68.結成
最上級ポーション完成のご褒美に休日を貰った。
出来上がったのは計6本分。
そのうち2本分ずつがウィリアム様とレズリー様の手に渡った。手元に残った分はレオルドさんに持ってもらっている。私には回復魔術があるから。
今日は城下に繰りだして先日買えなかったお酒とアテ、それから食材や香辛料などを買い足す予定だ。残り少ないチーズや牛乳も出来れば欲しい。
「レオルドさんはどんなお酒が好きなの?」
大通りを歩きながら問いかけた。
お祭りが終わっちゃったからか前回よりも明らかに人通りが少なく、レオルドさんに掴まらなくても逸れることはない。路上販売の商品も見やすくて買い物が楽ちんだ。
「飲み慣れてるのはエールだな。あとはワインに蒸留酒」
「私にはおいしさが分かんないからおつまみも自分で選んでね」
定番は枝豆、からあげ、お刺身、かな?実現できそうなのは今の所枝豆くらい。醤油味じゃなければ、からあげも作れるかな?
お父さんは食事と一緒にお酒を嗜む人だったからザ・おつまみっていうのは食卓に並ばなかったなぁ。
家族のことを思い出しても以前ほど悲しくならない。
この短い期間で色々なことに巻き込まれたからだろう。
「エールは水みたいなもんだぞ」
「あれ、苦いよ?」
「どこがだ?」
あの苦味を楽しめてこそのお酒。それを理解できない私は子供舌なんだと諦めよう。
もしかしたら、将来美味しく感じる日が来るかもしれないし。
目星を付けていたお店を回ってレオルドさんの買い物を済ませていく。その合間合間で私が気になったところを伝えて寄ってもらった。お祭り期間に完売できなかった食品系が安く売っていて、お目当てのチーズが沢山売れ残っていたのはまさに幸運だった。在庫購入を即決したら、店主さんがさらに少しまけてくれた。
立ち寄った香辛料専門店にはなんと魚醤が売っていた!
本当に小さな小瓶でたったの二本だけ!鑑定で確認してすぐ買っちゃった。
我慢できなくて軒先で瓶を空けて匂いを嗅ぐと独特な臭いがして慌てて蓋を閉めた。
そういえば魚醤を使ったことがそもそもなかった…。
知っている名前に飛びついてやってしまった。在庫が二本しかなかったことが幸いだった。
「そんなに見境なく買い込んで金は大丈夫なんだろうな?」
「…」
「おい」
図星過ぎて明後日の方向へ背けた。
だって、香辛料は高い。ターメリックやコリアンダー、クミンはもちろん使用頻度の高い胡椒や塩も思ったより良いお値段がするのだ。
そこにチーズや野菜、果物なども王都価格だから、他の都市と比べても割高。
最近はずっと護衛依頼に従事していたので、換金もしておらず、売り捌いたポーション代も後日口座への振り込みだ。おかげで現所持金は黒パンを何個か買えるくらいしか残ってない。
呆れ顔のレオルドさんに換金を促されて冒険者ギルドへ向かう。
意外と嵩張るポーション類がなくなったとはいえ、私の収納に余裕がなくて困っていたのだ。整理整頓ができてレオルドさんの魔道鞄に入れてもらっている物もこっちに戻せるはず。
「久しぶりだぁ」
王都なだけあって冒険者ギルドも外観からして豪華な感じだった。でも、雰囲気はあんまり変わんない感じが少しチグハグで思わず懐かしむ声が零れた。
「ひと月ふた月だけどな」
「…毎日が濃すぎてもっと経ってると思ってた」
「言えてんな」
歩き出したレオルドさんに続いて中に入ると、内装は武骨で飾り気がなかった。本質はどの支部も同じなのだろう。
受付の列に並んで自分達の番を待ち、売却手続きを済ませていく。
収納から取り出した魔獣の数にギルド内がざわつき、ギルド職員が音を上げて一部買取を拒否されて。さらに査定にも結構な時間が必要らしい。
「飯でも行くか」
「賛成です!」
冒険者ギルドを後にしてレオルドさんが案内してくれたのは高級宿屋が経営するレストランだった。
まだお昼前だったから朝食用と昼食用のメニュー両方があって軽食も楽しめちゃう、まさに一石二鳥な絶妙な時間帯だったのだ。
「ラッキーだね!」
「そうだな。朝飯分はなくなり次第終了らしいぞ」
「そうなの?なくなる前にはやく注文しなくちゃ!」
