をみるみる青ざめる。

 しかし、これはチャンスだと考えを変えた。

 スカーレット家と懇意になれば自分の地位がさらにゆるぎないものに、更に爵位を上げることにつながると。


「わかった!この私直々にスカーレット様をもてなそうではないか!」


 意気揚々とスカーレットが案内された応接室へ向かうエリーシェン、ドアをノックし腰を曲げ、手をこすり、媚びるような視線で、彼女の美貌をなめるように見る。

 この時、スカーレットが視線に気づき不快そうに眉をしかめた。


「お待たせしまして申し訳ありません、私が、このギルドの長をしております。プロミネ・エリーシェンでございます。スカーレット様におきましては、このような場所までご足労いただきまして大変光栄でございます」


 目上に対する態度や言葉遣いがたどたどしいエリーシェンだが、それもそのはず、彼は下の者はでかい態度だが、目上には媚びたくない為、自分より上の人物との接触を極力避けていた。

 ノールを解雇した通知書も、貴族と手紙でやり取りし、接触をせずにいた。


「ふむ、ギルド長直々の挨拶、感謝する」

「はい、それで今回はどのような依頼を?」

「ん?ノールはどうした?あやつに依頼は全て話しているはずだが?」

「ノール?あ~はい、そんな者もおりましたが、つい今朝方やめて、ここを出ていきました」

「ほう?」


 彼女は目を細める、それはエリーシェンを睨んでいるようであった。


「いやーいきなりの事でしたが、彼には解雇通知書が届きまして、スカーレット様に気付かれないように、奴はこのギルドで横暴な態度を取り、職員や冒険者に嫌われていたのです。私はそれを貴族の方々に告発し、それがきっかけでノールは解雇を言い渡されたのです」


 スカーレット様の視線に耐え切れず、自分が後ろ暗いことをしている自覚がある為、冷や汗をかきながら彼女の機嫌を取ろうと自分がいかに正しいことをしたか早口で説明する。


「ふむ、そうか・・・」


 彼女は後ろに控えていたお着きを手招きし、耳元で何やら伝えた。


「さて、依頼の件だが資料もなく最初から話すと長くなる、また日を改めて…」

「いえそれには及びません、おい!誰かおらんか!」


 エリーシェンはノールを嫌っているが、一緒に働いて長い、ノールなら重要な書類をどこに保管しているか把握していた。

 すぐに職員を呼び、その場所を教えると、スカーレットとの依頼内容が記載された資料を持ってきた。

 ノールの几帳面さにエリーシェンは静かにほくそ笑む。


「と、書類はここにあります」

「なら問題はないな」


 依頼内容は岩山に生息するロックシェルの貝殻の入手。

 ロックシェルは、その強固な殻に守られ、攻撃が乏しいため強い魔物ではない。

 冒険者ランクにすればDランクもあればこなせる依頼である。

 しかし岩山は険しく、奥に行くほど消耗が激い。

 更にそこに住む魔物は奥に行くほど凶暴で手強い。


「資料に記載されているが、ロックシェルの貝殻には豊富なミネラルや、美容効果が期待される成分が多く含まれております。私どもが経営する、スカーレット商会では次の商品開発として、冒険者ギルドに定期的な貝殻の入手を任せたいのです」


 スカーレット商会は多種多様な商品を扱い、主に女性をターゲットにした美業品が売り推しである。


「はぁ、しかしこの金額と必要数は・・・」

「この値段と個数ではご不満かしら?」

「はい!」


 予想していなかったエリーシェンの発言に驚くスカーレット。


「この金額はいささか多すぎかと、それにこの個数よりもっと多く入手して見せます!わがギルドにはそれだけの精鋭たる冒険者が揃っておりますので!」


 胸をはり言い切るエリーシェン、ここで自分の度量を見せることによりスカーレット家に好印象を持ってもらうと安易な考えで言い切った。


「では、どのくらいの金額で、どれほどの個数を用意できますか?」

「え?えっとですね?この金額の3分の2ほどで、個数はこの倍は用意して見せます!」


 当然何も確証もなくエリーシェンは言い張った、金は足りなくても懐(ギルド資金)から補えばよく、ロックシェルは雑魚の魔物、いくら倒してもよいと考えていた。

 今もっとも重要ことはスカーレット家に自分を売り込むことであると。


「あなた、本当にギルドの長?」


 冷たい言葉が室内に響く、先ほどのとは変わりスカーレット夫人は呆れたようにそう言い捨てた。

 エリーシェンを睨む彼女の目は呆れを孕んでいた。


「あ、あのスカーレットさま?」

「あのね?何のためにこうやって貴族とギルドが交渉してるかわかる?魔物に対して無知な私たちがギルドの知識と合わせて、お互いが納得できる取引をしようとしてるのよ?大体、ロックシェルの貝殻をこの個数にしている理由、あなたわかってるの?」

