閑話.ポテトの流儀
(ケンタウロス族対峙前)
現在、日付が変わろうという時刻だ。
三澄君達と作戦を詰めているんだけど、思った以上に時間が掛かっていて私はお腹が空いた。お腹が鳴かないように願うばかりであまり集中できない。救いなのは私の役目がある程度もう決まっている事だ。
「ねえ、腹減らない?」
「それはそうだけど、これが終わってから食べなよ」
「…お腹空いた人ー!」
控えめに挙手をした。晴明君とアーシャさんが両手をピシッと上げて主張している。
8人中3人。夜食休憩は多数決でなしだ。
思わずお腹を擦ってしまった。
「5だね!ご飯食べるまできゅ~け~!」
「屁理屈はいいから」
話を進めようとする三澄君の言葉とは裏腹に独自解釈でやる気をなくし、グテっとソファーに崩れ落ちる晴明君。
正直、休憩と言われると途端に力が抜ける。
「ルナ、厨房に行くぞ」
「う、うん」
「ちょ、勝手しないでくんない!?」
非難を無視して進むレオルドさんについていく。
「いいの?」
「俺も腹が減ったからな」
「レオルドさんも?」
「ああ。どう考えても長すぎんだろ」
レオルドさんは会議の長さに辟易としていたらしい。挙手しなかったのは単に面倒だったのと晴明君の性格を見越してのことらしい。
ただ、到着した厨房にはもう人がおらず、食事を摂りたいなら自分達で料理するようにと言われてしまった。
報告に部屋へ戻ると、未だに言い合うふたりがいて他のみんなは呆れるか無視していた。
「戻りました~」
「おかえり~ってあれ?僕のご飯は?」
「もうやってなかったぞ」
「嘘でしょ!?」
「分かったら続きを…」
「マリア!何か作って!」
「何故私ですの?」
「…もういいよ!誰か作って!それでさっさと食べて続きを話そうか!?」
三澄君は自棄になった。
でも、ひとつ言いたい。何でみんな人任せにするんだろう?
「三澄君も晴明君も料理できないの?」
「「できないよ!」」
そんなに自信満々に宣言することじゃないと思う。
「できる人ってどれくらいいますか?」
「はい」
「できますわ」
マリアさんと補佐官君だけらしい。冒険者や貴族の人達はできない人が多いけれど半数も居ないのか…。
「じゃあうまいのよろしくね!」
「作ってもらう側が言うセリフではありませんわ!」
「お願いします、マリア様ぁ!」
戦力外な人達を残して厨房へ向かった。厨房は王城の使用人分を調理だけあってすごく広い。王族の食事を用意する場所じゃないだけに最新のキッチン用品や魔道具は設置されていなかった。
「それで何を作りますの?」
「スープやパン粥、でしょうか。とはいえ、夜食と言えど八人前となると結構な量が必要でしょう」
「そう、ですね…でも、今日は軽食って感じの物が多かったからガッツリ食べたいって人もいるかもしれないです」
レオルドさんはほぼ間違いない。毎食お肉をたくさん食べるのに今日は時間がなくて普段の半分も食べてなかったから。
「それもそうですわね」
「でしたら、各自で何品か作るのはいかがでしょうか?これで口に合う合わないということもなくなるでしょう」
「いいんじゃありませんの?」
「私もそれでいいと思います」
「それでは時間は、ひとまず半刻としましょうか」
了解を告げて準備に取り掛かる。
一時間しかない中で何を作ろうかな。とりあえずフライドポテトが食べたかったからポテトを揚げている。
私は細めが好きだけど、他のみんながどうかは知らない。これは作る人の特権だと思う。
一応ソースにはケチャップとマスタードソースを準備した。某ハンバーガーチェーン店のマスタードソースが恋しいけど、無理なものは無理なので諦めよう。
「それが異世界の料理ですの?」
マリアさんが料理の手を止めて問いかけた。それに続いて補佐官君も中断して手元を覗いていた。
「は、はい。そうです。フライドポテトって言います」
「一度にこんなに沢山の油を使うなんて贅沢ですわね。それもただのじゃがいもに。こういう料理が多いのかしら…?」
「確かに揚げ物が嫌いな人はあまりいませんけど、そんなことはないですよ…?」
「それでは他にどのような調理法があるのでしょうか?」
「え、えぇ…?」
「知りたいですわ!セイメイったら何か物足りないと毎回いいますの!作ってあげてるのに文句言うなですわ!」
マリアさんは味にだけはとやかくうるさいのに、料理がまったくできない晴明君に鬱憤が溜まっているらしい。
「焼く・煮る・蒸す・炒める・茹でる・揚げる、とかですかね…あとは、うーん…」
「あとは何ですの?」
「えっと…だ、出汁を取るとか…?」
「出汁、とは?」
「えぇ…」
難しい質問をされてしまった。うまみ成分がたっぷり入った物で伝わるのかな?
