閑話.とあるB級パーティーのリーダー
カレンが鞭で魔獣の横っ腹を打ち、体勢を崩した所を矢で仕留めた。
「ラッキーだったな!」
ノルバスが愛剣を肩に担ぎ、今日の獲物を品定めするように屈む。
ここ最近利用している狩場には十体近いホーンバッファローが群れを成していた。こいつらにはリーダーさえ倒してしまえば群れは瓦解、一斉に退いていく習性がある。統率するリーダーさえ見抜けば、後は御覧の通りだ。
「解体してさっさと帰りましょ」
「そうしようか」
雑談を交わしながら解体を進めていく。
これまでもずっと四人で分担して行ってきた作業だ。大した時間もかからなかった。
「…血の匂いが、してる」
「解体したからね。早く戻ろう」
荷袋に詰め込めない分は放置して狩場を去る。魔獣が匂いを追ってきてもこの肉が時間を稼いでくれるのだ。
暫く無言で魔の森を駆け抜ける。開けた草地が視界内に捉えられるほど浅場に戻ってきてようやく歩を緩めた。
「…ふぅ」
盾を背負うトスカが詰めていた息を吐き出した。
熊獣人の彼にはいつも多めに荷を運んでもらっていて、盾と防具を含めると相当な重量となる。
「大丈夫?」
「もう少し持つよ」
彼の荷から一塊を手に取る。それだけでも十分な重さがあった。突然戦闘に陥った際、タンクとしての役割を果たすには初動が遅れそうな重量だ。
「お金貯めて魔道鞄買わない?」
更にひとつ荷を自身の荷袋に放り込んで問いかけた。
小容量の魔道鞄ひとつでも今の僕たちには高額だ。しかし、毎度彼の厚意に甘えてばかりでは駄目だろう。
「何年先の話だよ!」
「それももちろん欲しいけど、先に装備でしょ」
僕の装備も含めてどの防具も武器も消耗が酷い。戦闘でも以前までは一太刀で絶命させられていた魔獣に追撃が必要になった場面も一度や二度ではなかった。手入れを続けて騙し騙し寿命を延ばして来た自覚もある。
それだけこれらが自分たちに馴染んだ装備であり、背伸びしてもまだ高価な品々であることの証明でもあった。
「…みんなありがとう」
「いいってことよ!」
「そうよ。お互い様だし」
ニカッと爽やかな笑みをトスカに向けて荷をいくつも背負うノルバスと軽めの荷を自身の荷袋に詰めるカレンがいる。
当たり前に仲間同士で支え合うその光景に頬を緩ませつつも、周囲の気配や音に神経を研ぎ澄ませた。みんなも警戒を解いてはいないが、ここはまだ森の中。万が一がある。
ようやく荷の整頓を終えて、呼吸を整え身軽になったトスカを先頭に森を抜けていく。
見晴らし良く程々に魔の森から距離がある、冒険者がよく利用する川辺。一年前では誰も居ないことが珍しい休憩所であったが、今や閑散としている。
長年冒険者たちによって踏み均された地面に荷を下ろして腰を落ち着かせた。
「さっきの話なんだけど。もうそろそろ今の武器を使い続けるのも限界だと思う。だから、街に戻ったら剣を買い替えよう」
「遂にか!楽しみだぜ!」
ノルバスが喜色を滲ませ歓声を上げた。
一か月前から装備について話し合い、順番も予算も既に決めてある。今日の報酬でその金額に届くはず。
「…あの話は、考えてくれたか?」
トスカの一言に場は静まり返った。が、なおも続けて言い募る。
「日に日に魔獣が増えてる。今はどうにかやれてるが、もしもがある」
自分を射抜くような真摯な彼の視線に僕はそっと目を逸らした。
この四人で不都合がある訳では決してない。ただ、危険な場面がなかったかというとそんなことは決してなかったという話だ。そして、それは最近目に見えて数を増加させている。
「…良い人がいれば、ね」
それでも、どうしてもこの話題が苦手だった。仲間を増やそうという提案が。
それを、いつも同じ台詞でいつも逃げていた。
「イヴァンの、条件が知りたい」
ただ、今回だけは逃がしてはくれなかった。
「…実力と、真っ当な性格かな」
抽象的で、何の中身もない。自分で言って苦し紛れ過ぎると呆れるほどだ。
だが、彼は追究しようとはしなかった。…いや。彼の性格上出来なかった、が正しいかもしれない。
僕達を包む沈黙を気持ちよくも不気味な音を奏でて吹く風が埋める。
「…が居たら……」
「居ない奴の話をしても意味ないよ」
ぽつりと落とされたカレンの呟きに、被せるような否定が僕から零れていた。
あいつは確かに強かったし、どんな時も迷うことなく最善の選択をした。
しかし、あいつはもう奴隷に成り下がった。
もう死んでるか、死んだほうがましな時間を過ごしているはずなんだ。
「そう、ね…」
「そうだよ。とにかく慎重に検討しよう」
彼女らもまた以前の扱いをされたくはないのか、疎らに同意を返してきた。
それにひとまず納得し、街への帰路に戻った。
皆さま、10万PVありがとうございます!!!
8月は知らぬ間に終わり、久しぶりに小説家になろうにログインするとなんかすごいことになってて(語彙力)…もう笑うしかなかった!
ようやく新章開幕!
ちなみに作者はこの四人が嫌いです!この話を書くことはもう決めていたんですけど、筆が進まず…遅くなりまして申し訳ございませんでしたぁー<(_ _)>!!!