閑話.過去と心に残るもの
A級冒険者というのは憧れられる存在だ。
俺は15歳から冒険者を始め、たった8年でその地位にまで到達した。
少々危ない場面もあったのだが、それでも大きな失敗はなく、その地位にまで辿り着いた。
そして、慢心し、傲慢な態度を取り続けた。
だからこそ、右腕を失った。
依頼を失敗し、右腕のないレオルドなど用済みなのだと言わんばかりに周りの人はいとも簡単に離れていった。
パーティーメンバーには「お前のせいで!」と、「散々我慢してやったのに!」と、今までの鬱憤を吐き出すように罵られ、依頼失敗の違約金を押し付けられてパーティーを追放された。
この時は、絶対に許さない。右腕を治して、泣きながら「パーティーに戻って下さい」と懇願させてやる。と怒りに震えていた。
だが、報酬のほとんどを酒や夜遊びに費やしていた俺には違約金さえまともに払えず、ギルドに借金をせざるを得なかった。
仕方なくソロでできる低ランクの依頼を熟していると、今までの行いの報いが返ってきたかのように嘲笑の的になった。その現実を受け入れられず、借金を重ねて治療に奔走した。
結局、最後に残ったものは、過去への後悔と多額の借金、奴隷として暮らす未来、そして、落伍者の烙印だった。
街を転々とした。
どこに行っても右腕のない俺は厄介者扱い、売れない穀潰しだった。愛玩奴隷ならと言われたこともあったが、なけなしのプライドが、A級冒険者だという矜持が、首を縦に振らせなかった。
そんな時に出会った。
そいつはどこまでも歪な印象を与える子供だった。
みすぼらしい野暮ったい服装をしているのに、目には光が宿り、髪には艶があり、肌はきめ細かく手も荒れていない。
自分に対して怯えた反応をしていたのに、値段も聞かずにレオルドの購入を即決する。
檻から出され、着替えさせられ、部屋へ案内されるとそこには、ソファに座り、上品に、優雅に、紅茶を飲む主人となる子供と金を数える奴隷商人がいた。
1000万リグ。それが自身の値段。
奴隷商を盥回しにされている間に借金が少し膨れ上がっている。それでもこの子供はこの金額を一括で支払った。
そのことに羞恥なのか怒りなのか、それとも羨望か。なんとも複雑な感情が沸き上がる。
そんな複雑な思いを抱くレオルドを裏切るような会話を、この子供と奴隷商人は繰り広げた。
その光景に御し易いと、もうしまいと思っていた考えが脳裏に浮かんでいたのだった。
だが、この子供に対する傲慢な考えはいとも簡単に覆されてしまった。
治したのだ。右腕を。
しかも、この目の前に座る子供はなんてことないという顔をして。
諦めきれずに藻掻いて、すべてを失って、諦めなければならない現実を突きつけられて。それでも、と何度も思った。
瞳が潤む。歓喜にだろうか、身体が震える。こんなにも心を震撼させる激情を今まで生きてきたが一度も感じたことがない。
心からの感謝を。この小さくもおおきな主人に。
寝返りをうち、隣のベッドでスゥ、スゥ、と眠るルナの方を見る。
心は数刻前が嘘であったかのように凪いでいる。
恐々としていたかと思えば悠然とした笑みを浮かべ、人の意見は黙殺するのに、それとは打って変わって、大事なものを扱うように触れる。
こんなにも穏やかな気持ちは初めてではないだろうか。
目を閉じる。瞼の裏に諦め続けた日々はもう見えない。
しばらくするとレオルドから規則正しい寝息が聞こえてくる。その口元は弧を描いていた。
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