「え、いやロックシェルなどただの雑魚、これくらいすぐにでも用意を」

「はぁ、ロックシェルも岩山に住む生き物、そしてそこに住む他の生き物もロックシェルを捕食している。もしあなたが言った量を乱獲すれば、ロックシェルの数が激減し、更にその場所に住んでいる生き物たちの生態系を壊してしまう」

「いや相手は魔物ですよ?そんなお優しい考えは」

「ノールが言っていたわ、魔物も人間もこの世界で生きる一つの命であり、そこの生態系が変われば、いつ自分たちの住処に影響が出てくるかわからないと。昔の資料を持ってきて、詳しく生態系を壊すことの危険性を教えてくれたのよ?」


 過去には魔物の生態系が変わったことにより上位の魔物が近隣の村や町に被害を出した事件があった。


「なぜ、ギルドの長たるあなたがそんな浅はかなことを考えるの?」


 完全に呆れられ、憐れまれたエリーシェンは何も言えない、しかし馬鹿にされたと感じ怒りに拳を握りしめ、体を震わせていた。


「申し訳ないけど、今回の依頼は、無かったことにしてちょうだい」

「え?お、お待ちください!私の思慮が浅はかだったことは謝罪いたします!改めますのでどうかわがギルドにご依頼を!」

「いいえ、あなたが信用できないもの」

「へ?」

「あのね、いい?交渉をするときに一番大切なものは何?わかる?」

「えっと、それは・・・互いの、利益?」

「ちがうわ、それは信頼よ、この人なら任せられる、この人ならお金を出してもいい、そう思わせることよ」


 言い聞かせるようにスカーレットは話す。


「あなた、料金が3分の2でよい言ったわね?それは何を根拠にしたのかしら?」

「いや、あれだけ多大な金額で冒険者に依頼を出すなど・・・。」

「そういうところが信頼できないのよ」


 エリーシェンに指をさし指摘する。


「ノールと事前交渉をした際、個数だけでなく金銭基準についても話したわ、冒険者がどれほど危険を伴うか、どれだけの金額が必要か、あなたは何もわかってない、それでもギルド長なの!?」


 ロックシェル、その名の通り岩の貝である。

 当然その貝殻は多く、更に岩山からそれを持ち帰るときも苦労する。

 ギルド職員が依頼料を計算する際は、相場金額だけでなく、魔物の特徴、生息域、冒険者の必要とする道具などすべてを考慮される。

 ノールは図べ手を計算し、いつも貴族だけでなく依頼をこなす冒険者も満足いく金額を提案していた。


「申し訳ないけど、あなたのことを知っているの、おおかたノールがやめた理由はあなたでしょう?」

「な、なにを根拠に?」

「あら?〈無能のノール〉あなたが広めたんでしょ?わざわざ噂雀にお金を渡してまで」

「ぐっ!?」


 ノールへの嫌がらせの為、流させた悪評と〈無能〉というあだ名はエリーシェンがわざわざ金を積んでまで流した者であることをすでにスカーレットはつかんでいた。


「しかし予想外だったのが、まさか今日解雇通知を出すとは、もうすこし早ければ私が呼び留めたのに」


 心底落ち込んだスカーレットが肩を落とす。


「じゃあ私は帰らせていただくわ、依頼は別で頼むことにします」


 スカーレットは応接室から出ていくが、エリーシェンはノールが上位貴族に認められ、自分はけなされていることに我慢できず、怒りで思考が停止していた。


「ノォ”-------ルゥ”ーーーーーー!!!」


 エリーシェンの怒りに満ちた声は室内を揺らしたのであった。


チョット世界観設定

剣と魔法の世界『アイリーフェルテ』の成人年齢は12歳、ノールも12歳に田舎から王都へ上京。

そこから冒険者生活を2年ほど続け、ギルド長から目をかけてもらいその後20年間ほどギルド職員として働いていた。

その他、詳細はまた後の話。

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