店員さんに手渡されたメニュー表を隅々まで見ていく。
あっちでは写真付きでどんな料理か分かったり、名前からある程度想像できるんだけど、こっちでは所々に芸術品っぽい壮大なネーミングがされていてさっぱりだった。
どれにするか決めかねて店員さんを呼んでその人のオススメを注文した。
店員さんの説明からしてエビが出てくるんじゃないかと期待で胸がいっぱいだ。
「楽しみだね。すっごく説明がうまくて聞いてただけなのにお腹空いて来ちゃった」
「使われてる食材聞いて腹減るか?」
「えぇ?どんな味がするのかなとか考えてたらなんかお腹空かない?」
「ルナってあんまり食えない癖に食い意地張ってるよな」
「ふふん!誉め言葉だよ。日本人はね、悪食って外国の人に言われるくらいなんだから」
「それ褒めてないだろ。…それはそうと。護衛依頼どうすんだ?」
レオルドさんが問いかけた。さっきまでの緩い雰囲気が固くなった気がする。
決断を先延ばしにしたから今後の方針を考えられなくてストレスだったのかも。私の意見だけでも早めに伝えておけばよかった。
「ドラスティア国に行ってみたいなって思ってるけど、どうかな?」
「良いと思うぞ」
「ホント?決まりだね」
「まだレズリーに付き合わないといけないかと思うと辟易するがな」
「そうなの?とっても仲良しに見えるけど…?」
「どこがだ!」
レオルドさんが纏う空気感が元に戻った。結論を委ねられるのも大変だけど、委ねる側も辛い部分があるんだろう。
任せてくれるのは嬉しくて難しいけれど、次はもっとちゃんとできるように頑張ろう。
食事を終えて冒険者ギルドに戻ってきた。
久しぶりに食べたエビはプリップリで、甘くてすごくおいしかった。この世界にも甲殻類がいて海産物を食べる習慣があるのが嬉しい。
記憶にあるエビ味を思い出しつつ、受付嬢さんに呼ばれるのを待つ。呼び出しに応じてカウンターに向かうと、さしたる問題もなく精算までを終えた。
「金は俺とルナの口座に等分で頼む」
「レオルドさんの方が多く持ってた方がいいと思うよ?普段の支払いもしてもらってるし」
「それはそれ、これはこれだ」
報酬の配分で揉める人もいるからこう言ってくれているのかも。冒険者としても誰かと組むにしても経験豊富なレオルドさんの意見に従った方がいいよね。
お金はその時々で渡そう。
「失礼ですが、お二人はパーティーを組まれていらっしゃらないようですからこの機会にいかがでしょうか?パーティー申請を行って頂きますとパーティー口座の開設もできますから金銭問題が起きにくく便利になるかと」
パーティー!私が、レオルドさんと!
「パーティー組みたいです!」
前のめりに希望を口にすると、受付嬢さんが微笑ましいと言わんばかりの笑みを浮かべた。
ちょっと恥ずかしい。
「じゃあ頼む。金の半分をそっちの口座で、残りを俺達二人の個人口座に等分しといてくれ」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
受付嬢さんが私達のギルドカードを翳したり、何かの魔道具に打ち込んだりしていく。
「ありがとうございます!嬉しい!」
「はいはい。パーティー名はどうするんだ?」
「お任せします!」
「了解。文句言うなよ」
「言わないよ!」
パーティーの名前なんかで文句を言うもんか。だってパーティーだよ、パーティー!
組めるってだけでこの場で飛び跳ねたくなるくらい嬉しいし、歩き出したらスキップしてしまいそう。
しかも、相手は頼もしいレオルドさん!これで文句なんて言ったら罰が当たっちゃう。
「お待たせ致しました。パーティー名はいかが致しますか?」
「『アルカナ』で」
「かしこまりました、『アルカナ』ですね。……こちらのギルドカードお返し致しますね」
「ありがとうございます!わぁ…!」
これまでのギルドカードに『アルカナ』の文字が刻まれている。
視る人にとってはたったそれだけかもしれないけれど、私にはキラキラして見える。
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