結論として伝わらなかった。
なので、晴明君達同郷勢に後で理解できるまで尋ねるように言っておいた。流石にアミノ酸がどうのこうのと詳しく説明できる自信がなかったので。話し上手な二人なら分かりやすく教えてくれるはずだ。
マリアさん達の質問攻めに答えている間に10分以上時間が経っていた。
レオルドさんだけだったらパパッとステーキを焼いちゃうんだけど、それじゃあ他の人は重くて食べられない。
悩んだ末に手に取ったのは鶏肉だった。
まず、厚めに切った玉ねぎを透明になるまで火を入れて、一口大に切った鶏肉も一緒に炒める。焼き色が付いたらトマトピューレとお酒と臭み消しのローリエを加えて煮立たせて、最後に塩コショウで味を整えればトマト煮の完成。
これはお肉メインだけどトマトが入っているからギリさっぱり寄り。…多分。
でも、これじゃあ足りない気がする。
何か食材…あ、ソーセージある!これ焼こ。他に何かいいのあるかな~?
「作り過ぎじゃない?流石にさ」
「夜食にステーキにポテトって豪華だねぇ…」
目の当たりにした晴明君と三澄君が頬を引き攣らせていて、似たような反応が多く返って来た。喜色を滲ませている人もいるにはいるけれど。
私は結局ステーキを焼いた。でも、サイコロステーキにして食べやすくしたし、サシの入った部位ではなく赤身でレモンも添えてる。深夜にカップラーメンを食べるよりもずっとヘルシーで健康的だと思う。
それに、マリアさんや補佐官君が用意した料理はサラダやスープにパン粥といったこれぞ夜食!って感じのラインナップだったから、ある意味釣り合いは取れてる。
「いいじゃないですか!深夜にポテトにステーキ!背徳感も合わさっておいしいですよ!」
「それはそうだよね!じゃ早速いっただっきまーす!」
晴明君が山盛りポテトに手を伸ばした。揚げたてを収納してたから未だに熱々のはず。
「お行儀が悪いですわ!こちらにフォークがありましてよ!」
「これはこうやって食べるものだよ~」
「…そうなんですの?」
「ん?そうだね」
手掴みは馴染みがないらしい。
慣れた要領で三澄君もポテトを摘まんでいるのがみんなには衝撃的だったようだ。
「ポテトは手で食べないと美味しくないよ」
「私は手が汚れるのが嫌でお箸で食べることもありますけど…」
「それは邪道」
「ないわ~」
受け入れられなかった。
「とにかく!他にも食べる方がいるのですから、フォークを使って下さいまし!」
「…あたちはそちらのりゅうはにならうです!」
アーシャさんがポテトの山に手を突っ込んだ。
頂上からではなく、中腹辺りのポテトが何本も引き抜いたことでバランスを崩して皿から零れていく。
「わ、わわ…!?」
「アーシャやっちゃったね~」
「ちゃんと上から取らないと」
「最初に行って欲しかったです~!」
ポテトを中心にワイワイと賑やかだ。
あの中に混ざる勇気が私にはなかった。こっそりつまみ食いしてて満足もしている。それよりも補佐官君達が作った夜食が気になっていた。
「…おいしい?」
「ああ」
「悪くなくってよ」
「よ、よかったです…」
パン粥に目を向けるよりも先にテーブル端に追いやられてたサイコロステーキを取り囲む二人に目が行った。今もレオルドさんとエリスさんの口に吸い込まれてその量はもうほとんどない。
「パン粥下さい」
「ええ。どうぞ」
「ありがとうございます」
補佐官君に注いで貰ったパン粥を受け取って食べる。小さく切られているから根菜も堅パンも歯がいらないくらい軟らかく煮られていて、味付けもあっさりでとても優しい。
これが夜食だ。
「とてもおいしいです」
「それは良かったです」
晴明君達は未だにポテトで盛り上がっているし、レオルドさんとエリスさんはサイコロステーキを終えてソーセージを一心不乱に爆食している。
「この白いソース、美味しいですね。これも異世界の?」
「そうですね。マヨネーズって言います」
「マヨネーズ、ですか。不思議な物が多いのですね…」
私と補佐官君だけがほのぼのとした食事を楽しんでいた。
マヨネーズが気に入った補佐官君と晴明君に頼まれたマリアさんにマヨネーズの作り方を伝授することになるのは翌朝のことだった。
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